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第六章 ヲタは領域を制す(王との謁見編)

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今日が来なければ良いのにと願ったのだが、やはり無駄だった。
朝が来て、目が覚めた僕は、前の日に用意してもらっておいた水瓶で桶に水を張り、顔を洗って服を着替え、お屋敷の玄関を出ると、広大な庭内を走った。
数日間寝込んいた事でトレーニングを休んでしまっていた為、身体がすっかりなまってしまっていたのか、庭の外周(柵の内側)を二周しただけで息が上がってしまった。
まぁ二周だけといっても、一周が約1kmもあるんだから、2km走った事になるんだけど……。
「やっぱり本調子じゃないな。早く戻さないと。」
と言いながら、持ってきた手巾で汗を拭いていると、
「やはり此方におられましたのね。」
と、僕がいるガゼボに、お付の女の人達数人を従えたミランダさんがやってきた。

「おはようございます、ミランダさん。」
「おはようございます、のぞむ君。昨晩はぐっすり眠れまして?」
と聞かれ、
「はい。」
と答えたが、それは全くの嘘だった。
何故なら僕は、初めて王族に会った時に見た、あの僕を蔑む視線を思い出してしまい、少しも眠れずにいたからだ。

初めての世界で不安に思う僕達……いや、違うな。
初めての世界に飛ばされた上に、魔力が無いからと言って僕に・・対して、ゴミを見るような視線を向けて来た王様や、そんな僕を憐れみと蔑みの視線で見てきた司祭のおじさん。
あの場で、僕の事を心配してくれた人は一人もいなかった。
ただ……城を出る時に「お守りだ。」と言って、魔石をくれた騎士さんだけが、僕を心配してくれた人だった。
もし再び彼に会えたら、お礼だけはしておきたいなとは思うけど、彼以外には正直会いたくない気持ちしか無かったから。

そんな僕の様子を見ていたミランダさんが、
「それは嘘ですわね。お顔を見れば分かりますわ。」
と言って、僕の両頬を小さな手でそっと挟んだ。そして、
「この様に目の下に黒い縁どりを作る程、眠れずにいらしたのでしょう。」
と僕の両目の下を、彼女の親指がそっと撫でている。

彼女の突然の行為に驚いたが、親指が当たっている場にそっと感じた温もりが、彼女が今、癒しの魔法を使ってくれている事を教えてくれた。多分、僕の両目の下の隈を取ってくれたんだろう。
「ミランダさん……。ありがとうございます。」
と言うと、彼女はただ優しく微笑みを浮かべ、
朝餉あさげの用意がもう少しで整いましてよ。湯浴みの用意をして貰っていますから、お部屋に戻ったらお入りになって下さいませね。」
と言って、お付きの女の人達を連れて、来た道を戻って行った。

そんな彼女の背中を見送りながら、僕は彼女に対していつの頃か思う様になっていた密かな想い・・を無意識に口にしていた。

「貴女が好きです。ミランダさん。」
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