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番 編
料理
しおりを挟む何も考えたくなくて料理に集中していたら、すごい量のおかずが出来上がってしまった。色々な味付けの惣菜パンにポテトサラダ、冷蔵庫がないのでお肉を調理しておこうと考えて、ローストビーフまでつくってしまった。余っていたポトフをトマト味に味変もした。
無意識にお兄さんの好きそうなものばかり作ってしまう。唐揚げも夜に出せるように仕込んだ。絶対お兄さんは好きだと思う。
醤油に似た調味料をパントリーで見つけたので料理の幅が広がって嬉しい。
「朝から作りすぎちゃった……」
ひとりごちると上から低い声がかかった。
「俺が全部食うぞ?」
そのまま後ろから抱き込まれる。
お兄さん、虫事件から距離が近いと思う。
「はい!はい!俺も!俺も食います!!」
リツと呼ばれていたガタイの大きなお兄さんが挙手をしてキッチンの入り口に立っている。
「あ、良かったらどうぞ。作りすぎてしまって……」
「………………チッ……」
し、舌打ち!?お兄さんは舌打ちしながら、軍服をまた私に着せつけてくる。
「おにい……殿下……?」
敬称を言い直した私を目を見開いて見つめてきて戸惑う。
「リヒトだ」
「………………………………お兄さん」
「はぁ、何もしてねぇのに遠ざかるのはやめろ。まだその方がマシだ」
名前呼びがゴールで、次がお兄さん、最悪が殿下って事かな?お兄さんでいいなら、このままでいい。
「すげぇ、マジで殿下が口説いてる」
リツさんがあんぐり口を開けてこちらをみている。
「つむぎ、俺の侍従のリツと副官のユアンだ。こいつらは信頼していい」
「つむぎ•玲林と申します」
貴族式の挨拶はわからないから少しだけ膝をおっただけに留めたけれど、誰も気にしていないようだった。
「リツ•カトレンです!!!よろしく天女さん!!!」
天女じゃないけど、褒められているって事でスルーしよう。
「シュトルツェ伯爵家が二男、ユアン•シュトルツェと申します。以後、お見知り置きを」
ユアンさんは胸に手を当てて、礼をとって挨拶をしてくれて恐縮してしまう。
「あ、あの、冷めないうちにどうぞ。お口に合えばいいのですが……」
「はぁ、全部俺のなのに……」
◇◆◇
「うっっっまっっっっ!!」
リツさんの食べる勢いがすごい。
ガツガツと音がしそうな勢いで食べてる。
「俺のが……」とお兄さんはいつもよりペースが遅い。
ユアンさんは綺麗な所作で食べていて三者三様で面白い。
「お兄さんあの、昨日のグラタンも、まだあるよ?」
「食う」
慌ててオーブンで温め直したグラタンを出してあげると、いつものペースに戻ってお兄さんもガツガツ食べ始めたのでホッとする。
お兄さんが食べてるのを見るのは好きだ。
私が作ったものだとなお嬉しいとも思う。
いつも美味しそうにたべてくれて、心が満たされていくのを感じる。
ユリウス様にも料理を作ったら、こんな感じだったんだろうか。
料理を振る舞うほど一緒にはいなかったから分からない。
ユリウス様とご飯を共にした事すら数えるほどしかない。今となっては比べようもない。
ぼんやりとお兄さんの食べているのをみつめてしまう。
殿下と呼ばれていたということは、王族ということだろう。
きちんと線引きをしていなければいけない。
踏み込みすぎてはいけない。
「つむぎ、何考えてる。俺の前で他の男の事か?」
「へっ!?」
急に抱き上げられて、目線の高さにビックリしてしまう。た、縦抱き!?落ちそうで怖くて首に手を回して抱きついたら、スタスタと寝室に運ばれる。
「殿下の前で他の男のこと考える女子がいる………だと………?」
「いいもの見ましたねぇ」
後ろでリツさんとユアンさんが何か言っていたけれどよく分からない。歩くスピードが早すぎて怖い。
「お、お兄さん、どうしたの?」
「お前が他所ごとばかり考えてるからだろうが」
「何で、分かって……?」
「お前、馬鹿犬にはそんな顔しかさせてもらえなかったのかよ」
「????」
そのままベットにすわったお兄さんの膝の上で抱き込まれる。
「俺のものになれ、つむぎ」
「それは………………」
「俺はガンガンお前を口説くけど、逃げんなよ?」
お兄さんのお顔が真剣で、怒っているようにも見える。
「わ、わたしの目標は、ユリウス様のいない所で自分で生きる事でっ、それでっ」
「…………チッ、駄犬は名前呼びかよ。それで?そばに俺がいたっていいだろうが」
「……………」
「キスしていいか?」
「だ、だめ!」
「なんでだよ断んな」
「は、初めて、だからっ」
「………………マジかよ………嬉しすぎてやばい……」
「に、匂いでそういうの、分かるんじゃないの?」
「処女かどうかはすぐわかる。キスは翌日ぐらいまでだろうな、匂いが残るのは」
「じゃあ、今キスしたら、リツさん達にすぐ分かるってこと?」
「分からせてぇんだよ。マーキングさせろ」
「わたしのファーストキス……そんな事に使われるのやだ」
「…………………………」
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