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52話 犯すための行動だったとしたら?
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「カイ、聞きたいことがあるんだけどさ」
「うん、なに?」
「……もしかして、アルウィンもその一人なの?」
「一人って?」
「……あの教会でやられている、シスターたちのこと」
教会に向かっている途中、クロエは小声でその質問を投げてきた。
横を向くと、ずいぶんと沈んでいる彼女の顔が見える。無理もないはずだ。クロエはカルツが苦手なだけで、他の二人とは仲良くやっていたから。
そんな過去の仲間が、男たちの慰み者にされていたかもしれないなんて。誰だって容易く信じられない話だろう。
「いや、大丈夫だよ。俺が知っている限り、彼女にそんな過去はなかったし……なにより、アルウィンは特殊だからね」
「特殊って?」
「あの子はこの帝国でもっとも神聖魔法の才能がある人だよ。教会の立場でも、ただのおもちゃとして扱うのはもったいなかったんじゃないかな」
「じゃ、その神聖力がなかったら……」
「…………」
俺は答えをせずに、マントを被ったまま黙々と教会に向かう。
ゲームのシナリオ通りだと、確かにアルウィンにそういった暗い過去はなかった。むしろ、すくすくと成長して最終章辺りでは聖女として覚醒する大事なキャラクターなのだ。
だけど、ゲーム内での彼女は教会の真相についてはなにも知らないみたいだった。当たり前かもしれない。
教会の地下にあんな施設があるだなんて、俺さえもはっきり知らなかったのだ。
俺もただサブクエストの内容の一端を思い出して、もしかしたらと質問しただけだから。
「……気持ち悪い」
俺と手を繋いでいるニアが顔をしかめる。赤い目を隠すために目隠しはしているものの、その怒りがありありと伝わってきた。
理性的に考えて、今俺たちがやっていることは間違っていると思う。教会で暴れたら悪魔の正体がバレるかもしれないし、リエルにだって被害が及ぶかもしれない。
……でも。こんなことを黙認するなんてさすがにイライラする。何人かは殺すつもりでいた。
人の尊厳を踏みにじんで弄んだなら、それ相応の対価を支払わなきゃだし。
なによりも、ニアの言う通り気持ち悪いから。
「あの、カイ」
「うん?」
「その……」
珍しく、クロエは言いよどんで目をあちこちに転がせていた。その反応を見て、俺はぼそっと聞いてみる。
「もしかして、アルウィンが気になるの?」
「……やっぱり分かる?」
「まあ、なんとなく。昔の仲間だったしね」
「……ブリエンとアルウィンは、普通にいい人たちなのよ」
クロエははあ、と大きなため息をつきながら言葉を続ける。
「まあ、ブリエンは人間じゃなくてエルフだけど。とにかく、私がパーティーを抜けたのってほとんどカルツのせいだし、二人とは仲良くやってたからさ」
「うん」
「……特にアルウィンは、最初から私のことけっこう気にしてくれたから……我儘かもしれないけど、正直に言うと助けてあげたいの」
「……そっか」
「あの子は純粋だから、なおさら真実を知るべきだと思うんだよね。現実に目を逸らしていても、いずれは知ることになるだろうし」
「まあ、それはそうだよね」
アルウィンが教皇の本性を知るのは確定事項だ。他でもない俺が、教皇の本性と教会の闇を暴いて帝国民に知らせるつもりでいるからだ。
……箱入り娘に近い彼女には残酷すぎるけど、仕方ないか。どのみち真実を知ることになるなら、早い方がいいだろうし。
「いいよ、もし教会にアルウィンがいたらの話だけど」
「うん。もしアルウィンが教会にいなかったら、元通りに十字軍たちの宿を襲って、地下にいる女の子たちを助けましょう」
「でも、アルウィンの居場所は知ってるの?俺はけっこう記憶が曖昧だけど……」
「ああ、それなら問題ないよ」
クロエは苦笑を浮かべながら、昔の記憶をたどるように空を見上げる。
「あの子、教会にいる時はほとんど祈り部屋にいるって言ってたから」
空にはやや、雲がかかっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……………あ、あなたは!?」
「しーっ。誰かにバレたらどうするの」
クロエの予想は当たったらしく、彼女はアルウィンと共に俺と合流した。
教会からやや離れている、古びた木造建物の中。懺悔室や祈り部屋がいっぱい並んでいるところで、俺は人差し指を唇に当てる。
「あ、悪魔が、どうしてここに……!」
「警備兵たちに簡単な精神操作をかけたんだ。殺してはいないよ?まだね」
「…………………………っ!」
「そのままにして」
俺の言葉が終わると同時に、アルウィンは歯を食いしばって魔法を駆使しようとする。
しかし、目隠しを外したニアが先に手を上げて、彼女の行動を防ぐ。
「カイが傷ついたら、私はあなたを許さない」
「………」
「だから、お願い。カイを傷つけないで。私、あなたのことを傷つけたくない」
「……………………」
ようやく理性が戻って来たのか、彼女は俯いてごめんなさいと、謝罪の言葉を述べる。
まあ、こうなるのが当たり前だろう。彼女の立場からしたら、俺たちは人類の敵でもっとも遠ざけるべき悪だから。
「アルウィン」
「……なんでしょうか」
「真実を知るために、ここに来たんだよね?」
真実、という言葉にアルウィンの目が見開かれる。俺は淡々と、言葉を並べていく。
「今から見せてあげる。この教会の闇と、教皇の醜い本性をね」
「………み、醜いだなんて!教皇様はそんな方ではありません!あの方は、私を―――」
「引き取ってくれたね。孤児の君に居場所を与えて、魔法を教えて、ここまで育ててくれたんだから。その過去を否定したいわけじゃないよ」
「……ど、どうしてあなたがそれを?」
「色々あってね。まあ、でもさ……」
俺は言葉尻をやや伸ばしてから、彼女にとって衝撃であるはずの言葉を投げる。
「……それが、君を性的に弄ぶための行動だったとしたら?」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぇ?」
「君が女の子だから、君が昔から可愛かったから、教皇が引き取ったことだとしたら?」
「………………………………………………………………………………………」
言葉の意味が理解できなかったのか、もしくは理解をしたくなかったのか。
アルウィンはただただぼうっと、俺を見つめているだけだった。彼女の隣でクロエが苦しそうに俯く。
それでも俺は、決定打となる言葉を投げつけた。
「君に神聖魔法の才能がなかったら、君は今頃……犯されてたはずだよ。十字軍や、教皇に」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………な、にを」
「その証拠を、今から見せてあげる」
言葉だけじゃ絶対に納得しないだろう。正直、今のアルウィンの反応を見ると言わない方がよかったか、と後悔する気持ちもまた湧いてくる。
だって、あまりにも酷すぎるのだ。頭でも強く打ったかのように動きが止まっていて、ただただぼうっとしていて。
……今の彼女にとっては、やや衝撃的すぎる話だったかもしれない。だけど、ここまで来て引き返すわけにもいかなかった。
「クロエ、アルウィンをお願い」
「うん」
「今から、この4人で真実を確かめて行こう」
俺は体内の魔力をやや湧き上がらせながら、アルウィンを見つめる。
「絶対に、君が望んでいないはずの真実を」
「うん、なに?」
「……もしかして、アルウィンもその一人なの?」
「一人って?」
「……あの教会でやられている、シスターたちのこと」
教会に向かっている途中、クロエは小声でその質問を投げてきた。
横を向くと、ずいぶんと沈んでいる彼女の顔が見える。無理もないはずだ。クロエはカルツが苦手なだけで、他の二人とは仲良くやっていたから。
そんな過去の仲間が、男たちの慰み者にされていたかもしれないなんて。誰だって容易く信じられない話だろう。
「いや、大丈夫だよ。俺が知っている限り、彼女にそんな過去はなかったし……なにより、アルウィンは特殊だからね」
「特殊って?」
「あの子はこの帝国でもっとも神聖魔法の才能がある人だよ。教会の立場でも、ただのおもちゃとして扱うのはもったいなかったんじゃないかな」
「じゃ、その神聖力がなかったら……」
「…………」
俺は答えをせずに、マントを被ったまま黙々と教会に向かう。
ゲームのシナリオ通りだと、確かにアルウィンにそういった暗い過去はなかった。むしろ、すくすくと成長して最終章辺りでは聖女として覚醒する大事なキャラクターなのだ。
だけど、ゲーム内での彼女は教会の真相についてはなにも知らないみたいだった。当たり前かもしれない。
教会の地下にあんな施設があるだなんて、俺さえもはっきり知らなかったのだ。
俺もただサブクエストの内容の一端を思い出して、もしかしたらと質問しただけだから。
「……気持ち悪い」
俺と手を繋いでいるニアが顔をしかめる。赤い目を隠すために目隠しはしているものの、その怒りがありありと伝わってきた。
理性的に考えて、今俺たちがやっていることは間違っていると思う。教会で暴れたら悪魔の正体がバレるかもしれないし、リエルにだって被害が及ぶかもしれない。
……でも。こんなことを黙認するなんてさすがにイライラする。何人かは殺すつもりでいた。
人の尊厳を踏みにじんで弄んだなら、それ相応の対価を支払わなきゃだし。
なによりも、ニアの言う通り気持ち悪いから。
「あの、カイ」
「うん?」
「その……」
珍しく、クロエは言いよどんで目をあちこちに転がせていた。その反応を見て、俺はぼそっと聞いてみる。
「もしかして、アルウィンが気になるの?」
「……やっぱり分かる?」
「まあ、なんとなく。昔の仲間だったしね」
「……ブリエンとアルウィンは、普通にいい人たちなのよ」
クロエははあ、と大きなため息をつきながら言葉を続ける。
「まあ、ブリエンは人間じゃなくてエルフだけど。とにかく、私がパーティーを抜けたのってほとんどカルツのせいだし、二人とは仲良くやってたからさ」
「うん」
「……特にアルウィンは、最初から私のことけっこう気にしてくれたから……我儘かもしれないけど、正直に言うと助けてあげたいの」
「……そっか」
「あの子は純粋だから、なおさら真実を知るべきだと思うんだよね。現実に目を逸らしていても、いずれは知ることになるだろうし」
「まあ、それはそうだよね」
アルウィンが教皇の本性を知るのは確定事項だ。他でもない俺が、教皇の本性と教会の闇を暴いて帝国民に知らせるつもりでいるからだ。
……箱入り娘に近い彼女には残酷すぎるけど、仕方ないか。どのみち真実を知ることになるなら、早い方がいいだろうし。
「いいよ、もし教会にアルウィンがいたらの話だけど」
「うん。もしアルウィンが教会にいなかったら、元通りに十字軍たちの宿を襲って、地下にいる女の子たちを助けましょう」
「でも、アルウィンの居場所は知ってるの?俺はけっこう記憶が曖昧だけど……」
「ああ、それなら問題ないよ」
クロエは苦笑を浮かべながら、昔の記憶をたどるように空を見上げる。
「あの子、教会にいる時はほとんど祈り部屋にいるって言ってたから」
空にはやや、雲がかかっていた。
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「……………あ、あなたは!?」
「しーっ。誰かにバレたらどうするの」
クロエの予想は当たったらしく、彼女はアルウィンと共に俺と合流した。
教会からやや離れている、古びた木造建物の中。懺悔室や祈り部屋がいっぱい並んでいるところで、俺は人差し指を唇に当てる。
「あ、悪魔が、どうしてここに……!」
「警備兵たちに簡単な精神操作をかけたんだ。殺してはいないよ?まだね」
「…………………………っ!」
「そのままにして」
俺の言葉が終わると同時に、アルウィンは歯を食いしばって魔法を駆使しようとする。
しかし、目隠しを外したニアが先に手を上げて、彼女の行動を防ぐ。
「カイが傷ついたら、私はあなたを許さない」
「………」
「だから、お願い。カイを傷つけないで。私、あなたのことを傷つけたくない」
「……………………」
ようやく理性が戻って来たのか、彼女は俯いてごめんなさいと、謝罪の言葉を述べる。
まあ、こうなるのが当たり前だろう。彼女の立場からしたら、俺たちは人類の敵でもっとも遠ざけるべき悪だから。
「アルウィン」
「……なんでしょうか」
「真実を知るために、ここに来たんだよね?」
真実、という言葉にアルウィンの目が見開かれる。俺は淡々と、言葉を並べていく。
「今から見せてあげる。この教会の闇と、教皇の醜い本性をね」
「………み、醜いだなんて!教皇様はそんな方ではありません!あの方は、私を―――」
「引き取ってくれたね。孤児の君に居場所を与えて、魔法を教えて、ここまで育ててくれたんだから。その過去を否定したいわけじゃないよ」
「……ど、どうしてあなたがそれを?」
「色々あってね。まあ、でもさ……」
俺は言葉尻をやや伸ばしてから、彼女にとって衝撃であるはずの言葉を投げる。
「……それが、君を性的に弄ぶための行動だったとしたら?」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぇ?」
「君が女の子だから、君が昔から可愛かったから、教皇が引き取ったことだとしたら?」
「………………………………………………………………………………………」
言葉の意味が理解できなかったのか、もしくは理解をしたくなかったのか。
アルウィンはただただぼうっと、俺を見つめているだけだった。彼女の隣でクロエが苦しそうに俯く。
それでも俺は、決定打となる言葉を投げつけた。
「君に神聖魔法の才能がなかったら、君は今頃……犯されてたはずだよ。十字軍や、教皇に」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………な、にを」
「その証拠を、今から見せてあげる」
言葉だけじゃ絶対に納得しないだろう。正直、今のアルウィンの反応を見ると言わない方がよかったか、と後悔する気持ちもまた湧いてくる。
だって、あまりにも酷すぎるのだ。頭でも強く打ったかのように動きが止まっていて、ただただぼうっとしていて。
……今の彼女にとっては、やや衝撃的すぎる話だったかもしれない。だけど、ここまで来て引き返すわけにもいかなかった。
「クロエ、アルウィンをお願い」
「うん」
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