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2-1 有馬手記(2)
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「兄貴、何読んでるの?」
夕飯の生姜焼きに無意識に箸を伸ばしていた英祐は、弟・洋祐の言葉にハッとした。
右手は生姜焼きを掴んだ箸、左手は古びた冊子。
「ながら食べは、行儀悪いわよ」と小言を言う母親の声が、改めて英祐の耳に入る。
流石に没頭しすぎたか、と。英祐はため息を吐いて冊子に栞を挟むと、パタンとそれを閉じた。そして、洋祐と目を合わさずに答える。
「なんか、手記?」
「は? なんか、ってなんだよ」
英祐は目を閉じて、はぁーと息を吐く。文語体を読み解く、それはかなり面倒臭い。多様な漢字と不規則なカタカナの羅列は、結構な集中力を削ってくる。さらに没頭しすぎて、目が乾燥をしてしまうくらい疲れていた。
「疲れたぁ」
「疲れたって……。自分で読んでて、なんだよそれ」
「なかなか止められなくってさ」
洋祐はふんふんとご飯を頬張りながら頷くと、無理矢理飲み込んで英祐に話しかける。
「そんなに面白いわけ?」
「なんか、すげぇことが書いてあるぞ?」
「なんか、とか。すげぇじゃわかんねぇよ」
久しぶりの兄弟の対面。
就職も決まって、弟としてはやはりそんな話もしたかった。にも拘らず、#件__くだん__の兄は、古びた冊子に没頭して食事時すら離そうとしない。
洋祐は、ため息を吐いて生姜焼きを頬張った。
「洋祐」
冊子を手から離し、食事のスピードを上げた英祐が味噌汁を啜ると。徐に洋祐の名を呼んだ。
「なんだよ」
「金平糖、欲しかったら兄ちゃんに言えよ」
「はぁ!?」
「甘いもの買ってやるからな」
「な、なんで金平糖なんだよッ!!」
「兄は偉大なのだ」
「……」
冊子の影響か?
普段言わないことを口走る兄に、洋祐は生姜焼きを喉に詰めそうになった。
冊子を読んでから……? いや。
読む前も、おおよそ、変わったところがある兄だとは思っていた洋祐だったが。こんな古びた冊子で、影響されまくる兄の姿を見たのは初めてのことだ。
洋祐は、堪らず絶句する。そして、我関せずを貫く母親に目配せをした。
「英祐が没頭し出したら、お母さんも無理よ」
「!?」
「とことん付き合うか、無視するか。どちらかになさい」
我が母親ながら、子を突き放すなんて非道い。再びため息を吐いた洋祐は、空になった皿を流しに運んで洗い始めた。
(付き合うか、無視するか)
皿を洗いながら、洋祐はダイニングに視線をうつす。先刻まで英祐の手中にあった冊子が、テーブルにポツンと置いてあった。
(そんなに没頭するか?)
兄を取られたような感覚。幼い頃は、妹に対してよくそんな感情を抱いていたっけ、と。自分の成長を自ら尊ぶ反面、何故にボロボロの冊子にそんな感情を抱かねばならないのか。自分自身に腹が立った。
「兄貴、ちょっと借りるわ」
洗い物を片して、洋祐はテーブルに置いてある冊子を手にした。
「あぁ。栞は移動させんなよ、洋祐」
「わかった」
洋祐はドカッとリビングのソファに腰を下ろす。そして、『有馬手記』と書かれた古い冊子をそっと開いた。
夕飯の生姜焼きに無意識に箸を伸ばしていた英祐は、弟・洋祐の言葉にハッとした。
右手は生姜焼きを掴んだ箸、左手は古びた冊子。
「ながら食べは、行儀悪いわよ」と小言を言う母親の声が、改めて英祐の耳に入る。
流石に没頭しすぎたか、と。英祐はため息を吐いて冊子に栞を挟むと、パタンとそれを閉じた。そして、洋祐と目を合わさずに答える。
「なんか、手記?」
「は? なんか、ってなんだよ」
英祐は目を閉じて、はぁーと息を吐く。文語体を読み解く、それはかなり面倒臭い。多様な漢字と不規則なカタカナの羅列は、結構な集中力を削ってくる。さらに没頭しすぎて、目が乾燥をしてしまうくらい疲れていた。
「疲れたぁ」
「疲れたって……。自分で読んでて、なんだよそれ」
「なかなか止められなくってさ」
洋祐はふんふんとご飯を頬張りながら頷くと、無理矢理飲み込んで英祐に話しかける。
「そんなに面白いわけ?」
「なんか、すげぇことが書いてあるぞ?」
「なんか、とか。すげぇじゃわかんねぇよ」
久しぶりの兄弟の対面。
就職も決まって、弟としてはやはりそんな話もしたかった。にも拘らず、#件__くだん__の兄は、古びた冊子に没頭して食事時すら離そうとしない。
洋祐は、ため息を吐いて生姜焼きを頬張った。
「洋祐」
冊子を手から離し、食事のスピードを上げた英祐が味噌汁を啜ると。徐に洋祐の名を呼んだ。
「なんだよ」
「金平糖、欲しかったら兄ちゃんに言えよ」
「はぁ!?」
「甘いもの買ってやるからな」
「な、なんで金平糖なんだよッ!!」
「兄は偉大なのだ」
「……」
冊子の影響か?
普段言わないことを口走る兄に、洋祐は生姜焼きを喉に詰めそうになった。
冊子を読んでから……? いや。
読む前も、おおよそ、変わったところがある兄だとは思っていた洋祐だったが。こんな古びた冊子で、影響されまくる兄の姿を見たのは初めてのことだ。
洋祐は、堪らず絶句する。そして、我関せずを貫く母親に目配せをした。
「英祐が没頭し出したら、お母さんも無理よ」
「!?」
「とことん付き合うか、無視するか。どちらかになさい」
我が母親ながら、子を突き放すなんて非道い。再びため息を吐いた洋祐は、空になった皿を流しに運んで洗い始めた。
(付き合うか、無視するか)
皿を洗いながら、洋祐はダイニングに視線をうつす。先刻まで英祐の手中にあった冊子が、テーブルにポツンと置いてあった。
(そんなに没頭するか?)
兄を取られたような感覚。幼い頃は、妹に対してよくそんな感情を抱いていたっけ、と。自分の成長を自ら尊ぶ反面、何故にボロボロの冊子にそんな感情を抱かねばならないのか。自分自身に腹が立った。
「兄貴、ちょっと借りるわ」
洗い物を片して、洋祐はテーブルに置いてある冊子を手にした。
「あぁ。栞は移動させんなよ、洋祐」
「わかった」
洋祐はドカッとリビングのソファに腰を下ろす。そして、『有馬手記』と書かれた古い冊子をそっと開いた。
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