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93話 運命に抗うな
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「……あるべき姿、か」
この世界を、元のあるべき姿に案内する。
それを聞いて、俺は反射的に周りの風景に目を向けた。ニアが血の涙を流しながら泣いている。忌々しいカルツの顔も見えた。
「………………………………………………………………」
拳が震える。たとえ幻覚だとしても、ニアがあんな風に悲しむ姿を見てなにも感じないはずがない。
「……お前なら知っているだろうな」
俺は振り返って、未だに岩の上に座っている怪物に目を向ける。
「お前は、カルツが主人公として活躍するのを本来のあるべき姿だと言った。なら、その世界線の未来はどうなる?」
「……ふうん」
「運命を知っているんだろ?どうなるんだよ、怪物」
ヤツはこの世界に属する存在じゃない。それだけはなんとなく感じ取ることができた。
だから、俺が転生したせいで知らないゲームのシナリオ――その結末さえきっと、知っているだろう。
そう踏んで質問したと言うのに、怪物は薄ら笑みを浮かんでから突拍子もないことを言ってきた。
「化け物じゃない。俺のことは案内人と呼べ」
「……案内人?」
「そうだ、俺はこの世界の案内人。これからはそう呼ぶように………それと、さっき質問してくれた未来のことだが、お前は既に見てたぞ?」
「………は?」
「最初に見た景色を思い出してみろ。なにが燃えていた?」
その言葉を聞いて、自然と目が見開かれる。
まさか、それが元の結末だと言うのか―――そう言うも前に、案内人が指を鳴らしてまた周りの風景を変える。
それは、最初に見た風景だった。一匹の獣みたいなモンスターが暴れて、街中のすべてが燃えていて、人々が悲鳴を上げて。
正に、すべてが滅んでいく―――阿鼻叫喚の景色。
「涙の魔女を倒した勇者カルツは、後々帝国の騎士団長になる」
周りのすべてが燃えている中、怪物は淡々とした口調を垂らした。
「しかし、ヤツの行き過ぎた信念と激しい思い込みは、段々と帝国内でも反感を買うようになった。そして、ヤツは気づくことになる――――自分と仲が良かった教皇が実は強姦魔で、信じていたゲベルスと皇子は人体実験をしている、ゲス野郎どもだってことを」
「………………」
「それを全部知っていてもなお、ヤツは黙認することを選んだ。騎士団長の権限ですべての情報を遮断し、仕方のないことだと事を正当化させようとしたんだ。しかし、他の勇者パーティーのメンバーはそうは思わなかった」
またもや案内人が指を鳴らすと、赤く燃えている風景が生い茂っている緑に変わった。
その場所は、森の中だった。そして、その空間で激しい戦いをしている二人―――ブリエンとアルウィンが見えてきた。
自分たちのリーダーである、カルツを相手に。
「残りの二人は、不意を見過ごそうとするカルツに強く反発し、その情報を市民たちに全部ばらまいてしまった。そのことに激怒したカルツは、二人を反逆者として見なし、更生させようとしたが――――」
ゲベルスと皇子の計画によって、すべてが終わってしまった。
そこまで言って、案内人はゆっくりと流れる景色を見守る。間もなくして、二人と戦っていたカルツが急に跪いた。
なんだ、なんで跪く――――そう思っていた瞬間に、変化が訪れる。
『ぐるっ……!?ぐ、ぐぁああ……!!なん、だ……………!!!』
カルツの目が急に赤く光り、体がかさばって、口から黒い血を吐き―――間違いのない化け物になってしまったのだ。
成人男性より4倍……いや5倍は大きく見える、まるで獣のような姿。
目の前で同僚が化け物になるのを見たブリエンとアルウィンは、驚愕してしばらく動かなかった。しかしその隙が、最悪の結果を生んだ。
『……………くはっ!?』
『ぶ、ブリエンさん!?!?!くっ、今治療魔法を――――――くふっ!?』
「…………………………」
一瞬で体ごと握りつぶされ、また剣で串刺しになってしまった二人は―――その場で絶命。
「そして、理性を失って狂い始めた主人公《カルツ》は、反逆者たちを処罰するという建前で街を襲撃し、すべてを破壊し始める。これこそが、この物語の決まった運命だ」
「………………………………………はっ」
案内人のすべての話を聞いた俺は、思わず失笑をこぼしてしまう。本当に、これがゲームの元のシナリオだったのか。
……ありえないだろ。ユーザーを何だと思ってるんだ。やっぱクソゲーメーカーだな、あの会社。
この物語は本当に………本当に。
「くだらないな、マジで」
「…………そう思うか?」
「くだらないし、つまらないだろう。なんだ、このクソみたいな展開は」
イライラした気持ちを抑えながら、俺は周囲の風景から目をそむいて案内人を見る。
ヤツは、ようやく立ち上がって不気味な笑みを浮かべた。
「しかし、それが元の運命だ。俺はこの世界を、さっきお前が見た未来に導く使命がある」
「……それってつまり、俺を殺すってことだな?」
「お前だけじゃない。お前の大切な人たちも全員、殺す予定だ」
体の内側から、なにかが込み上がるのを感じる。
最大限の殺気を込めて睨んでいると、ヤツはふうとため息をつきながら言った。
「おかしいんだ、この世界の運命は。俺が見た未来は、元の世界線の未来とあまりにも違い過ぎる………お前のせいで、すべてが狂う」
「………」
「涙の魔女として死んで行くはずの悪魔の娘は、死に際まで幸せに暮らしながら天寿を全うする。暗殺者の娘は何人も子息を生み、強姦されるはずだった娘はこの国の長官になる」
「…………………………………は?」
急に言われたとんでもない未来に、殺気はおろか戸惑いが先走ってしまう。
案内人はそんな俺の反応を無視して、言葉を続けた。
「勇者パーティーのメンバーだったエルフもプリストも、お前の仲間として活躍しながら後々、お前の大切な人となる………新たな王の統治下で帝国は繁栄し、人々の顔からは笑みが絶えなくなる」
「……………」
「不幸が笑いに。破壊が生命に繋がる。すべてが真逆で、すべてが違っている……まぁ、俺は個人的に、あのカルツというヤツよりお前の方が好きではあるが」
そこでサッと回りの景色が消え、元いた山の頂上の光景が現れる。
そして、さっきよりは笑みが消えた顔で、怪物が言った。
「世界の整合性を取るため、この物語を正しい運命に導くため―――俺はお前を殺さなければいけない」
「……………運命、か」
「そうだ。この世界を元の運命にたどり着かせることこそが、俺の生まれた理由。予言の悪魔の使命―――だから、俺はお前と必然的に戦うことになるだろう」
何故だか、そう言っている割には敵意があまり感じられなかった。
ヤツは一体、なにを考えているのだろう。なんでこんなに色々な情報を教えてくれる?目を細めていると、ヤツは低い笑い声を上げながら言った。
「なんでそれを教えてくれるんだ、とでも言いたげな表情だな」
「……人の心も読めるのか?なら、直接的に聞こう。なんでそれを俺に教えるんだ?お前になんの得があって?」
「お前のおかげで、俺が生まれたからな。俺は整合性を取るために、この世界限定で生まれてきた存在だ。俺がこの世界で初めて目を覚ました瞬間、俺は自然と自分の使命を理解した――――お前がいなかったら、俺もいなかった。これは、せめてものの好意ってヤツだ」
「………なるほど、通りで元の世界で見たことないヤツだと思った」
「ふふっ、話は終わりだ。さて、次元を破った偽悪魔よ――――」
そこで、ヤツは急にドスの効いた声で俺を睨んできた。
「既に決められている運命に、抗うな。なにをしたってお前は、お前たちは必ず負ける」
「…………」
「帝国はすべて火の海になる。このとち狂った世界の整合性を取るためなら、元のストーリーに戻すためなら……俺はなんだってするつもりだ。俺はそのために生まれてきたからな」
……………なるほど、これがヤツの真の目的か。俺は唇を濡らした後に、軽く笑って見せた。
ヤツの黄色い目が細められるのを感じる。だけど、俺は笑った。笑い続けた。
だって、こいつの言葉には―――とんでもない矛盾があるからだ。
「いや、運命に抗うのはお前の方だ、案内人」
「……は?」
「お前がさっき言っただろう?この世界の運命は、みんなが幸せになることで決まっていると」
不愉快そうだったヤツの目が、少しだけ見開かれる。
「運命に抗おうとするな、怪物」
俺はもう一度笑ってから、釘を刺すように言う。
「俺は絶対に、あんなクソゲーのシナリオ通りにはさせないからな」
この世界を、元のあるべき姿に案内する。
それを聞いて、俺は反射的に周りの風景に目を向けた。ニアが血の涙を流しながら泣いている。忌々しいカルツの顔も見えた。
「………………………………………………………………」
拳が震える。たとえ幻覚だとしても、ニアがあんな風に悲しむ姿を見てなにも感じないはずがない。
「……お前なら知っているだろうな」
俺は振り返って、未だに岩の上に座っている怪物に目を向ける。
「お前は、カルツが主人公として活躍するのを本来のあるべき姿だと言った。なら、その世界線の未来はどうなる?」
「……ふうん」
「運命を知っているんだろ?どうなるんだよ、怪物」
ヤツはこの世界に属する存在じゃない。それだけはなんとなく感じ取ることができた。
だから、俺が転生したせいで知らないゲームのシナリオ――その結末さえきっと、知っているだろう。
そう踏んで質問したと言うのに、怪物は薄ら笑みを浮かんでから突拍子もないことを言ってきた。
「化け物じゃない。俺のことは案内人と呼べ」
「……案内人?」
「そうだ、俺はこの世界の案内人。これからはそう呼ぶように………それと、さっき質問してくれた未来のことだが、お前は既に見てたぞ?」
「………は?」
「最初に見た景色を思い出してみろ。なにが燃えていた?」
その言葉を聞いて、自然と目が見開かれる。
まさか、それが元の結末だと言うのか―――そう言うも前に、案内人が指を鳴らしてまた周りの風景を変える。
それは、最初に見た風景だった。一匹の獣みたいなモンスターが暴れて、街中のすべてが燃えていて、人々が悲鳴を上げて。
正に、すべてが滅んでいく―――阿鼻叫喚の景色。
「涙の魔女を倒した勇者カルツは、後々帝国の騎士団長になる」
周りのすべてが燃えている中、怪物は淡々とした口調を垂らした。
「しかし、ヤツの行き過ぎた信念と激しい思い込みは、段々と帝国内でも反感を買うようになった。そして、ヤツは気づくことになる――――自分と仲が良かった教皇が実は強姦魔で、信じていたゲベルスと皇子は人体実験をしている、ゲス野郎どもだってことを」
「………………」
「それを全部知っていてもなお、ヤツは黙認することを選んだ。騎士団長の権限ですべての情報を遮断し、仕方のないことだと事を正当化させようとしたんだ。しかし、他の勇者パーティーのメンバーはそうは思わなかった」
またもや案内人が指を鳴らすと、赤く燃えている風景が生い茂っている緑に変わった。
その場所は、森の中だった。そして、その空間で激しい戦いをしている二人―――ブリエンとアルウィンが見えてきた。
自分たちのリーダーである、カルツを相手に。
「残りの二人は、不意を見過ごそうとするカルツに強く反発し、その情報を市民たちに全部ばらまいてしまった。そのことに激怒したカルツは、二人を反逆者として見なし、更生させようとしたが――――」
ゲベルスと皇子の計画によって、すべてが終わってしまった。
そこまで言って、案内人はゆっくりと流れる景色を見守る。間もなくして、二人と戦っていたカルツが急に跪いた。
なんだ、なんで跪く――――そう思っていた瞬間に、変化が訪れる。
『ぐるっ……!?ぐ、ぐぁああ……!!なん、だ……………!!!』
カルツの目が急に赤く光り、体がかさばって、口から黒い血を吐き―――間違いのない化け物になってしまったのだ。
成人男性より4倍……いや5倍は大きく見える、まるで獣のような姿。
目の前で同僚が化け物になるのを見たブリエンとアルウィンは、驚愕してしばらく動かなかった。しかしその隙が、最悪の結果を生んだ。
『……………くはっ!?』
『ぶ、ブリエンさん!?!?!くっ、今治療魔法を――――――くふっ!?』
「…………………………」
一瞬で体ごと握りつぶされ、また剣で串刺しになってしまった二人は―――その場で絶命。
「そして、理性を失って狂い始めた主人公《カルツ》は、反逆者たちを処罰するという建前で街を襲撃し、すべてを破壊し始める。これこそが、この物語の決まった運命だ」
「………………………………………はっ」
案内人のすべての話を聞いた俺は、思わず失笑をこぼしてしまう。本当に、これがゲームの元のシナリオだったのか。
……ありえないだろ。ユーザーを何だと思ってるんだ。やっぱクソゲーメーカーだな、あの会社。
この物語は本当に………本当に。
「くだらないな、マジで」
「…………そう思うか?」
「くだらないし、つまらないだろう。なんだ、このクソみたいな展開は」
イライラした気持ちを抑えながら、俺は周囲の風景から目をそむいて案内人を見る。
ヤツは、ようやく立ち上がって不気味な笑みを浮かべた。
「しかし、それが元の運命だ。俺はこの世界を、さっきお前が見た未来に導く使命がある」
「……それってつまり、俺を殺すってことだな?」
「お前だけじゃない。お前の大切な人たちも全員、殺す予定だ」
体の内側から、なにかが込み上がるのを感じる。
最大限の殺気を込めて睨んでいると、ヤツはふうとため息をつきながら言った。
「おかしいんだ、この世界の運命は。俺が見た未来は、元の世界線の未来とあまりにも違い過ぎる………お前のせいで、すべてが狂う」
「………」
「涙の魔女として死んで行くはずの悪魔の娘は、死に際まで幸せに暮らしながら天寿を全うする。暗殺者の娘は何人も子息を生み、強姦されるはずだった娘はこの国の長官になる」
「…………………………………は?」
急に言われたとんでもない未来に、殺気はおろか戸惑いが先走ってしまう。
案内人はそんな俺の反応を無視して、言葉を続けた。
「勇者パーティーのメンバーだったエルフもプリストも、お前の仲間として活躍しながら後々、お前の大切な人となる………新たな王の統治下で帝国は繁栄し、人々の顔からは笑みが絶えなくなる」
「……………」
「不幸が笑いに。破壊が生命に繋がる。すべてが真逆で、すべてが違っている……まぁ、俺は個人的に、あのカルツというヤツよりお前の方が好きではあるが」
そこでサッと回りの景色が消え、元いた山の頂上の光景が現れる。
そして、さっきよりは笑みが消えた顔で、怪物が言った。
「世界の整合性を取るため、この物語を正しい運命に導くため―――俺はお前を殺さなければいけない」
「……………運命、か」
「そうだ。この世界を元の運命にたどり着かせることこそが、俺の生まれた理由。予言の悪魔の使命―――だから、俺はお前と必然的に戦うことになるだろう」
何故だか、そう言っている割には敵意があまり感じられなかった。
ヤツは一体、なにを考えているのだろう。なんでこんなに色々な情報を教えてくれる?目を細めていると、ヤツは低い笑い声を上げながら言った。
「なんでそれを教えてくれるんだ、とでも言いたげな表情だな」
「……人の心も読めるのか?なら、直接的に聞こう。なんでそれを俺に教えるんだ?お前になんの得があって?」
「お前のおかげで、俺が生まれたからな。俺は整合性を取るために、この世界限定で生まれてきた存在だ。俺がこの世界で初めて目を覚ました瞬間、俺は自然と自分の使命を理解した――――お前がいなかったら、俺もいなかった。これは、せめてものの好意ってヤツだ」
「………なるほど、通りで元の世界で見たことないヤツだと思った」
「ふふっ、話は終わりだ。さて、次元を破った偽悪魔よ――――」
そこで、ヤツは急にドスの効いた声で俺を睨んできた。
「既に決められている運命に、抗うな。なにをしたってお前は、お前たちは必ず負ける」
「…………」
「帝国はすべて火の海になる。このとち狂った世界の整合性を取るためなら、元のストーリーに戻すためなら……俺はなんだってするつもりだ。俺はそのために生まれてきたからな」
……………なるほど、これがヤツの真の目的か。俺は唇を濡らした後に、軽く笑って見せた。
ヤツの黄色い目が細められるのを感じる。だけど、俺は笑った。笑い続けた。
だって、こいつの言葉には―――とんでもない矛盾があるからだ。
「いや、運命に抗うのはお前の方だ、案内人」
「……は?」
「お前がさっき言っただろう?この世界の運命は、みんなが幸せになることで決まっていると」
不愉快そうだったヤツの目が、少しだけ見開かれる。
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