77 / 130
第六章 ヲタは領域を制す(王との謁見編)
4
しおりを挟む
僕らを乗せた公爵家の立派な二頭立ての馬車は、僕の行きたくないという気持ちを他所に、無事に王宮に到着してしまった。
馬車の小さな窓からでは、ほんの一部しか見えない城の壁を見た僕は、同乗しているルードリッヒさんとミランダさんに分からない様に嘆息したのだが、
「大丈夫だよ、のぞむ。悪いようにしないから。」
「そうですわ、のぞむ君。昨晩から申してますとおり、お兄様や私にお任せ下されば良いのです。ですからご安心なさいませね。」
と、二人から慰められてしまう。
確かに僕は、王様やあの日に話した司祭と呼ばれていた人に会いたくないという気持ちがある。
だけど今は、会いたくないという気持ちよりも勝る気持ちがあるんだ。それは……僕が今着ている服の事だ。
昨晩ルードリッヒさんが僕の為に用意してくれた服は、一着は昨夜の晩餐の時に着た上等な服(貴族の人達の普段着とかってルードリッヒさんは言ってたけど、僕からしたら、あれは普段着もんじゃないと思うが……)だったけど、今着てる服は……、公爵家の護衛騎士が着る、蒼と黒を基調とした軍服で、至る所に銀糸で素晴らしい刺繍が施されているものだ。
「ルードリッヒさん。ぼ、僕はこんな服を着る立場ではない……「それは違うよ、のぞむ。」え?」
「のぞむは今日。ミランダの護衛騎士として王宮に行くのだから。」
と、今朝公爵家で朝食をたべた後、部屋で着せられたこの軍服姿に戸惑う僕に、笑顔でそう言ったルードリッヒさん。
またミランダさんに至っては、
「素敵でしてよ、のぞむ君。本当に良くお似合いですわ。私専属の護衛騎士を付けて下さって、ありがとう存じますわ、お兄様。」
と、軍服姿の僕をまじまじと見たあと、僕の右腕にしがみつき乍ルードリッヒさんにお礼を言っていた。
「護衛騎士って……。僕はただの平民なのに……。」
と、城に到着した馬車からルードリッヒさん達より先に降り、カールソンさんと一緒に頭を下げながら、彼等二人が降りてくるのを待っていながらそう小さな声で呟いていた。が、カールソンさんから、
「今更ごちゃごちゃ言っても始まらん!今はミランダ様の護衛をしっかり務めるのが先決だろう。王宮は必ずしも安全な場では無い。何時何時主を害する輩が現れるか分からない場でもあるんだ。魔獣の討伐と同じだと思え。」
と、先に歩くルードリッヒさん達のあとについて歩いている今、そう言われてしまった。
そうだな。
今はミランダさんの護衛をしっかり務めよう。大切な彼女が傷付けられるとか……、僕はそんなの……絶対嫌だから!
そう思い直した僕は、両頬をバシッと一発両手で叩いて気合いを入れた。
そんな僕の行動を、僕より高い目線のカールソンさんが笑って見ていただなんて、僕は少しも気付かなかった。
馬車の小さな窓からでは、ほんの一部しか見えない城の壁を見た僕は、同乗しているルードリッヒさんとミランダさんに分からない様に嘆息したのだが、
「大丈夫だよ、のぞむ。悪いようにしないから。」
「そうですわ、のぞむ君。昨晩から申してますとおり、お兄様や私にお任せ下されば良いのです。ですからご安心なさいませね。」
と、二人から慰められてしまう。
確かに僕は、王様やあの日に話した司祭と呼ばれていた人に会いたくないという気持ちがある。
だけど今は、会いたくないという気持ちよりも勝る気持ちがあるんだ。それは……僕が今着ている服の事だ。
昨晩ルードリッヒさんが僕の為に用意してくれた服は、一着は昨夜の晩餐の時に着た上等な服(貴族の人達の普段着とかってルードリッヒさんは言ってたけど、僕からしたら、あれは普段着もんじゃないと思うが……)だったけど、今着てる服は……、公爵家の護衛騎士が着る、蒼と黒を基調とした軍服で、至る所に銀糸で素晴らしい刺繍が施されているものだ。
「ルードリッヒさん。ぼ、僕はこんな服を着る立場ではない……「それは違うよ、のぞむ。」え?」
「のぞむは今日。ミランダの護衛騎士として王宮に行くのだから。」
と、今朝公爵家で朝食をたべた後、部屋で着せられたこの軍服姿に戸惑う僕に、笑顔でそう言ったルードリッヒさん。
またミランダさんに至っては、
「素敵でしてよ、のぞむ君。本当に良くお似合いですわ。私専属の護衛騎士を付けて下さって、ありがとう存じますわ、お兄様。」
と、軍服姿の僕をまじまじと見たあと、僕の右腕にしがみつき乍ルードリッヒさんにお礼を言っていた。
「護衛騎士って……。僕はただの平民なのに……。」
と、城に到着した馬車からルードリッヒさん達より先に降り、カールソンさんと一緒に頭を下げながら、彼等二人が降りてくるのを待っていながらそう小さな声で呟いていた。が、カールソンさんから、
「今更ごちゃごちゃ言っても始まらん!今はミランダ様の護衛をしっかり務めるのが先決だろう。王宮は必ずしも安全な場では無い。何時何時主を害する輩が現れるか分からない場でもあるんだ。魔獣の討伐と同じだと思え。」
と、先に歩くルードリッヒさん達のあとについて歩いている今、そう言われてしまった。
そうだな。
今はミランダさんの護衛をしっかり務めよう。大切な彼女が傷付けられるとか……、僕はそんなの……絶対嫌だから!
そう思い直した僕は、両頬をバシッと一発両手で叩いて気合いを入れた。
そんな僕の行動を、僕より高い目線のカールソンさんが笑って見ていただなんて、僕は少しも気付かなかった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる