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28th episode
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紫色の閃光の隙間に見えるアスラの顔が、まるで楽しんでるかのように好戦的に見える。
目の前でぶつかり合う赤色と紫色の光の眩しさに、僕はしっかり目を開けていられなかった。
カリマとアスラの戦いを、見守るしかないのに。
その戦いもまともに、見ることもできないなんて。
ただ、一つ。
体の中に閉じ込められている僕に、一つだけ実感するものがあった。僕を縛っているカリマの蔓の威力が、弱くなっている気がする。
僕に使っている力を、アスラに対する力に回さざるを得ないのだ、と暗に示しているみたいだ。
……それくらい容赦ないんだ、アスラの真の力が。
ラクリマの一騎当千の騎士を一網打尽にしたカリマ。
本来の力ではないにせよ、あれだけの破壊力を行使するカリマに、アスラが一歩も引かず。いや、むしろ。押し気味で、拳を交えている。
『いい加減にしろよ、アスラ……!!』
苛立ちをあらわにした口調で、カリマが言った。
『この体は私の体じゃないんだぞ!?』
「十分知ってるよ、それくらい」
『心臓を一突きすれば……』
「そんなこと、させるわけない!!」
『……っ!!』
アスラの余裕のある表情が、僕の目の前を通り過ぎる。
紫色の光が直後に左目を覆って、体が後ろに吹き飛ばされた。アスラの姿が刹那に小さくなって、突然背中に何かが当たると、僕の体は前のめりに倒れ込んだ。
カリマに体を支配されているからか、不思議と痛くはない。痛くはないのに……。
背中をぶつけた衝撃なのか、それとも別の原因なのか。僕は、無性に胸が痛かった。
アスラが……僕の知ってるアスラじゃなくなった気がして……。すごく、胸が痛かったんだ。
カリマが床に膝をつき、ゆっくりと立ち上がる。
その時、体が赤い炎のような光に覆われているのが見えた。同時に、体が燃えてるように熱いと感じて、焦って体中を見回す。
僕を縛り付けている蔓が……燃えてる……!!
「うわぁぁぁーッ!!」
「シド!?」
『体をよこさぬのなら、焼き消すのみ』
熱さで叫ぶ僕の声をすり抜けて、地を這うように低いカリマの声が、神祠の中を静かに響き渡る。
『小さな土地を治めていたおまえとはわけが違うのだ。……そのヴァジュラ、私によこせッ!!』
体が……今までとは、比にならないくらい速く動いて。アスラとの距離を一気に詰めると、炎のような力を宿した右手が、アスラの鳩尾をとらえた。
「……ぐあっ!」
呻き声とともにアスラの顔が一瞬で歪む。カリマの力を受けた体は、勢いを殺すことなく壁へと一直線に飛んでいった。
「ア……アス……ラ」
壁に沿ってズルズルと体を滑らせたアスラは、そのまま力なく床に倒れ込んだ。
『心配するな、シド』
「……カリ……マッ!!」
『アスラを始末したら、おまえも同じところへ連れて行ってやる』
「……ッ!!」
床を滑るように移動して、カリマはうまく息が吸えずに咳き込むアスラの胸を蹴り上げる。
「っあ!!」
「アスラ……!!」
仰向けに倒れ込んだアスラの鳩尾あたりを、カリマが踵を軸に強く踏みつけ。さっき強烈な一撃をくらっていたアスラは、聞くに耐えない悲鳴をあげる。そして、カリマの足をどかそうと必死にもがいていた。
激しく体を捩っても、足を両手で掴んでも。赤い炎の力を纏ったカリマの足は、微動だにしない。
カリマから逃れることができない。
僕の命を救うことの算段を必死に探して……。
見て、られない。だから僕は、とっさに声がでた……。
「やめて……やめてくれ、カリマ」
喉につかえる声を振り絞るに、僕は続けたんだ。
「これ以上、アスラを傷つけないで……お願いだから……」
『……お願い?』
「ダメ……だ! シド!!」
カリマの声をかき消すようにアスラが叫ぶと、間髪入れずにカリマの足が鳩尾によりくいこんで。ギシギシと、アスラの体が声なき悲鳴をあげ、それに追い討ちをかけて。カリマの指先から伸びた鋭い緑の切先が、アスラの胸に浅く突き刺さる。
その先から。カリマの力がゆっくりとアスラの体の中から侵していく、そんな嫌な感じがした。
「お願いだ……やめてくれ!」
『願いを、聞けと?』
「あぁ、アスラを助けてくれ。……何でもする。何でも……するから」
悔しさと悲しさが入り乱れたアスラの紫色の瞳が、僕の顔を逸らさず見つめている。
『ならば、シド。おまえがアスラのヴァジュラを抜け』
「……」
『できぬか? ならば……』
「わかった……。わかったから」
僕は喉を鳴らしながら、言った。
「両手を自由にしてくれ。……じゃなきゃ、抜けないだろ?」
カリマが古い言葉を呟いた瞬間、まったく意識が通じなかった右手に感覚が戻った。
久しぶりに、右手が使える。
僕は、右手の親指の爪を歯にかけて、呟いたんだ……。
「アスラ、ごめん」って。
アスラの眉がピクッと動いた。
カリッと、響く爪の音。覚えていてくれるかな……。僕のクセ。僕が〝嘘〟をついている時の、クセ。
気づけッ!! アスラ!!
僕はアスラの胸に手を置いて短く息を吸うと、アスラの腕をありったけの力で引っ張った!!
「アスラーッ! 今だッ!!」
カリマの足を跳ね除けたアスラの腕に大きな渦をまいた紫色の光が、僕の胸にぶち当たる! 体に纏わり付く赤い光と、紫色の光が火花を散らして反発しあう。
今、なら。今……アスラと対峙している、今なら!!
カリマのこの蔓を解けるかもしれない……!!
ヴァジュラの結界を解いた時みたいに……。そうだ……できる!! 絶対に!! 僕は両手の拳を握りしめると、グッと力を入れた。
「うぉぉぉーッ!!」
『……何を!?』
狼狽するカリマの声が耳元で響いた。でも、その声を打ち消すように、僕はより拳に力を込めた。
ミシッ……ミシ、ミシ……。
僕の体の中に隙間なく絡まるカリマの熱を帯びた蔓が、軋んだ音をたてて、パラパラと蔓が力なく落ちていく。
熱いけど……。
気が遠くなるくらい、焼けそうだけど……関係ない。
……もう、すこし……すこし……だ!!
バァァン!!
爆音と共に、体の周りで蔓がはじけて。自らの熱で蔓が溶けて消えると、炎のような力が僕の体からフッと抜ける。
「Shatter!!(砕け散れッ!!)」
アスラの言葉が響いた次の瞬間、紫色の閃光が頬をかすめて、僕の後ろに消えた。
『がぁぁぁーッ!!』
カリマの断末魔に驚いて、僕は思わず振り返った。
赤い炎の塊を紫色の閃光が真っ二つに切り裂き。その中にうっすらと映る影が、苦しそうにもがきながら叫び声をあげた。
影がその身に紫の光を孕んで、徐々に宿す光を大きくしていき。限界まで膨らんだ瞬間、爆発し神祠の中を光で染め上げていく。
眩しいのに……。
目を逸らすことができなかったんだ。
その心境というか、思いというか。アスラの、僕の肩に手を回して抱き寄せる行為が。僕たちは、同じ思いでこの光景を見ているんだって……。そう、直感した。
光が小さくなって、神祠の風景が元に戻ると。
影があった場所に、小さな塊が蹲っていた。刺を宿した、緑色をした蔓の……小さな、小さな塊。
苦しそうに、グニャッと動いては。動くたびにその命数が尽きている、そんな感じがする。
僕は近寄ることもできずに。ただ、思っていたよりも小さくて無力なその塊を見つめていた。
小さな塊の中に見えた赤い瞳。赤い瞳を揺らして僕を見つめる塊が誰なのか。僕はこの時はじめて、理解した。
カリマだ……!
こんな……姿になってしまったのか……!?
強くて、揺るがない。
目の前に立ち憚る邪魔者は、すべて消してしまう残忍なカリマは……。
こんなに、儚かったのか……!?
呼吸をすることが困難になるくらい、その姿に驚いている僕に、今にも消え入りそうな声でカリマは言った。
「……死に……たくない。……消え、たくない……。助け……て……。助けて……」
やりきれない。こんな姿になることを、カリマは望んでいなかったはずだ。
長い間封印されて、やっと外にでられたのに……。
カリマも、僕たちと一緒だったんだ。
生きたくて、自由になりたくて。
……そう思うと、これ以上苦しそうに悶えるカリマを見ていられなくなった。僕に手を伸ばすように近づく緑色の塊が、刺の先からマンデヒラの小さな花を刹那に咲かしていく。僕は床に落ちていた番人の短剣を手にした。
「……助けて」
「カリマ……ごめんね」
「……!?」
「君も必死に生きようとしただけなんだよね……」
「た……助け……」
僕は静かに首を振った。
「ごめん……ごめんね……」
僕は右手に短剣を握りなおすと、左手を柄に添えて頭の上からカリマに向かって短剣を振り下ろした。
「ぎゃ……」
微かな悲鳴が、僕の耳に刺さる。僕が振り下ろした短剣は、変わり果てたカリマの体の真ん中に深く食い込み。その部わから、白い結晶に変化した。白い結晶は緑色の体を蝕むかのように、放射状に広がると硬化させて、カリマ自身をまた変えていく。
これ……塩だ。
塩に……なったんだ。
罪を犯したわけじゃない。
自分に素直に生きた結果なんだ。
でも、どこかで歯車が狂って。
自分を苦しめてしまったんだ。
塩の塊となったカリマの姿が。
偏西風がその姿をけずりとるように小さくして。
塩となったカリマが消えていく。
「……カリマ、さようなら」
目的のために僕を支配し、烈火のように激しく身を焦がしたカリマ。
その姿は、塩になって僕の手をすり抜けると。完全に僕の前から無くなってしまった。
目の前でぶつかり合う赤色と紫色の光の眩しさに、僕はしっかり目を開けていられなかった。
カリマとアスラの戦いを、見守るしかないのに。
その戦いもまともに、見ることもできないなんて。
ただ、一つ。
体の中に閉じ込められている僕に、一つだけ実感するものがあった。僕を縛っているカリマの蔓の威力が、弱くなっている気がする。
僕に使っている力を、アスラに対する力に回さざるを得ないのだ、と暗に示しているみたいだ。
……それくらい容赦ないんだ、アスラの真の力が。
ラクリマの一騎当千の騎士を一網打尽にしたカリマ。
本来の力ではないにせよ、あれだけの破壊力を行使するカリマに、アスラが一歩も引かず。いや、むしろ。押し気味で、拳を交えている。
『いい加減にしろよ、アスラ……!!』
苛立ちをあらわにした口調で、カリマが言った。
『この体は私の体じゃないんだぞ!?』
「十分知ってるよ、それくらい」
『心臓を一突きすれば……』
「そんなこと、させるわけない!!」
『……っ!!』
アスラの余裕のある表情が、僕の目の前を通り過ぎる。
紫色の光が直後に左目を覆って、体が後ろに吹き飛ばされた。アスラの姿が刹那に小さくなって、突然背中に何かが当たると、僕の体は前のめりに倒れ込んだ。
カリマに体を支配されているからか、不思議と痛くはない。痛くはないのに……。
背中をぶつけた衝撃なのか、それとも別の原因なのか。僕は、無性に胸が痛かった。
アスラが……僕の知ってるアスラじゃなくなった気がして……。すごく、胸が痛かったんだ。
カリマが床に膝をつき、ゆっくりと立ち上がる。
その時、体が赤い炎のような光に覆われているのが見えた。同時に、体が燃えてるように熱いと感じて、焦って体中を見回す。
僕を縛り付けている蔓が……燃えてる……!!
「うわぁぁぁーッ!!」
「シド!?」
『体をよこさぬのなら、焼き消すのみ』
熱さで叫ぶ僕の声をすり抜けて、地を這うように低いカリマの声が、神祠の中を静かに響き渡る。
『小さな土地を治めていたおまえとはわけが違うのだ。……そのヴァジュラ、私によこせッ!!』
体が……今までとは、比にならないくらい速く動いて。アスラとの距離を一気に詰めると、炎のような力を宿した右手が、アスラの鳩尾をとらえた。
「……ぐあっ!」
呻き声とともにアスラの顔が一瞬で歪む。カリマの力を受けた体は、勢いを殺すことなく壁へと一直線に飛んでいった。
「ア……アス……ラ」
壁に沿ってズルズルと体を滑らせたアスラは、そのまま力なく床に倒れ込んだ。
『心配するな、シド』
「……カリ……マッ!!」
『アスラを始末したら、おまえも同じところへ連れて行ってやる』
「……ッ!!」
床を滑るように移動して、カリマはうまく息が吸えずに咳き込むアスラの胸を蹴り上げる。
「っあ!!」
「アスラ……!!」
仰向けに倒れ込んだアスラの鳩尾あたりを、カリマが踵を軸に強く踏みつけ。さっき強烈な一撃をくらっていたアスラは、聞くに耐えない悲鳴をあげる。そして、カリマの足をどかそうと必死にもがいていた。
激しく体を捩っても、足を両手で掴んでも。赤い炎の力を纏ったカリマの足は、微動だにしない。
カリマから逃れることができない。
僕の命を救うことの算段を必死に探して……。
見て、られない。だから僕は、とっさに声がでた……。
「やめて……やめてくれ、カリマ」
喉につかえる声を振り絞るに、僕は続けたんだ。
「これ以上、アスラを傷つけないで……お願いだから……」
『……お願い?』
「ダメ……だ! シド!!」
カリマの声をかき消すようにアスラが叫ぶと、間髪入れずにカリマの足が鳩尾によりくいこんで。ギシギシと、アスラの体が声なき悲鳴をあげ、それに追い討ちをかけて。カリマの指先から伸びた鋭い緑の切先が、アスラの胸に浅く突き刺さる。
その先から。カリマの力がゆっくりとアスラの体の中から侵していく、そんな嫌な感じがした。
「お願いだ……やめてくれ!」
『願いを、聞けと?』
「あぁ、アスラを助けてくれ。……何でもする。何でも……するから」
悔しさと悲しさが入り乱れたアスラの紫色の瞳が、僕の顔を逸らさず見つめている。
『ならば、シド。おまえがアスラのヴァジュラを抜け』
「……」
『できぬか? ならば……』
「わかった……。わかったから」
僕は喉を鳴らしながら、言った。
「両手を自由にしてくれ。……じゃなきゃ、抜けないだろ?」
カリマが古い言葉を呟いた瞬間、まったく意識が通じなかった右手に感覚が戻った。
久しぶりに、右手が使える。
僕は、右手の親指の爪を歯にかけて、呟いたんだ……。
「アスラ、ごめん」って。
アスラの眉がピクッと動いた。
カリッと、響く爪の音。覚えていてくれるかな……。僕のクセ。僕が〝嘘〟をついている時の、クセ。
気づけッ!! アスラ!!
僕はアスラの胸に手を置いて短く息を吸うと、アスラの腕をありったけの力で引っ張った!!
「アスラーッ! 今だッ!!」
カリマの足を跳ね除けたアスラの腕に大きな渦をまいた紫色の光が、僕の胸にぶち当たる! 体に纏わり付く赤い光と、紫色の光が火花を散らして反発しあう。
今、なら。今……アスラと対峙している、今なら!!
カリマのこの蔓を解けるかもしれない……!!
ヴァジュラの結界を解いた時みたいに……。そうだ……できる!! 絶対に!! 僕は両手の拳を握りしめると、グッと力を入れた。
「うぉぉぉーッ!!」
『……何を!?』
狼狽するカリマの声が耳元で響いた。でも、その声を打ち消すように、僕はより拳に力を込めた。
ミシッ……ミシ、ミシ……。
僕の体の中に隙間なく絡まるカリマの熱を帯びた蔓が、軋んだ音をたてて、パラパラと蔓が力なく落ちていく。
熱いけど……。
気が遠くなるくらい、焼けそうだけど……関係ない。
……もう、すこし……すこし……だ!!
バァァン!!
爆音と共に、体の周りで蔓がはじけて。自らの熱で蔓が溶けて消えると、炎のような力が僕の体からフッと抜ける。
「Shatter!!(砕け散れッ!!)」
アスラの言葉が響いた次の瞬間、紫色の閃光が頬をかすめて、僕の後ろに消えた。
『がぁぁぁーッ!!』
カリマの断末魔に驚いて、僕は思わず振り返った。
赤い炎の塊を紫色の閃光が真っ二つに切り裂き。その中にうっすらと映る影が、苦しそうにもがきながら叫び声をあげた。
影がその身に紫の光を孕んで、徐々に宿す光を大きくしていき。限界まで膨らんだ瞬間、爆発し神祠の中を光で染め上げていく。
眩しいのに……。
目を逸らすことができなかったんだ。
その心境というか、思いというか。アスラの、僕の肩に手を回して抱き寄せる行為が。僕たちは、同じ思いでこの光景を見ているんだって……。そう、直感した。
光が小さくなって、神祠の風景が元に戻ると。
影があった場所に、小さな塊が蹲っていた。刺を宿した、緑色をした蔓の……小さな、小さな塊。
苦しそうに、グニャッと動いては。動くたびにその命数が尽きている、そんな感じがする。
僕は近寄ることもできずに。ただ、思っていたよりも小さくて無力なその塊を見つめていた。
小さな塊の中に見えた赤い瞳。赤い瞳を揺らして僕を見つめる塊が誰なのか。僕はこの時はじめて、理解した。
カリマだ……!
こんな……姿になってしまったのか……!?
強くて、揺るがない。
目の前に立ち憚る邪魔者は、すべて消してしまう残忍なカリマは……。
こんなに、儚かったのか……!?
呼吸をすることが困難になるくらい、その姿に驚いている僕に、今にも消え入りそうな声でカリマは言った。
「……死に……たくない。……消え、たくない……。助け……て……。助けて……」
やりきれない。こんな姿になることを、カリマは望んでいなかったはずだ。
長い間封印されて、やっと外にでられたのに……。
カリマも、僕たちと一緒だったんだ。
生きたくて、自由になりたくて。
……そう思うと、これ以上苦しそうに悶えるカリマを見ていられなくなった。僕に手を伸ばすように近づく緑色の塊が、刺の先からマンデヒラの小さな花を刹那に咲かしていく。僕は床に落ちていた番人の短剣を手にした。
「……助けて」
「カリマ……ごめんね」
「……!?」
「君も必死に生きようとしただけなんだよね……」
「た……助け……」
僕は静かに首を振った。
「ごめん……ごめんね……」
僕は右手に短剣を握りなおすと、左手を柄に添えて頭の上からカリマに向かって短剣を振り下ろした。
「ぎゃ……」
微かな悲鳴が、僕の耳に刺さる。僕が振り下ろした短剣は、変わり果てたカリマの体の真ん中に深く食い込み。その部わから、白い結晶に変化した。白い結晶は緑色の体を蝕むかのように、放射状に広がると硬化させて、カリマ自身をまた変えていく。
これ……塩だ。
塩に……なったんだ。
罪を犯したわけじゃない。
自分に素直に生きた結果なんだ。
でも、どこかで歯車が狂って。
自分を苦しめてしまったんだ。
塩の塊となったカリマの姿が。
偏西風がその姿をけずりとるように小さくして。
塩となったカリマが消えていく。
「……カリマ、さようなら」
目的のために僕を支配し、烈火のように激しく身を焦がしたカリマ。
その姿は、塩になって僕の手をすり抜けると。完全に僕の前から無くなってしまった。
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