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第四章 大規模討伐と彼等との再会

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バーンヴォルフの群れを漸く全滅させた僕達は、魔獣の体液が着いてしまったり、汗と埃で汚れてしまった身体を、魔導士さん達の洗浄魔法で綺麗にして貰い、ミランダさんが張ってくれた結界の中で昼食を摂る事になった。

僕は異空間鞄の中から、ハイネさんに作って貰った大量のステーキを挟んだサンドイッチと具沢山スープを取り出し、魔導士さん達の前に並べ回復魔法をかけてもらうとそれを一人ひとりに分けて歩いた。
「ありがとう、のぞむ。」
「美味い!」
「なんだこれ?食べれば食べる程力が湧いてくる!」
「まさかこれ!回復魔法がかかってるのか?」
「そうです。先程魔導士さん達にかけて貰いました。」
「のぞむは良い奴だからな。」
「いえ。いつも異世界から来た僕と仲良くして下さっている皆さんに、恩返しが出来たら……。そう思っただけですから。」

そう。皆さんに恩返しがしたい。本当にただそれだけだ。
こんなコミュ障な僕を受け入れてくれた、この世界の優しい人達。
元の世界では、みんなから馬鹿にされ、いつも虐められていた僕なのに、この世界に来て、右も左も分からない僕を受け入れてくれた街の人。僕がどんなに屑でも冒険者さん達は、馬鹿にしないし虐めもしない。みんなみんな暖かい人達ばっかりだと思う。
だからこそ、役に立ちたかった。
街の人達を守る為に強くなりたかった。
僕を仲間にしてくれたルードリッヒさん達に、使える奴だと認めて貰いたかった。

そんな僕の思いを知ってか知らずか、今結界の中で束の間の平和を分かち合うかのように、僕の周りで笑いあっている冒険者さん達と一緒に、ハイネさんが作ってくれたサンドイッチをほうばった。

そんな僕達の耳に、
『前方からも後方からも何かが此方に迫ってきている。何者かが分かり次第報告する。』
と見張りの為、高い木の上にいた魔導士の一人が通信機で伝えてきた。その第一報を受けた、各パーティーのリーダー達、それとルードリッヒさんカールソンさんミランダさんそして僕は、次の情報が来るのをじっと待った。

第一報から数分後。
『前方。森の方から来るのは魔獣!後方は、人間です!』

と、魔導士が第二報をそう告げた。

此方に来るのは魔獣と人間……か。

まぁ、魔獣が来るのは分かる。
きっと今も辺りを漂うバーンヴォルフの血の匂いを嗅ぎつけたからだろう。
だが……後方からの人間…とは……一体誰が?

(もしかしたら、勇達かもしれない。)

僕は、昨日ルードリッヒさんが言った言葉を思い出し、ほぼ確定だろうと思われる考えに身体がブルっと震えた。

この震えは【武者震い】か?それとも【トラウマ】に拠るものか?
前者か後者かは、会えば分かる事。
ただ……今の僕はあの頃と違って、一人ぼっちじゃない!大勢の仲間がいる。
ゲームの世界の中の仲間じゃなくて、リアルで本物の仲間だ。だから大丈夫。僕 は変わったんだから。
そう信じる事にした僕は、前後から迫り来る気配に耳を澄まし、神経を集中させるが如くそっと目を瞑った。
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