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第八章 王との謁見(相応しいのは誰だ?直接対決編)

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渡瀬は本当に強かった。
俺達三人が正攻法で挑んだら、きっと…いや絶対に勝てはしなかっただろう。
賢と昴の不意討ちでやっと勝てたぐらいだ。と言っても、愛子を賢達からの刃で庇い、傷だらけになった状態であるにも関わらず立ち上がった渡瀬は、賢と昴の向こう脛を正確に撃って動けなくしたんだから、最強としか言いようがなかった。

その直後仰向けに倒れた渡瀬は、己の血溜まりに沈んだが、直ぐに公爵と騎士の男、それから愛子と聖女対決の為に現れた女に助けられたみたいだ。
そしてその聖女は、渡瀬の願いを叶えるべく、俺達の傷を治してくれたんだ。

そして彼女は王宮の騎士や王がいる前で、俺達が元の世界で渡瀬にしてきた事は、真の勇者・真の賢者とは言えない。真の勇者とは、自分の事を蔑ろにしてきた相手にも、優しい気持ちを持つ事が出来る渡瀬の様な人物こそが相応しいと言う。

そんな彼女の言葉に、俺は全く反論が出来なかった。

彼女の言葉を噛み締めながら、俺は渡瀬に蹴られた自分の腹を見た。
渡瀬の蹴りは本当に強烈だった。多分肋骨にヒビが入っていただろう。だが、痛みのあまりうずくまってしまった俺に対して、渡瀬はそれ以上の攻撃を仕掛けて来る事は無かった。

なのに俺は……俺達は、渡瀬が倒れてもずっと……それこそ自分達の気の済む迄殴る蹴るの暴力を続けた。
愛子も寺田も、
「もっとやれ!もっとやれ!」
けしかけ、誰一人として、俺達の暴力を止める者はいなかったんだ。
俺達全員が渡瀬の尊厳を無視し、必死で身を守る渡瀬の無様な様子を笑っていた。本当に卑怯な行為だと思った。

ミランダという名前の彼女の言うとおりだ。
俺は勇者を語る資格なんて無い。
賢も昴もそれが分かった様で、彼女の凛とした姿とその言葉に、ただ俯くしかなかった。

ただ……一人だけ、彼女の言葉の理解が出来てなかったのか?聖女には程遠い、ただの自己防衛にもならない様な愚かな言葉を言い続けている奴がいた。
あんな女が……あんな馬鹿な奴に俺は惚れていたのかと思うと、自分で自分を殴りたくなった。


渡瀬に謝ろう。心から謝るんだ。
そして、勇者としてではなく、一人の男として封印に同行させて欲しいと言おう。
渡瀬は、俺を許してくれないかもしれない。
いや。渡瀬は許してくれても、渡瀬の仲間のあの人達は許してはくれないだろう。
それでも俺は渡瀬に謝るんだ。

俺はそう誓いながら、城の方へ戻って行く渡瀬の仲間達の背中をじっと見つめていた。

(~ 勇者 相田 勇side 終~)
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