トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

文字の大きさ
62 / 111

62話  勇者の末路

しおりを挟む
冷たい風が吹きぬく。クロエの真面目な声が響いて、カルツはショックを受けたような顔をしていた。


「なっ……」
「なに?私を殺そうとしたんでしょ?こうなるのも当たり前じゃん」
「く、クソが……!!よもやそこまで堕ちたのか、クロエ!!」
「……はっ、ふざけたこと言わないで」


クロエは眉根をひそめながら、心底不愉快と言わんばかりにカルツを睨む。


「私を信じずに始末しようとしたのは、どこの誰だっけ?」
「……………」
「私、もうあんたの仲間じゃない。私の仲間は後ろにいる二人と、屋敷にいるある女の子しかないの」
「………ははっ、あはははっ!!」


カルツは空虚な笑い声をあげる。かれこれ長い間一緒にいた仲間に、本格的に殺意を向けられているのだ。

それは、選民思想に毒されているヤツが簡単に受け入れられる話ではなかった。


「どうしてだ……?なんで?なんでこうなる?ははっ、あははははははは………」


自分がクロエにどんなことをしたのかは綺麗さっぱり忘れて、今の状況だけに悔しがる。

自分がやってきたことを客観的に見れない、自惚れているやつらによくあるパターンだ。クロエは呆れてため息をついた後、俺に振り返る。


「いいよね?」
「うん」


俺は直ちに頷いて、クロエに語り掛ける。


「いいよ、やっちゃっても」


もう、勇者を生かしておく必要はないから。

その言葉を聞いたとたん、クロエは駆け出す。一瞬でヤツの首にナイフを刺し込むつもりで。


「―――――――させるかぁああああああ!!」


しかし、ヤツはもはや理性を失ったらしく、体中のすべての魔力を暴走させてクロエを狙った。危機を察知したクロエは、間一髪で剣をよけながら距離を取る。

俺は驚いて、目を丸くしてしまった。まさか、ヤツがクロエの動きに追いつくほどの実力を持っているなんて。

なるほど。毎日のようにダンジョンを出入りした奇行は、決して無駄ではなかったってことか。

ヤツは片手に持った聖剣で再び姿勢を取り、今度は自分から駆け出す。


「死ね、裏切り者!!」
「―――はっ」


しかし、クロエは暗殺の天才だ。戦闘時には誰よりも冷静に判断する逸材でもある。

そんな彼女が、理性を失ったカルツを相手に負けるはずがない。

無造作に放たれる黄色いオーラ―をサッと避けて、クロエは懐からナイフをもう一本取り出す。

その小さなナイフを投擲すると、カルツは素早い反射神経でそれを弾き返した。

そして、次の瞬間。


「くっ――くぁあああああ!?」


投擲されたナイフに気を取られているほんの一瞬で、クロエはカルツの懐に入ってナイフを振るった。

肩にできあがる刺傷。血が噴き出し、カルツは悲鳴を上げながら後ろに下がろうとする。とっさに襲って来た苦痛と困惑が、生きようとする本能的な動きを導き出したのだ。

しかし、そんな甘い動きを見逃すクロエじゃない。


「くっ!?う、うぐっ………!!クロエぇえ!!!」
「――――シャドウ・ダンシング」


勝機を掴んだと思った瞬間、クロエは怒涛のごとくナイフを振るっていく。文字通り、本物の舞を見ているような気分だった。

両手のナイフ刺しこみ、振るい、時々反撃してくるカルツの攻撃を避けてヤツを蹴り飛ばす。


「くはっ!?」


そうやって飛ばした分、距離を詰めてまたいくつものの傷を刻んでいく。一般人の目には絶対に追いつけることのできない、まさしく影に溶け込んだような神業だった。

そして、クロエの成長を全く知らないカルツは、その嵐に飲まされるしかなかった。

肩が刺され、腕が斬られ、首を狙うナイフをどうにか聖剣で防いだものの、その隙に足から血が出る。

ダンジョンのモンスターとは全く違う戦い方に、カルツはかなり困惑しているようだった。ヤツの冷静さが血に滲んでどんどん薄まっていく。


「ふぅ………ふぅ……」
「くはっ、あがぁ………!!くうっ!!」


約30秒間、すべての魔力と精神力を込めて行われた神業。その曲芸はカルツの体をボロボロにすることはできたけど、クロエにもかなりの負担をもたらしていた。

元々、正面で戦う仕方はクロエには向いてないのだ。そして、クロエが若干ペースを落としたその隙に、カルツはありったけの魔力を聖剣に込める。

徐々にかさばる黄色いオーラ―。それは、クロエを殺すつもりだけじゃなく、後ろにいる俺とニアまで飲み込める広範囲なスキルだった。


「この場で、全員………殺してやる!!」


ヤツの判断は理解できる。実際に最善だと思った。

魔力を集中させてクロエだけを狙ったら、たとえ彼女を倒したとしても俺たちに負けるはずだし。

また、すべてを込めたスキルをクロエが躱したりしてたら、正にすべてが終わるから。避けられないよう、規模を大きくして3人を一瞬で殺そうとしているのだろう。


「カイ、クロエが危険かも」
「…………」


聖剣のオーラ―は激しく渦巻き、やがて巨大な球体になっていく。

この期に及んでも、またそれほどの魔力を出せるなんて。やっぱり才能だけはあるんだなと思いつつ、俺はその球体がどんどん巨大になっていくのを見つめた。

ニアの言う通りだ。あれはクロエが避けられるような規模の攻撃じゃない。

カルツがすべての魔力を消費した分、威力も膨大だろう。しかし―――


「いや、クロエを信じよう」


俺は懐から何かを取り出すクロエを見つめながら、静かに言った。


「クロエは、そんなに弱くないから」


そして、カルツは目を剥きながらクロエじゃなく、俺を見つめてくる。


「死ね、悪魔!!死ね、裏切り者!!死ね、死ね――――邪魔者は全員、死にやがれぇええ!!」


そのまま、俺たちに魔力を放とうとした瞬間――――

ザクッ、と。

爆発音とは全く違う鮮明な音が、空間を切り裂いた。


「……………………………………………………………………………………は?」


カルツは見つめる。一瞬で目の前で消えていく光の粒子と、クロエが持っているペンダントを。


「なん…………………だ?」


さっきまですべてを覆いつくす勢いだった球体は、チリになって完全に消えてしまって。

カルツはその時になってようやく、地面に落とされている聖剣を見つめる。そして――――


「な、な、なっ……………!!!」


綺麗に切り落とされている、自分の腕まですべて、確認してしまう。

カルツは驚愕して、ただただ変な声を上げるしかなかった。


「くっそぉ………!!なんだ、なんなんだ!!てめぇら、なんなんだぁああああああああああ!!」
「…………」


クロエは静かに、目の前で狂っていくカルツを見つめる。アーティファクトの能力だった。

空間を繋ぐアーティファクト、シュペリアキューブ。

俺たちまで巻き込まれると判断した瞬間、クロエはアーティファクトに魔力を流し込んで空間を繋いで、ナイフを振るったのだ。

すべての希望が踏みにじられたカルツは、悲鳴に似た奇声を上げる。

……4年間、俺が操作してきたキャラではあるが。

もう、この辺で終わりにするべきだと思った。


「クロエ」
「うん」


クロエがナイフを握り直して、カルツに近づく。死が襲ってくるのを直感したカルツは、もう片方の手で聖剣を持って対抗しようとした。

しかし、次に広がった光景を見て。


「………………………………え?」
「な、な、な…………!!なんでだ!!なんで!!!」


クロエを含んだその場にいる全員が、驚愕してしまった。

地面に落ちた聖剣が、動かないのだ。カルツがいくら持ち上げようとしても、魔力を流し込んでみてもなんの動きを見せないのだ。


「なんで、なんでだ!!なんでぇえええええ!!!」
「……………そっか」


カルツはもはや、地面に倒れたまま片方の腕で、精一杯聖剣を動かそうとする。

でも、できなくて。いくら足掻いても、いくら力を込めても、聖剣はびくともしなくて。

それからや溢れるカルツの悲鳴を聞いて、俺は直感する。

―――――こいつは、資格を失ったのだと。


「あ、あああ……………あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


痛烈な叫び。もはや涙まで流しながら、カルツはなんとか聖剣を持ち上げようとする。


「……………………」


クロエはゆっくりと、昔の仲間に歩み寄った。堅苦しいところはあっても、最初はそこそこ仲間想いだった男。ずば抜けた才能を持っていた男。

しかし、その仲間はもうどこにもいない。

ヤツは周りに自分の信念を押し付け、クロエを疑って勝手に殺そうとして、俺たちが親切に見せてあげた現実さえすべて正当化して、忘れようとした。

勇者として必要な成長と熟慮が、明らかに足りなかったのだ。

その結果、ヤツは極端な思想と正義感に狂って、最後には勇者としての資格を失ってしまった。

人間としての資格までも、失ってしまった。


「ああ、あぁあああ……どうして、なんでだ……ああ、あああああああああああ………………………」
「…………さよなら、カルツ」


クロエは深呼吸をした後、地面にはいつくばっているヤツの首に向かって、ナイフを投げる。


「これは因果応報だよ、すべて」


鋭いナイフの先は、カルツの首を的確に突き抜けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...