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番外編 クルミ
ライの帰国
しおりを挟むライの病室に通う毎日。
今日秋は軍部のお仕事でいないので、私の護衛はユアンとヤノの娘のサラが担っている。私とギリギリ同い年で、ヤノの護衛がメインなのでほぼ一緒に育ったと言っても過言ではない。
来月からは学園の休みが終わり、新学期が始まってしまう。
そのころまでライはここにいるだろうか、もう国へ帰ってしまうだろうか。
ずっと病室にいたのに、最近は病棟の裏庭にいることが増えた。
裏庭の大きな木の上で、いつもぼんやり空を見上げている。
「ラーーーーイ!」
下から手を振ると、羽をゆっくり動かしてふんわりと着地しておりてきてくれた。
「また木の上に…………これもリハビリ?」
「いや?コーネルは山ばかりの国なんだ。国の事を思う時はここにくるだけだよ」
苦笑する顔が痛々しい。
「かなり良くなったんだ。元々怪我というわけじゃなくて、君の兄上の大きすぎる魔力を通されて、痺れたようになっていただけだからな。時間が経てば治るそうだ」
「そう……よかった」
「あと一週間ぐらいかな。そうしたら、国にかえるよ。王太子がいつまでもぬくぬく隠れているわけにはいかないしな」
言葉につまる。
日々戦況は悪くなり、彼はそこに帰ると言う。
死にに行くということと同意だ。
「大丈夫、せいぜい足掻くよ」
苦しそうに笑うライから目が離せない。
「ここにいるのは、だめ?」
「はは、俺が生きていられたら、全て終わりにできたら、クルミ姫にうちの国を見てもらいたい。四季があって、綺麗なんだ。本当に、綺麗なんだよ。ずっと見せたいと、思っていた」
「うん、見てみたい」
帰らないという選択肢は無いのだろう。
彼は王太子で、最後まで国民を守る義務がある。
「………………そんな未来があればその時にと思っていたが………………その未来に言いたかった事を、聞いてもらえないか」
「うん?」
「命を助けてくれてありがとう。俺の初恋の人。初めて女の子を綺麗だと、美しいと、思ったよ。君を好きになれて良かった。俺が招待出来なくとも、いつかもしコーネルが平和になる時が来たら…………俺の国を見に来てもらいたい」
言外に、自分の命はもう散るだろうと言っている。最後の言葉まで温かい人。
「うんっ、————っ、ゔん……」
涙が溢れて止まらない。
こんな時にかける言葉なんて見つからず、ただただ泣く私を困った笑顔で優しく見つめ、「送るよ」と言って離れまで一緒に歩いてくれた。
何も喋らなかったけれど、暖かかった。ライの作る空気はいつも温かい。
◇◆◇
一週間後あっさりと、本当にあっさりとライは国に帰って行った。
見送りには私と秋、レスター兄様とサラが出た。
「じゃあ」
というライの言葉に
「あぁまたな」
とレスター兄様が返しただけ。
私に優しく笑いかけてから移転装置に入って行った。
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