【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

文字の大きさ
12 / 173
番 編

料理

しおりを挟む

 何も考えたくなくて料理に集中していたら、すごい量のおかずが出来上がってしまった。色々な味付けの惣菜パンにポテトサラダ、冷蔵庫がないのでお肉を調理しておこうと考えて、ローストビーフまでつくってしまった。余っていたポトフをトマト味に味変もした。

 無意識にお兄さんの好きそうなものばかり作ってしまう。唐揚げも夜に出せるように仕込んだ。絶対お兄さんは好きだと思う。

 醤油に似た調味料をパントリーで見つけたので料理の幅が広がって嬉しい。

「朝から作りすぎちゃった……」
ひとりごちると上から低い声がかかった。

「俺が全部食うぞ?」

 そのまま後ろから抱き込まれる。
お兄さん、虫事件から距離が近いと思う。

「はい!はい!俺も!俺も食います!!」

 リツと呼ばれていたガタイの大きなお兄さんが挙手をしてキッチンの入り口に立っている。

「あ、良かったらどうぞ。作りすぎてしまって……」

「………………チッ……」

 し、舌打ち!?お兄さんは舌打ちしながら、軍服をまた私に着せつけてくる。

「おにい……殿下……?」

 敬称を言い直した私を目を見開いて見つめてきて戸惑う。

「リヒトだ」

「………………………………お兄さん」

「はぁ、何もしてねぇのに遠ざかるのはやめろ。まだその方がマシだ」

 名前呼びがゴールで、次がお兄さん、最悪が殿下って事かな?お兄さんでいいなら、このままでいい。

「すげぇ、マジで殿下が口説いてる」

 リツさんがあんぐり口を開けてこちらをみている。

「つむぎ、俺の侍従のリツと副官のユアンだ。こいつらは信頼していい」

「つむぎ•玲林と申します」
 貴族式の挨拶はわからないから少しだけ膝をおっただけに留めたけれど、誰も気にしていないようだった。

「リツ•カトレンです!!!よろしく天女さん!!!」

 天女じゃないけど、褒められているって事でスルーしよう。

「シュトルツェ伯爵家が二男、ユアン•シュトルツェと申します。以後、お見知り置きを」

 ユアンさんは胸に手を当てて、礼をとって挨拶をしてくれて恐縮してしまう。

「あ、あの、冷めないうちにどうぞ。お口に合えばいいのですが……」

「はぁ、全部俺のなのに……」



◇◆◇



「うっっっまっっっっ!!」

 リツさんの食べる勢いがすごい。
ガツガツと音がしそうな勢いで食べてる。

 「俺のが……」とお兄さんはいつもよりペースが遅い。

 ユアンさんは綺麗な所作で食べていて三者三様で面白い。

「お兄さんあの、昨日のグラタンも、まだあるよ?」

「食う」

 慌ててオーブンで温め直したグラタンを出してあげると、いつものペースに戻ってお兄さんもガツガツ食べ始めたのでホッとする。
 
 お兄さんが食べてるのを見るのは好きだ。
私が作ったものだとなお嬉しいとも思う。
いつも美味しそうにたべてくれて、心が満たされていくのを感じる。

 ユリウス様にも料理を作ったら、こんな感じだったんだろうか。
料理を振る舞うほど一緒にはいなかったから分からない。
ユリウス様とご飯を共にした事すら数えるほどしかない。今となっては比べようもない。

 ぼんやりとお兄さんの食べているのをみつめてしまう。
殿下と呼ばれていたということは、王族ということだろう。
きちんと線引きをしていなければいけない。
踏み込みすぎてはいけない。

「つむぎ、何考えてる。俺の前で他の男の事か?」

「へっ!?」

 急に抱き上げられて、目線の高さにビックリしてしまう。た、縦抱き!?落ちそうで怖くて首に手を回して抱きついたら、スタスタと寝室に運ばれる。

「殿下の前で他の男のこと考える女子がいる………だと………?」

「いいもの見ましたねぇ」

 後ろでリツさんとユアンさんが何か言っていたけれどよく分からない。歩くスピードが早すぎて怖い。

「お、お兄さん、どうしたの?」

「お前が他所よそごとばかり考えてるからだろうが」

「何で、分かって……?」

「お前、馬鹿犬にはそんな顔しかさせてもらえなかったのかよ」

「????」

 そのままベットにすわったお兄さんの膝の上で抱き込まれる。

「俺のものになれ、つむぎ」

「それは………………」

「俺はガンガンお前を口説くけど、逃げんなよ?」

 お兄さんのお顔が真剣で、怒っているようにも見える。

「わ、わたしの目標は、ユリウス様のいない所で自分で生きる事でっ、それでっ」

「…………チッ、駄犬は名前呼びかよ。それで?そばに俺がいたっていいだろうが」

「……………」

「キスしていいか?」

「だ、だめ!」

「なんでだよ断んな」

「は、初めて、だからっ」

「………………マジかよ………嬉しすぎてやばい……」

「に、匂いでそういうの、分かるんじゃないの?」

「処女かどうかはすぐわかる。キスは翌日ぐらいまでだろうな、匂いが残るのは」

「じゃあ、今キスしたら、リツさん達にすぐ分かるってこと?」

「分からせてぇんだよ。マーキングさせろ」

「わたしのファーストキス……そんな事に使われるのやだ」

「…………………………」






 
しおりを挟む
感想 1,228

あなたにおすすめの小説

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...