【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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番外編 クルミ

クルミとテト

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 暮れ始めた空に大きく舞い上がるテトに行き先を告げる。先ずは移転装置を通らないといけない。

 やけに高く高く昇っていくテトは、父様や兄様達に見つからない様にしてくれているのかも。

 テトの力は本当に強い。
はばたきだけでそれがわかる。
これでもきっとすごく力を抑えてくれているはず。こんなテトに普通に乗れる父様や兄様達はやっぱりすごい。

「あ、あれ?てと……?違う!天空領じゃないの!北に向かって!?先ずは移転装置に乗らなきゃ!」

 テトがこんな間違いをした事は無いのに。
私の言葉を全然きいてくれない。

 そのまま石のお城がある湖の畔に降り立ち、森の方をじっと見る。

「て、てと、お願い、お願いよ」

「ヒィーーーーーーーン」
遠吠えの様な長く尾を引くいななき。
狼の様な。声に魔力がのってる……?

「何?てと、どうしたの?」

 テトが鳴いたのは長い遠吠え一度きり。
その後はくつろぎはじめている。
湖の水を飲んだり、私にスリスリをしたり。

「喉、乾いてたのかな。言う事聞いてくれないのは、無謀だって分かってるからかな……」

 またポロリと涙が出る。
ひとしきり泣いて、少し冷静になれた。
私だって分かってる。
行ったところで私の戦闘能力はたかが知れてるし、乗る事はできても天馬を操ったりはできない。何も出来ないまま、時間ばかりが過ぎていく。

 ふと長い影が伸びて空を見上げると、離れの天馬達が湖畔にあつまってきていた。

 ユアンの馬のクリストフ、ルースのヴァルファデ、クロードのアルトバイス、それぞれの奥さんのエレノア、エルシーナ、リンネットも。

ケイも、ツキも。ルルまで。

母馬のそばには名前のない仔馬達もいる。

「何、どうしたの……?」

大きな魔力の動きを感じてふと石の城を見やると、

————石のお城の周りに、天馬の、群れ。


五十頭ぐらい?わからない。なぜそんなに?
あり得ない。いくら母様の加護があっても、離れのみんなが産んで天空領に住んでいる子はせいぜい十頭程度なはず。その子達が子供を産んでもここまでの数なんておかしい。

「テト、あなた、ラズウェル中の天馬を呼んだの……?」

 唖然としている間にもどんどん数が増えていく。百頭近い、天馬の軍勢。

 何がおこっているのか分からない。呆然としてしまって、ものがうまく考えられない。
どんどん数が増えていく。

 石のお城の上空に、みなピタリと止まりこちらを向いている。テトの命令を待っているみたいに。

 くつろいでいるテトの元にルルが寄り添う。
テトはルルに一度顔を擦ると離れの天馬達の方を見た。

 クリストフ、ヴァルファデ、アルトバイス、エルシーナ、ツキ、ケイが前に出る。

 魔力の高い子達ばかり。

 テトが空に舞い上がり、6頭がそれに続く。上空で輪になって止まり、それぞれが嘶いて雷の魔法を中心に繰り出す。

「な、なに……?なにしてるの……?あんな魔法、どうするつもり……」

 エレノアが私に駆け寄り乗れと言う。
よく見るとみんな空にのぼっている。

 腰がひけてしまって、エレノアに 這う這うの体ほうほうのていで騎乗すると、テトがこちらを見ているのに気がついた。

 エレノアが低く鳴く。
私を乗せたエレノアが急上昇したのに合わせ、
テトが上空で高く前足を上げ、戻す力で雷の塊を地面に、叩きつけた。

 魔力の塊が地面に叩きつけられ、天空領がグンッと揺れる。

 一瞬周りが明るくなる程で、これは地形が変わってしまう、と恐怖で言葉が出ない。

 大きな衝撃に身構えたけれど、雷の魔力体は天空領の中に吸い込まれるかの様に入って消えて行った。

 湖に魚の死体がういてるとか、リンゴ畑のリンゴが全部おちてるとか、そういう事もなさそう。

「何、なんなの……」

 エレノアが私を湖畔に降ろしてくれる。
テト達も降りてきて空をみあげている。

 魔力体が吸い込まれたのは地面なのに、みんな今度は空を見てる。
石のお城に集まった子達まで。

 次の瞬間天空領の遥か向こうの空からどんどんドーム状にシャボン玉の膜の様な物が伸びてきて天空領の空を包む。

 シャボンがゆらめく様にぐにゃっとした感覚があって、今度は天井からシャボンの膜がキラキラと空にのぼって行った。

「移転…………?」


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