【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香

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番 編

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 本当にみんなが来るのを妨害して来たのか、私とクロム君の待つ離れにリヒト様は一人で来た。

 軍服から紺色の着流しに着替え、しっとりとした艶のある銀の羽織をはおっている。男っぷりがいいってこういう事だと思う。

 着物を着て来てくれるということは、今日はもうずっと一緒ということだ。お仕事はもう無い。
 それがうれしくてニマニマしてしまう。

 縁側に腰掛けたリヒト様に、クロム君がなぜか飛びかかっていく。びっくりして動けずにいると、短い手足をフルに使って目で追えない様な速さでリヒト様に攻撃していく。 ガッっとかバキッとか聞いた事ない様な音が連続で聞こえて来て唖然としてしまう。

 リヒト様はのんびり私の出した緑茶を飲みながら左手一本で全て受け止めて、目線は庭のテトを追っていてクロム君の方を見てもない。

「ええぇ……なにこれ……」

 私の呟きと共に謎の喧嘩?は終わったらしく、今度はクロム君がリヒト様の肩にビトっとへばりくっついた。

「モモンガが離れねぇ……」

「プッっ!!あははは」

 モモンガっぽいかも。黒の忍者みたいな着物を着ているクロム君がモモンガみたいに体を広げてリヒト様に全身でくっついてる。

「主、ずっと、びょうき」

「あ~~~そうだな、もう治ったから、明日からまた手合わせしてやるよ」

「ん」

 か、か、か、可愛い。

「リヒト様に甘えたかったんだね、今日はずっとそこにいたらいいよ」

「却下だ。モモンガ、飯食ったら寝ろ。すぐ寝ろ、何ならもう寝ろ」
 口では意地悪をいってもクロム君を引き剥がしたりはしない。優しいのがわかるから、クロム君も懐いてるんだと思う。

「意地悪言わないの。クロム君、ご飯できたよ。お食事エプロンつけてあげる、おいで?」

 私の言葉にシュバっとリヒト様から離れ、私の膝の上にちょこんと座る。けれど、リヒト様から離れる瞬間に肩に顔を擦り付けてたのちゃんと見たぞ!可愛いぞ!!

「ふふふ、今日は私の国のメニューなの」

 大豆が沢山あったので、手作り味噌にチャレンジした。
食べられる様になるのは半年後かぁと思っていたら、リツさんが植物の種から出来た発酵促進剤を教えてくれた。
無味無臭で身体にもいいらしい。リツさんは厩に撒いていて、これを撒くとフンがすぐに分解されるので臭わないらしい。

 薬にも使われるぐらい栄養価もあるときいたので、思い切って入れてみたら次の日には味噌が出来上がってた。異世界万歳。

 今日はお酒を出したのでおつまみメニューばかりだ。
お味噌を塗った焼きおにぎりと、煮魚。青菜のおひたしとつくねも沢山作った。低いテーブルにどんどん置いていく。塩で揉んだ浅漬けも沢山出す。

「これは……美味いな」
 畳にあぐらをかいて食べ始めた驚き顔のリヒト様に、日本酒に似たお酒をさかずきに注いであげると嬉しそうに笑った。

「クロム君にはオムライス作ったよ。リヒト様の食べてるつくねもあげようね?」

 目の前に大きなオムライスを置いてやると目を輝かせてはぐはぐと食べ始めた。ちょっとずつだけど、表情が見れる様になってうれしい。

 リヒト様は、いつもよりゆっくり食べてくれている。お酒と、この時間を楽しむみたいに。
獣人の人達の食事はいつも素早いから、食事の時間を楽しんでくれてすごくうれしい。

 庭からの優しい風が時折肌を掠める。
私の、愛おしい時間。

「ずっと言いたかったの。台所も、テトのお庭の事も、クロム君を引き会わせてくれた事も、ありがとう」

 うつらうつらとし始めたクロム君を膝まくらしてやりながらリヒト様の方を向く。紺色の瞳がとろりと細まる。

「惚れた女にプレゼントを贈るのは獣人の性だからな…………それに……」

 リヒト様はそこまで言って、口ごもってしまう。

「ちょっと、いやだいぶ、罪悪感もあった」

「なんか悪いことしたの?」

「お前、まさかまだ気付いてなかったのか?」
驚愕の眼差しに戸惑う。

「何の話?」

「つむぎは俺に監禁されてたんだぞ。ここに」

「えぇ?そうなの??快適すぎて気付かなかった!」

 リヒト様は今度は苦虫を噛み潰した様な顔をしてる。
だってもともとアウトドア派ではないし……。

「お前、そーゆーとこだぞ!ぼんやりしてるから、男が寄ってくるんだよ!!」

「ええ……理不尽。寄って来たことなんて無いし」

 なぜ私が怒られるのか。

「お前…………園遊会に現れた天女って王宮で話題になってんだぞ!」

「人違いじゃない?誰にも会ってないし」

 リヒト様が信じられないというような顔で見てくるけれど、なんなのか。

「快適な監禁生活がこのまま続くの?」

「続かねーよ!母屋に部屋も用意しただろうが!お前がすぐこっちに来ちまうんだよ!」

 なんだかまた私が責められている。解せぬ。

「護衛は付けることになるだろうが、もうどこに行っても構わない。けど、他の男の匂いはつけるなよ」

「匂いなんて、私にはわからないよ」

「他の男に触らせるなって事だよ」

「あ!だから皆んな私に触らなかったの??」

 園遊会の日、リヒト様の元に走る私を皆んなが止めたけれど、いっさい触ろうとはしなかった。

「あの時は獣性の問題があって死活問題だった。お前に触れた奴はもれなく殺していた」

「物騒!!!」

「今はそんな事ないけどな。ムカつくことには変わりはない」

「ふーん、獣人とお付き合いするのは大変だねぇ」 

「離してやれない、諦めろ」

 すごい殺し文句をサラリと言って、また嬉しそうにお酒を飲む。  

 完全に寝てしまったクロム君を座布団の上にそっと寝かせると、リヒト様が着ていた羽織を脱いでクロム君の上にかけた。こういう所が、すごく好きだなぁと思う。

 すっごい雑にバサっとかけられた羽織を、肩までかけてやってからリヒト様の隣に座る。

「つむぎの飯は美味いな。飯なんて、腹が膨れて力が出せればそれで良かったのに。もう戻れないな」

「私の国は、食の文化が発展していたからね」

「元の世界が恋しいか?」
 
 こういう心の深い所を探るような質問は、ずるいと思う。直球で来られると、イエスかノーしか答えが無いような気持ちになる。自分で自分の気持ちが分かってないからだと思う。

「そうだね、帰りたくないって言ったら嘘になるかな」

 私も今の気持ちを素直に返す。イエスにもノーにも、分類できない。
 
 隣でリヒト様が固まったのが分かった。
さかずきが顔の前で止まったまま私を見てる。

「っ……ま、待て!話し合おう!」

「ふふふ、リヒト様がいるなら、この世界も悪くないかな」
 
 あからさまにホッとした顔をして、ひょいと私を膝に乗せ、口にイチゴを放り込まれた。

「っは~~~俺をあせらせるのも、俺が給餌する女も、お前だけだな」

 そう言ってキスをくれた。甘い甘いキス。

「俺の番、苺味……」

「私の彼氏、余計なことばっかり言う」


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