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家族編
エルシーナ
しおりを挟むエルダゾルク軍の所持する天馬の数が急激に増えている事は既に大ニュースになっているらしく、今更すぎるのでしれっとヴァルファデの彼女も連れて帰ることになった。
神格の高い天馬は、どの国にも属さないという了解があり、契約した人の物になるそうだ。
もう隠しても無駄だとリヒト様があっけらかんと言う。
「外に出るたびに紬がつれてきちまうし」
「私じゃないよ!今回はクレアちゃん!」
「そう思ってるのはお前だけだ!!」
何なのか。私何もしてないのに。
亜麻色の天馬はヴァルファデの横に大人しく着いてくるので手綱はしていない。
綺麗な毛並み。女の子だけどヴァルファデと同じくらいの大きさで、しっかりとした体躯。多分この子すごく強い。芯があるというか、凛としてると言うか。女騎士様みたいな感じがする。優しいお母さんタイプのルルとは違う感じ。
「あ!リヒト様、適任者いたかも」
「んあ?」
「ヴァルファデ、ちょっとだけ彼女さん借りてもいい?先に離れにかえっていてね、厩にこの子が入るようにルース君と準備していて?」
ヴァルファデが了承したように私の手のひらをスリと押す。
亜麻色の天馬に長いことスリスリした後、離れの方にルース君と歩いて行った。
「ヴァルファデの彼女さん、ちょっとだけつきあって?」
亜麻色の天馬は私をじっとみた後、ブルンと一声鳴いた。
「ありがとう、いきましょうか」
「どこいくってんだよ。こっちは王宮だぞ」
「ん、リヒト様、陛下のところに連れて行って?」
「はぁ?報告でもするつもりか?」
「んー多分うまく行くと思うんだよね」
リヒト様は意味わからんと呟きながらも、王宮の奥に進んでくれた。リツさんがすっ飛んでどこかへ行った。多分先ぶれに行ってくれたんだと思う。
庭が途切れて大理石の王宮内に入り、カツンカツンと歩きにくそうな蹄の音が響く。
ハイヒールが音を立てているようで笑ってしまう。
柱が沢山立った廊下の先の部屋に入ると、広い広間の向こうに王座の椅子があり、陛下が座って待っていた。
陛下の侍従と一緒にリツさんがゼーゼーいって脇に控えてる。ごめんリツさん。
「紬ちゃ~ん!おかえり!またすごいのつれてきちゃったねぇ~!報告に来てくれたの~~??大歓迎だよ!!今日もすごく可愛い~!いつ僕のお嫁さんになる~?」
今日もしっかりチャラいな。
金髪の髪を後ろに流し、ややブラウンかかった金の無精髭。柔らかな紫の瞳が優しさまで出している壮絶なイケオジ。中身はポンコツだけど。
「陛下のお見合い相手を連れてきました」
「「 は? 」」
リヒト様と陛下のイケボが重なる。
陛下の侍従達が目をまんまるにしてるのが見える。
「この子、多分陛下のことタイプだと思います」
「「 は? 」」
「名前、つけてみて下さい」
ね?と亜麻色の天馬に言うと、天馬はじっと陛下を見てる。絶ッッ対タイプだと思うんだよなぁ。ヴァルファデには悪いけど。主人と恋人は違うし大丈夫でしょ。
「え~と、紬ちゃん?ちょ、ちょっと何言ってるかわからないけど、僕はどうしたらいいのかな?」
「ん~、挨拶して、名前をつけてみてください」
さっきからそう言ってるのに。
王座からずり落ちそうになってる陛下はやっと決心したのかフラフラとこちらに近づいて、天馬の目を見て話す。
「フォルド• リア• エルダゾルクという。————君の名は——エルシーナだ」
「クルルルル」
「承諾しましたねぇ」
ユアンさんがお馴染みのセリフを言う。
「エルシーナ!素敵な名前を貰ったねぇ!カッコいい!!!」
本当に素敵!女騎士様って感じ!
「つ、紬ちゃん?僕は今すごい事をしてしまったのだけれど……リヒト?どうすれば??お兄ちゃんすごく怖い!!!」
エルシーナとリヒト様の間で陛下がオロオロしている。
「良かったじゃないですか。切望していた天馬が手に入りましたね。紬、また兄上から褒賞がでるぞ?良かったな」
「あ!じゃあ、クロム君とレスターのお揃いの洋服いっぱい作りたいです!陛下のお財布で!!わあ!ありがとうございます!!」
「う、うん?うん、そんなのいくらでも……ってそうじゃなくて、リヒト!?そろそろ説明して!?怖い怖い怖い!!!」
「私にも分かりません。紬に聞けといいたいところですが、本人も感覚で動いているようです。無理矢理納得願います」
「あ、陛下!この子ヴァルファデの彼女なので、私の離れで面倒見てもいいですか?」
「ぅ……うん?うん、いいよ?もう、なんでもいいんじゃないかな?リヒトお前、いつもこんななの?」
「ええまぁ」
「た、大変だねぇ」
「慣れました。天馬の所有、誠におめでとうございます。連理の枝となるようお祈り申し上げる」
リヒト様はそう言って私をだきあげ、唖然とした陛下達を残して離れに帰ってくれた。
◇◆◇
「陛下も天馬、欲しかったの?」
「あんなでも一応兄上がエルダゾルク軍の総帥だからな。病気も無くなったしすげぇ欲しがってたけど、欲しいからって手に入るもんでもないし、金で買えるもんでもない」
良かった。欲しかったならきっと大切にしてくれる。そうじゃなかったとしても、彼はリヒト様に似て優しい。エルシーナは大切にされる。
「おにぎりにならなくてよかったぁ!」
リヒト様は離れの縁側で私を膝に乗せて座り、私のセリフに楽しそうに笑う。
すぐそばで遊び疲れたクロム君とレスターが座布団の上でひとかたまりに丸くなってスヤスヤ眠っている。
夕方の風が心地よくとおる。
「リヒト様、私、変?嫌?」
陛下の前で呆れていたから不安になる。
「そんな事いってねぇだろ。お前は俺の全てだよ」
優しいキスが贈られる。
「ユアンがきっとまた詰めてくるな」
「ゔぅっ…………助けて」
「いいけど、褒美を貰うぞ?」
長い長いとろける様なキスが降ってきて、ふわふわとした思考になる。
「私も何となくしかわからないんだけどね、多分天馬は家族とかチームとか、そういうのを大切にしてる生き物なんだと思う」
「どうしてリス女じゃなきゃだめだったんだ?」
まだ名前覚えてない!
覚えようという気概すらない!!
「ヴァルファデの主人であるルース君の家族を見て判断したいんだと思う。ただ単にヴァルファデだけを気にいるってだけじゃあだめで、ヴァルファデの主人の家族が、自分の家族になるわけだから……」
「天馬は孤高の生き物だとされてきてるのが、ひっくり返るな」
「孤高?そんな感じはしないなぁ。家族とチームを大切にするあったかい生き物って感じ」
その時ヴァルファデが庭に現れて、後ろからルース君がやって来た。
「殿下~~厩の拡張工事必要だよ~~大家族になってきたよぉ!」
「紬はここを牧場にするつもりかよ」
「えぇ……?わたしのせい?」
ヴァルファデが庭の真ん中で止まり、じっと王宮の方を見る。
小道からエルシーナに乗った陛下が来て、ヴァルファデが迎えに駆けつけて行った。
「ええええっっ!!!?? 陛下!?」
ルース君が大声をあげ、自分の声に我に帰ったのか脇に控えて礼をとる。
「いい、礼はいらない。リオット侯爵子息か。エルシーナをよろしく頼む」
あ、ポンコツじゃないバージョンの陛下だ。
「お!紬ちゃ~ん!どお?エルシーナ、美人じゃない!?」
やっぱりすぐポンコツになるな。イケオジなのに。
エルシーナの手綱は青いタッセルと銀の刺繍の入った豪華なもので、エメラルドグリーンの縁取りに艶々の布貼がしてあるお洒落な鞍が取り付けられていた。
「うわぁ!おしゃれさん!」
「な?切望してただろ?馬具ばっかり揃えて肝心の中身がなかったんだよ」
「ふふふ、エルシーナは幸せ者だね」
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