トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

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63話  すべての復讐

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真夜中の森の中。教会の付近にあるこの森を、一人の男が必死に走り抜けていた。

その男の名前はヒムラー、帝国の教皇を務めていた男だった。


「はあ、はあっ……!!クソ、クソぉぉおおお!!」


すべてが終わった。

ニアの魔法により十字軍が潰される光景を見た瞬間、彼は狂人のごとく部屋から飛び出していた。

ほんのりだけど確かに存在はしていた希望は消え去り、絶望だけが漂う。途中で転んで神聖な礼服がボロボロになっても構わず、彼は逃げ続けた。


「おのれぇ、皇子……!くそったれな貴族どもめ!!この俺を見捨てるなんて……!!」


分かってはいる。さっき彼が見た悪魔たち―――影の力は絶対的なものだった。たとえ帝国軍の支援を受けたとしても、勝つことは不可能に近い。

だけど、勝てたかもしれないじゃないか。先日、こっそりと言ってくれた黒魔法師たちを派遣していれば、勝てたかもしれないのに。

追い込まれた精神の中では憤怒しか生み出されない。彼は何回も、何十回も皇室と皇子に対する悪態を吐きながら、足を動かせた。


「へえっ、ひぃっ……はぁ、はぁあ……!!くっ、そぉお………ゲホッ、うぉおお………」


息が詰まっても、涙が出ても足を止めることはできない。これが無意味な抵抗かもしれないが、やつらがカルツに視線を奪われている今なら―――無事に逃げ切れるかもしれないと、教皇は信じていた。

逃げた後はどうする?帝国を出て行くのか?そんな悠長なことを考えられるほど、彼は余裕じゃなかった。

根底から湧き上がる恐怖。無様でも生き延びようとする生存本能が、彼を支配しているのだから。


『絶対に、絶対に殺される……!!』


今まで悪魔―――カイが見せてくれた冷酷さを考えたら、無理にでも走らずにはいられない。教皇は生きたかった。数多くの人々の尊厳を踏みにじんで弄んできたとしても、生きたかった。

幸い、そんな彼の願いに応えるように、遠くから明かりが見える。たぶん、狼煙の明りだ。


「おお、おおお……!!!」


ずっと怯えていた教皇には、まるで救世主のように感じられる光だった。自分がどんな方向で走ってきたのかは覚えてないけど、この先に民家があるのは間違いないだろう。

そこでポーションをもらって、一刻も早くこの国を脱出するのだ。大丈夫。僻地にでも行って静かに暮らしてたら、もしかしたら助かるかもしれない。

膨らんだ希望を抱えて、教皇は駆け出す。間もなくして明りがより激しくなり、数十人が集まっている姿が見えた。


「た、助けてくれ!!俺はヒムラー、この国の教皇だ!!今、悪魔が教会の十字軍たちを虐殺していて――――」


それから森を出て、並んでいる人々の顔を確認した瞬間。

教皇は言葉を止めて、ついポカンとと口を開くしかなかった。


「……………」
「……………」
「……………」


物騒な武器を持つ数十人の人たちが、嫌悪に満ちた顔で自分を見つめているのだ。

しかし、それはまだ序の口に過ぎない。彼が本当の意味で驚愕した理由は、正面にある3人の少女たちのせいだった。


「……あなたの罪は、許されませんよ、教皇」


左に立っている少女の名前はイェニ。

鍛冶師であるジンネマンの娘で、偽りの聖水の犠牲者で、ついこの間まで病状に伏していた少女であり。


「火あぶりにされる準備は、いい?」


右に立っているリエルは、母親を火あぶりにされた時から復讐だけに執着しながら生きてきた少女だった。

そして、なにより――――


「……ヒムラー様」


真ん中に立っている少女の顔を見て、教皇はついぱたんと倒れてしまった。

だって、その少女は自分が引き取って育てた、元々なら自分側にいるべき人間だったから。


「最後のチャンスさえ、台無しにしたんですね」
「あ…………アルウィン!!!!」
「謝罪するべきだったのに。ちゃんと、皆様に謝罪をするべきだったのに……あなたは、自分の悪をもっと大きな悪で隠そうとしましたね」
「ど、どうしてそこに……!な、なんで君がここにいるんだ!!ていうか、この人たちは……!」
「レジスタンスだよ」


リエルは静かに言いながら、口角を上げる。


「あんたの教会や、帝国の蛮行によって絶望した人たちの集まりなの」
「れ、レジスタンス………!!き、貴様ぁああ!!」
「これがなにか分かる?教皇」


悪意を向けられているにも関わらず、リエルは懐からある瓶を取り出して振って見せる。普段の気の小さい彼女からは想像もできないほど、冷酷な仕草だった。

教皇は、その瓶の中にある液体の色を見てから答えた。


「ぱ、パワーエリクサー!なんでそれが今―――――――――――――ま、まさか……!?」
「うん、そうだよ」


それから、リエルはふうと深い息をついてから空を見上げる。

雲一つない、澄み渡った綺麗な夜空。

その下で、今から拷問が始まる。


「ここにいる人のすべての復讐が終わるまで、あなたは死ねないよ。だって、このポーション―――けっこう、効果いいんだもん」
「あ、あぁぁ…………!!」
「覚悟して、教皇」


後ろにいる何十人の人たちが、徐々に教皇に近づく。


「ぐ、ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


凄絶な悲鳴が響き渡る中、リエルの声が鮮明に鳴り響いた。


「今まで私たちが受けてきた苦痛の分、全部返してあげるから」


それは紛れもない、復讐者としての発言だった。
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