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第六章 ヲタは領域を制す(王との謁見編)
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その日の夜
僕はまた、ルードリッヒさんのお屋敷に泊めてもらう事になった。
何故なら、明日の王との謁見の刻限が早い為、市井に住む僕の所へ寄ってからの登城では間に合わないかもしれないという理由からだ。
一応ダメ元で、ルードリッヒさんに「僕は行かなくても……」と言ってみたが、凄みのある笑顔を浮かべ
「のぞむ?」
という一言だけで一蹴されてしまった。
それに、
「お父様には、私とお兄様が話しますわ。ですから、のぞむ君は何も言わなくても良いのですよ。安心なさって?」
と、ミランダさんからも諭される様に言われてしまった。
嫌な思い出しか無い謁見の間に二度と行きたくないという気持ちはあるが、承諾せざるを得ない雰囲気にのまれ、仕方なく同行する事にした。が、あくまで僕は、王族や神官達に何か言われたとしても、一切口を開かないと密かに心に決めていたのは内緒の話だけど。
公爵家での豪華な晩餐に呼ばれる事になった僕は、与えられた部屋にある大きな姿見で、着てきた一張羅に不備は無いか?と確認していた。
すると、部屋のドアをコンコンとノックする音が聞こえ、続いて
「執事のダンヒルにございます。のぞむ様にお届け物がございます。」
と声がかかった。
ダンヒルって誰だっけ?と思いながらも、
「はい、今開けます。」
と言ってドアを開けた。とそこには、前にこのお屋敷に来た時に見た事がある男性が二個の大きな箱を持って立っていたんだ。
(へぇ……。この人の名前ってダンヒルて名前だったんだ。初めて聞いたよな。)と思いながら、
「お届け物って、それですか?」
と聞くと、
「左様にございます。此方は今宵の晩餐の際にお召になって頂くお召し物と、明日の謁見の際にお召になって頂くお召し物にございます。」
(お召お召って……僕は平民なんだから、普通に"着てくれ”って言えば良いのに……。)
「は、い……、そうですか。分かりました。ありがとうございます。」
と言って箱を受け取ろうと手を伸ばしたが、ダンヒルさんは
「私めがお運び申し上げますので……。では、失礼致します。」
と言って部屋の中に入ってきた。
部屋に入ったダンヒルさんは、クローゼットまで歩くと、箱を床に置き、箱から取り出した服をクローゼットの中にしまっていた。そして僕を見ると、
「晩餐の前に、湯あみをなさって下さい。」
と言うダンヒルさんに、
「お風呂には入って来ましたが。」
と言うも、
「左様でしたか。ですが、御髪を整えたいもので……。お入り願えますか?」
と有無を言わさないという雰囲気を纏い乍、ダンヒルはそう言った。
ということで、本日二度目の風呂に入る事が決定してしまった僕は、ただ今絶賛入浴中だ。
しかも……可愛い女の子(多分年下)が僕の髪の毛をいい匂いのするシャンプーで洗ってくれているんだ。
元の世界では当たり前に使っていたシャンプーだが、この世界の平民の生活では、シャンプーで髪を洗えるのは貴族のみ。しかも富裕層の貴族だけだと聞いている。
僕も普段は、体を洗う石鹸を使って髪を洗っていたし、リンスなんて代物は無いから、いつも髪はごわついていた。
けれど今は……適度な力での頭皮マッサージ付きでのシャンプーは、気持ちが良過ぎて寝そうになってしまう。
「のぞむ様の御髪は、柔らかくていらっしゃいますね。それにとても綺麗ですわ。」
と言って、泡を流し終えた僕の髪に、今度はオイルのような物を塗り込んでくれた。
「今塗っている物は何ですか?」
と僕が聞くと、
「香油にございますわ、のぞむ様。此方を塗りますと、御髪に艶が出るんですの。」
「そうなんですね。」
と言いながら頭に手をやると……ベタベタする様な感じは無くて安心した。
風呂から出ると、待っていたまた別の女の子に体を拭かれそうになり、僕は慌てて
「自分でやります。」
と言うも、
「のぞむ様のお体を拭かせて頂くのが私めの務めにございます。どうか私にお体を拭かせて下さいまし。」
と目に涙を浮かべ懇願されてしまった。
流石に下半身だけは自分で拭かせて貰ったが、それ以外は(服を着るまで)されるがままになった僕は、夕ご飯の時刻になる頃までにはすっかり疲れてしまっていた。
「はぁ……。貴族って、皆こんな生活してるのかな?僕には無理だ~。」
と誰もいなくなった部屋で、独りごちた僕だった。
僕はまた、ルードリッヒさんのお屋敷に泊めてもらう事になった。
何故なら、明日の王との謁見の刻限が早い為、市井に住む僕の所へ寄ってからの登城では間に合わないかもしれないという理由からだ。
一応ダメ元で、ルードリッヒさんに「僕は行かなくても……」と言ってみたが、凄みのある笑顔を浮かべ
「のぞむ?」
という一言だけで一蹴されてしまった。
それに、
「お父様には、私とお兄様が話しますわ。ですから、のぞむ君は何も言わなくても良いのですよ。安心なさって?」
と、ミランダさんからも諭される様に言われてしまった。
嫌な思い出しか無い謁見の間に二度と行きたくないという気持ちはあるが、承諾せざるを得ない雰囲気にのまれ、仕方なく同行する事にした。が、あくまで僕は、王族や神官達に何か言われたとしても、一切口を開かないと密かに心に決めていたのは内緒の話だけど。
公爵家での豪華な晩餐に呼ばれる事になった僕は、与えられた部屋にある大きな姿見で、着てきた一張羅に不備は無いか?と確認していた。
すると、部屋のドアをコンコンとノックする音が聞こえ、続いて
「執事のダンヒルにございます。のぞむ様にお届け物がございます。」
と声がかかった。
ダンヒルって誰だっけ?と思いながらも、
「はい、今開けます。」
と言ってドアを開けた。とそこには、前にこのお屋敷に来た時に見た事がある男性が二個の大きな箱を持って立っていたんだ。
(へぇ……。この人の名前ってダンヒルて名前だったんだ。初めて聞いたよな。)と思いながら、
「お届け物って、それですか?」
と聞くと、
「左様にございます。此方は今宵の晩餐の際にお召になって頂くお召し物と、明日の謁見の際にお召になって頂くお召し物にございます。」
(お召お召って……僕は平民なんだから、普通に"着てくれ”って言えば良いのに……。)
「は、い……、そうですか。分かりました。ありがとうございます。」
と言って箱を受け取ろうと手を伸ばしたが、ダンヒルさんは
「私めがお運び申し上げますので……。では、失礼致します。」
と言って部屋の中に入ってきた。
部屋に入ったダンヒルさんは、クローゼットまで歩くと、箱を床に置き、箱から取り出した服をクローゼットの中にしまっていた。そして僕を見ると、
「晩餐の前に、湯あみをなさって下さい。」
と言うダンヒルさんに、
「お風呂には入って来ましたが。」
と言うも、
「左様でしたか。ですが、御髪を整えたいもので……。お入り願えますか?」
と有無を言わさないという雰囲気を纏い乍、ダンヒルはそう言った。
ということで、本日二度目の風呂に入る事が決定してしまった僕は、ただ今絶賛入浴中だ。
しかも……可愛い女の子(多分年下)が僕の髪の毛をいい匂いのするシャンプーで洗ってくれているんだ。
元の世界では当たり前に使っていたシャンプーだが、この世界の平民の生活では、シャンプーで髪を洗えるのは貴族のみ。しかも富裕層の貴族だけだと聞いている。
僕も普段は、体を洗う石鹸を使って髪を洗っていたし、リンスなんて代物は無いから、いつも髪はごわついていた。
けれど今は……適度な力での頭皮マッサージ付きでのシャンプーは、気持ちが良過ぎて寝そうになってしまう。
「のぞむ様の御髪は、柔らかくていらっしゃいますね。それにとても綺麗ですわ。」
と言って、泡を流し終えた僕の髪に、今度はオイルのような物を塗り込んでくれた。
「今塗っている物は何ですか?」
と僕が聞くと、
「香油にございますわ、のぞむ様。此方を塗りますと、御髪に艶が出るんですの。」
「そうなんですね。」
と言いながら頭に手をやると……ベタベタする様な感じは無くて安心した。
風呂から出ると、待っていたまた別の女の子に体を拭かれそうになり、僕は慌てて
「自分でやります。」
と言うも、
「のぞむ様のお体を拭かせて頂くのが私めの務めにございます。どうか私にお体を拭かせて下さいまし。」
と目に涙を浮かべ懇願されてしまった。
流石に下半身だけは自分で拭かせて貰ったが、それ以外は(服を着るまで)されるがままになった僕は、夕ご飯の時刻になる頃までにはすっかり疲れてしまっていた。
「はぁ……。貴族って、皆こんな生活してるのかな?僕には無理だ~。」
と誰もいなくなった部屋で、独りごちた僕だった。
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