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第一章 忘却の通り魔編
17.ターゲット
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「それでアイヴィ、新たに得た情報と言うのは何なのだ」
噴水のある広場に移動した三人は、通り魔を捕えるため作戦会議を開いていた。
「襲われて初めて、分かった事があるんだ」
アイヴィは噴水を背に、両手を腰に当て話し始める。
「あの通り魔はエーテルの術を使って奇襲を仕掛けてきたの。しかも顔より上の位置、高所からの一撃をね」
「高所か……。確かに住宅街や商店街の路地裏など、事件現場はどこも高所の多い所ばかりだな」
今までに得ている情報と照らし合わせ、彼女の話す内容を整理していく。
「次に、攻撃を受けた部分が赤く腫れて炎症を起こした。ひりひりとした痛みを感じた直後、意識を急速に奪われていったんだ」
「エーテル術にそのようなものはあるのか……?」
「もちろん。エーテルと命が密接に関係しているのは知ってるかな? 他人のエーテルへ過度に干渉する事で、心をかき乱したり、意識を奪ったり、さらには記憶障害を起こす事だって出来るんだ。当然、並みのエーテル使いじゃそんな事出来はしないけどね」
「記憶障害……」
「そう、だから君も興味があるんじゃないかなーって。と言っても、全ての記憶を消し去るなんて、聞いた事ないけど……」
「でも、その通り魔は記憶障害を意図的に起こす事が出来る」
「……そういう事。わたしも出来る限り抗ってみたけどダメだった。目が覚めたら、襲われた前後の記憶がほとんど残ってなかったの」
「なんとか守り抜いた記憶がその二つ、という訳か……」
「ごめんね、あんまり役に立たなくて」
「馬鹿を言うな。襲われて命の危険すらあったのに、それでも今後に繋がる事を考えて行動したのだろう。それだけで十分称賛に値する」
「優しいね。君は」
「ふん、お前がストイックなだけじゃないか」
「んふっ、かもねー」
いつもの調子で、アイヴィは気分屋な返事をする。
「そこで、わたしはある作戦を考えたんだ。どんなのだと思う??」
「なんだ、勿体ぶらずさっさと話せ」
「もー分かってないなぁ。それを今から説明するんだよっ」
アイヴィは道具屋で買った街の地図を広げ、赤色のペンで印を付けていく。
「バツ印がこの街で通り魔が現れた場所だよ。そして昨日の私で七人目」
「一ヶ月も経たずにこれほどとは……」
「そこでわたしは、この街の住民が犯人じゃないかと睨んでいるんだ」
「確かにそう……だが」
シキは納得しかけた。しかし何かが引っ掛かり言い淀む。
それは、サラから聞いた情報だった。
「サラが言っていた。他の街でも通り魔が現れ人を攫っていると。この街の住民がやっているなら、わざわざ離れた地まで行って通り魔を繰り返す必要があるか?」
アイヴィはペンの頭を唇に当て考える。
「離れた地……んー確かにそれは変だね。サラちゃんは他に何て言ってたの?」
「襲った相手の記憶を奪い、そしてそのまま連れ去ると言っていた」
「でも、それってちょっとおかしくないかな? だってこの街の被害者は、誰も居なくなってないよ?」
「サラは目的を持って攫っているのではないかと睨んでいた。彼女の話によれば、腕の立つ冒険者や名の知れた騎士、それに隣町の医者も攫われているらしい」
又聞きした情報をアイヴィへと伝える。しかし、シキは自分の言った言葉に引っかかった。
「待てアイヴィ、被害者は誰も消えていないと言ったな。彼らの襲われた時と場所、それに職業はどのようになっている?」
アイヴィは地図を使いながら、一人一人説明していく。
「一人目は魔物討伐で有名な冒険者。夜に酔って単独で歩いていたところを襲われてるね。二人目と三人目は同じパーティの一員で、それぞれ別行動中に襲われてる。四人目と五人目はそれぞれ流れのエーテル使い。仕事を求めてこの街に来たようだけど、一人は日没頃に、もう一人は深夜に単独行動中の時に襲われている……」
バツ印の横に情報を書き加えながら、説明を続ける。
「六人目はシキくんが運んだ冒険者で、本業はわたしと同じ賞金稼ぎ。同じく通り魔を追ってこの街に来たようだけど、一昨日の夜襲われている。そして七人目はわたし。街に来た理由は知っての通りで、昨日は君を探して街中を歩いてたんだ。そしたら突然……」
申し訳なさそうに話すアイヴィの姿が胸をざわつかせる。
感情を振り払うように地図へと視線を落とし、情報を整理しながら通り魔の目的を考察する。
「時間は日が落ちてから深夜、場所はこの商店街を中心としているな。被害者は全て外から来た人間か。それに、全員が単独行動中に襲われている……」
地図をまんべんなく見ていると、ある施設の存在が目についた。
「この街、やけに病院が少ないな。『ミコノスの宿』近くにある病院を除けば、小さな診療所が点々とあるだけのようだ」
「だってこの街には一番の名医がいるんだもの、みんなそこに行くんじゃない?」
「一番の名医?」
「ん?? 何不思議そうな顔してるの? この街で一番と言えば、サラちゃんの事でしょ」
当たり前のようにアイヴィは話すが、シキはその情報が間違えている事を知っていた。
「一番の名医はサラではない、彼女はその弟子だ。本当の名医と呼ばれる男は失踪している」
「えっ!?」
「なんだ、お前も勘違いしていたのか。サラが言っていたぞ、名医と勘違いされて困っているって……」
ぞわりと。
説明をしている最中に何かへ気づき、鳥肌が立った。
「……アイヴィ、被害者は襲われた後、どこで治療したんだ?」
「どこって、みんなサラちゃんの所に連れていって、治してもらったって聞いたけど……」
「冒険者以外にも連れ去られた者がいる。隣町の医者や、名医ミストラル……!」
「待って、シキくんどういう事なの……?」
「通り魔は一人で居る相手を狙っていた! だがサラは宿に住み、治療もそこで行っていた。だから狙えなかったのだ!!」
シキは立ち上がる。通り魔の狙い、次の被害者を守るために。
「サラはよく買い出しをしている。毎日のように被害者が出て、治療道具が足りなくなっているからだ。だが、それこそが通り魔の狙いだった!!」
シキは、宿を目指し走り出そうとした。しかしアイヴィは咄嗟に呼び止める。
「待ってってば! 今宿に帰っても居るか分からないよ!」
「なにっ!? どういう事だアイヴィ……!!」
「わたしが出かける時はもういなかったの。だから、宿じゃなくてこの商店街の中にいるんじゃないかな??」
「チッ、一人にするのは危険だ。二人とも行くぞ!」
ネオンとアイヴィは頷くと、シキと共に広場を後にした。
噴水のある広場に移動した三人は、通り魔を捕えるため作戦会議を開いていた。
「襲われて初めて、分かった事があるんだ」
アイヴィは噴水を背に、両手を腰に当て話し始める。
「あの通り魔はエーテルの術を使って奇襲を仕掛けてきたの。しかも顔より上の位置、高所からの一撃をね」
「高所か……。確かに住宅街や商店街の路地裏など、事件現場はどこも高所の多い所ばかりだな」
今までに得ている情報と照らし合わせ、彼女の話す内容を整理していく。
「次に、攻撃を受けた部分が赤く腫れて炎症を起こした。ひりひりとした痛みを感じた直後、意識を急速に奪われていったんだ」
「エーテル術にそのようなものはあるのか……?」
「もちろん。エーテルと命が密接に関係しているのは知ってるかな? 他人のエーテルへ過度に干渉する事で、心をかき乱したり、意識を奪ったり、さらには記憶障害を起こす事だって出来るんだ。当然、並みのエーテル使いじゃそんな事出来はしないけどね」
「記憶障害……」
「そう、だから君も興味があるんじゃないかなーって。と言っても、全ての記憶を消し去るなんて、聞いた事ないけど……」
「でも、その通り魔は記憶障害を意図的に起こす事が出来る」
「……そういう事。わたしも出来る限り抗ってみたけどダメだった。目が覚めたら、襲われた前後の記憶がほとんど残ってなかったの」
「なんとか守り抜いた記憶がその二つ、という訳か……」
「ごめんね、あんまり役に立たなくて」
「馬鹿を言うな。襲われて命の危険すらあったのに、それでも今後に繋がる事を考えて行動したのだろう。それだけで十分称賛に値する」
「優しいね。君は」
「ふん、お前がストイックなだけじゃないか」
「んふっ、かもねー」
いつもの調子で、アイヴィは気分屋な返事をする。
「そこで、わたしはある作戦を考えたんだ。どんなのだと思う??」
「なんだ、勿体ぶらずさっさと話せ」
「もー分かってないなぁ。それを今から説明するんだよっ」
アイヴィは道具屋で買った街の地図を広げ、赤色のペンで印を付けていく。
「バツ印がこの街で通り魔が現れた場所だよ。そして昨日の私で七人目」
「一ヶ月も経たずにこれほどとは……」
「そこでわたしは、この街の住民が犯人じゃないかと睨んでいるんだ」
「確かにそう……だが」
シキは納得しかけた。しかし何かが引っ掛かり言い淀む。
それは、サラから聞いた情報だった。
「サラが言っていた。他の街でも通り魔が現れ人を攫っていると。この街の住民がやっているなら、わざわざ離れた地まで行って通り魔を繰り返す必要があるか?」
アイヴィはペンの頭を唇に当て考える。
「離れた地……んー確かにそれは変だね。サラちゃんは他に何て言ってたの?」
「襲った相手の記憶を奪い、そしてそのまま連れ去ると言っていた」
「でも、それってちょっとおかしくないかな? だってこの街の被害者は、誰も居なくなってないよ?」
「サラは目的を持って攫っているのではないかと睨んでいた。彼女の話によれば、腕の立つ冒険者や名の知れた騎士、それに隣町の医者も攫われているらしい」
又聞きした情報をアイヴィへと伝える。しかし、シキは自分の言った言葉に引っかかった。
「待てアイヴィ、被害者は誰も消えていないと言ったな。彼らの襲われた時と場所、それに職業はどのようになっている?」
アイヴィは地図を使いながら、一人一人説明していく。
「一人目は魔物討伐で有名な冒険者。夜に酔って単独で歩いていたところを襲われてるね。二人目と三人目は同じパーティの一員で、それぞれ別行動中に襲われてる。四人目と五人目はそれぞれ流れのエーテル使い。仕事を求めてこの街に来たようだけど、一人は日没頃に、もう一人は深夜に単独行動中の時に襲われている……」
バツ印の横に情報を書き加えながら、説明を続ける。
「六人目はシキくんが運んだ冒険者で、本業はわたしと同じ賞金稼ぎ。同じく通り魔を追ってこの街に来たようだけど、一昨日の夜襲われている。そして七人目はわたし。街に来た理由は知っての通りで、昨日は君を探して街中を歩いてたんだ。そしたら突然……」
申し訳なさそうに話すアイヴィの姿が胸をざわつかせる。
感情を振り払うように地図へと視線を落とし、情報を整理しながら通り魔の目的を考察する。
「時間は日が落ちてから深夜、場所はこの商店街を中心としているな。被害者は全て外から来た人間か。それに、全員が単独行動中に襲われている……」
地図をまんべんなく見ていると、ある施設の存在が目についた。
「この街、やけに病院が少ないな。『ミコノスの宿』近くにある病院を除けば、小さな診療所が点々とあるだけのようだ」
「だってこの街には一番の名医がいるんだもの、みんなそこに行くんじゃない?」
「一番の名医?」
「ん?? 何不思議そうな顔してるの? この街で一番と言えば、サラちゃんの事でしょ」
当たり前のようにアイヴィは話すが、シキはその情報が間違えている事を知っていた。
「一番の名医はサラではない、彼女はその弟子だ。本当の名医と呼ばれる男は失踪している」
「えっ!?」
「なんだ、お前も勘違いしていたのか。サラが言っていたぞ、名医と勘違いされて困っているって……」
ぞわりと。
説明をしている最中に何かへ気づき、鳥肌が立った。
「……アイヴィ、被害者は襲われた後、どこで治療したんだ?」
「どこって、みんなサラちゃんの所に連れていって、治してもらったって聞いたけど……」
「冒険者以外にも連れ去られた者がいる。隣町の医者や、名医ミストラル……!」
「待って、シキくんどういう事なの……?」
「通り魔は一人で居る相手を狙っていた! だがサラは宿に住み、治療もそこで行っていた。だから狙えなかったのだ!!」
シキは立ち上がる。通り魔の狙い、次の被害者を守るために。
「サラはよく買い出しをしている。毎日のように被害者が出て、治療道具が足りなくなっているからだ。だが、それこそが通り魔の狙いだった!!」
シキは、宿を目指し走り出そうとした。しかしアイヴィは咄嗟に呼び止める。
「待ってってば! 今宿に帰っても居るか分からないよ!」
「なにっ!? どういう事だアイヴィ……!!」
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