【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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婚約者編

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 母屋のリヒト様のお部屋で目が覚めた。あ、今は二人のお部屋なんだった。

 外に続く折れ戸が開け放たれていて、月明かりと共にどこからか小さく笛の音が聞こえる。
優しい風が時折肌を掠める。  

「起きたか」

「リヒト様…………?」

 私を抱き込んで一緒に眠ってくれていたらしいリヒト様が、私を後ろから抱き込む様にして支えてくれたので上体を起こしてリヒト様の胸に寄りかかる。

「ごめんなさい、陛下の前で眠ってしまって」

 とても失礼なことだったよね。

「しょうがねぇよ。誰も気にしてない。今なんて宴の真っ最中だぞ王宮は」

「そうなの?なんかのお祭り?」

 リヒト様は呆れた顔で私を見て言う。

「はぁ~おまえが兄上を治療した祝いだよ」

「そうなんだ。元気になったなら良かった。リヒト様ももう行っちゃうの?」

「どうして欲しい?」
意地悪な顔。余裕そうで、悪そうな顔。

「そばにいて欲しい。どこにも行かないで」

 紺色の瞳が優しく細くなる。甘い甘いキスが送られて頭がぼんやりする。

「ありがとな、兄上を治してくれて。褒賞を考えておけよ」

「またぁ?」

「ぷはっ!何で嫌がるんだよ。国をあげての褒賞になるぞ?」

 私が黙り込むと頭のてっぺんにキスが落ちてギュッと抱きしめてくれた。

「装飾品やら着物やら山ほど来るぞ、覚悟しとけ」

「全部リヒト様から贈られたい。じゃなきゃどうせ使わないし。だから断って」

「……………………無自覚か?煽ってんのか?」

「あお?」

「装飾品、もう贈ってもいいのか?こっちは我慢してるんだが」

「くれたら、大事にする」

「は~~~~~~おれの番超可愛い。やばい。やっとユアンと兄上の匂いが消えたからもっと俺の付けたい」

「お祭りはどこでやってるの?」
意味わからんことを言い始めたリヒト様を無視してまた質問する。

「んあ?庭園じゃね?月が出てるし」

「空から見れる?連れていって?ご褒美はそれがいい。二人で、見たい」

 リヒト様はニッと笑って私のクローゼットから桜色の打掛を出すと私に羽織らせてから抱き上げた。

 折れ戸から続く縁台に出て、翼を広げる。

「リヒト様の翼は、綺麗」

「つむぎが俺の容姿を褒めるのは初めてだな。獣型を褒められるとは思わなかった」

 軽々空に舞い上がる。首に抱き付かなくても抱え込んでくれるので揺籠に乗ってるみたいで心地いい。

「そう?かっこいいと思ってるよ?それを上回るぐらい不良だとも思ってるけど」

「はっ!なんだそれ」

 楽しそうに笑ったリヒト様は王宮の屋根に降り立った。
四階の高さで、下の喧騒がよく聞こえる。
笛の音と琴、よく分からない弦楽器もあって、きらびやかな宮女達が舞を踊っている。

 王座が庭の奥数段高い縁台に作られていて、その中央で陛下が並んだ料理をすごい勢いで食べているのが見えた。超元気そう。

 誰かがこちらに気がついたのか、人々が皆こちらを見上げ始めた。

 風が出て、私の桜色の着物の裾が舞う。

 陛下もこちらに気がつき、楽団の音も止んでしまった。

「…………チッ、気づかれたか」

 陛下が縁台で、胡座あぐらをかいた姿勢で両の拳を体の横で床につけ、そのまま私にゆっくり頭を下げた。

 周りの人も同じ様にザッと床や地面に胡座をかいてこの国の礼の姿勢をとる。女の人は片膝をついて頭を下げている。

 その中に、アマリリスさんの姿を認めて息を呑んだ。
周りの人よりもさらに頭を下げて今にも地面につきそう。

 貴族の立場や王族のお嫁さんの事はよく分からないけれど、彼女なりの誠意なのだろう。

 リヒト様はぐいと私の顔を胸に押し付けて隠し、そのまままた飛び立った。
わぁあああああっと上がった歓声が遠ざかっていく。 

 今度は物見櫓ものみやぐらの様なもっと高い塔の一番上に降り立って私を座らせると、ちょっと待ってろといってまた飛び立ってしまった。

 頭上に大きな鐘があるので鐘塔の様で、周りの手すりに捕まって外を見ると少し離れた所にさっきのお祭り会場が見えた。楽団の音もかすかに聞こえて耳に心地いい。

「お前、高い所にいるとほんとに天女みたいだな」

 急に降りたってきて手すりにしゃがんだリヒト様が私に言う。

「リヒト様はそうしてると不良みたい」

「はっ!俺ほど真面目に仕事してる王族はいないだろ。これからは兄上の分はお返しできるから、楽になるな」

 木でできたコップを渡されて、飲むとあたたかい甘酒だった。
リヒト様はすわってひょうたんからお酒を直飲みしてる。
 
「じゃあこの世界を見せて欲しい。いろんな所に行ってみたい。連れて行って?」

 リヒト様の膝に乗りながらお願いしてみる。自分から膝に乗るのは初めてだ。
リヒト様もちょっとびっくりしてる。

「番の……おねだり……やべぇ……」

あ、これちゃんと聞いてないやつ。

 やぐらの中央に腰掛けてしまうと手すりで宴は見えなくなってしまうけれど、心地よい音は聞こえる。リヒト様の腕の中で笛の音を聞く。

「国を出るたびに番の繋がりが切れちゃうのはやだな。あの時、辛かったから」

「神に申請するから大丈夫だよ。限界は一月ぐらいだったか。共に出て、共に帰るのが決まりだけど」

「神様と書類でやりとりするの不思議だね」

「神格の次元が違うからな。お姿が見られないんだから書類でやりとりするしかないだろ」

 そういうもんなのか。ちょっと可笑しくてわらってしまう。

「こうやって二人で綺麗な所が見たい。褒賞をくれるっていうなら、リヒト様のお休みが欲しい。お願いしてくれる?」

「破壊力………………俺の番超可愛い…………」

「王様、かっこよかったね」

「はぁ!?!?」
あ、戻ってきた。ちゃんと聞いてるのか。

「ふふふ、期待してる」


  
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