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第六章 ヲタは領域を制す(王との謁見編)

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僕らを乗せた公爵家の立派な二頭立ての馬車は、僕の行きたくないという気持ちを他所に、無事に王宮に到着してしまった。
馬車の小さな窓からでは、ほんの一部しか見えない城の壁を見た僕は、同乗しているルードリッヒさんとミランダさんに分からない様に嘆息したのだが、
「大丈夫だよ、のぞむ。悪いようにしないから。」
「そうですわ、のぞむ君。昨晩から申してますとおり、お兄様やわたくしにお任せ下されば良いのです。ですからご安心なさいませね。」
と、二人から慰められてしまう。

確かに僕は、王様やあの日に話した司祭と呼ばれていた人に会いたくないという気持ちがある。
だけど今は、会いたくないという気持ちよりも勝る気持ちものがあるんだ。それは……僕が今着ている服の事だ。

昨晩ルードリッヒさんが僕の為に用意してくれた服は、一着は昨夜の晩餐の時に着た上等な服(貴族の人達の普段着とかってルードリッヒさんは言ってたけど、僕からしたら、あれは普段着そんなもんじゃないと思うが……)だったけど、今着てる服は……、公爵家の護衛騎士が着る、蒼と黒を基調とした軍服で、至る所に銀糸で素晴らしい刺繍が施されているものだ。

「ルードリッヒさん。ぼ、僕はこんな服を着る立場ではない……「それは違うよ、のぞむ。」え?」
「のぞむは今日。ミランダの護衛騎士として王宮に行くのだから。」
と、今朝公爵家で朝食をたべた後、部屋で着せられたこの軍服姿に戸惑う僕に、笑顔でそう言ったルードリッヒさん。
またミランダさんに至っては、
「素敵でしてよ、のぞむ君。本当に良くお似合いですわ。わたくし専属の護衛騎士を付けて下さって、ありがとう存じますわ、お兄様。」
と、軍服姿の僕をまじまじと見たあと、僕の右腕にしがみつきながらルードリッヒさんにお礼を言っていた。

「護衛騎士って……。僕はただの平民なのに……。」
と、城に到着した馬車からルードリッヒさん達より先に降り、カールソンさんと一緒に頭を下げながら、彼等二人が降りてくるのを待っていながらそう小さな声で呟いていた。が、カールソンさんから、
「今更ごちゃごちゃ言っても始まらん!今はミランダ様の護衛をしっかり務めるのが先決だろう。王宮は必ずしも安全な場では無い。何時何時いつなんどきあるじを害するやからが現れるか分からない場でもあるんだ。魔獣の討伐と同じだと思え。」
と、先に歩くルードリッヒさん達のあとについて歩いている今、そう言われてしまった。

そうだな。
今はミランダさんの護衛をしっかり務めよう。大切な彼女が傷付けられるとか……、僕はそんなの……絶対嫌だから!

そう思い直した僕は、両頬をバシッと一発両手で叩いて気合いを入れた。

そんな僕の行動を、僕より高い目線のカールソンさんが笑って見ていただなんて、僕は少しも気付かなかった。
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