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第二章 鏡映しの兄弟編
35.この世界は狂っている
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ダーダネラの戦士に連れ去られたシキは、もう一つの戦場で執拗に攻撃を受けていた。
「貴様のせいだ……貴様が現れて全てが狂い始めた。お前はなんだ? お前達は何なのだ!? この十年、あと少しだった。もう一つのエーテルコアが得られれば祖国との門は完成していた。そうすれば我が国はこの世界の頂点へと昇り詰める事が出来ていたはずだ!! なのにお前は……お前達のせいで……!!」
赤みを帯びた右手の紫炎と青みを帯びた左手。双方の紫炎でダーダネラの戦士はシキを殴り続ける。
背負っていた重荷ごと叩きつけるように、何度も何度も力無い彼を責め続けた。
「この世界は狂っているのだ……。平気で人を道具にする国、平気で人を攫う国、平気で人や獣のエーテルを弄繰り回す国、そして平気で人を魔物扱いする国。どいつもこいつも狂っている!! だから変えなければならないのだ。俺が、我らがダーダネラが、この世界を修正しなければ!! そのための作戦だったのだぞ……。敵国の要人を捕らえ、我らの力を証明する。そして世界中のエーテルコアを集め、この世界の悪を挫く。そのために備えた十年と言う月日を、お前達はこの一瞬で無駄にしたのだぞ!!」
血反吐を吐かせても、骨を何本も折っても、身体中を火傷跡で覆いつくしても、それでもダーダネラの戦士はシキを殴り続けた。殴り続けるしか、彼には考えられなくなっていた。
「だ……ったら……お前達が勝っていたら……どうなっていた……?」
「な……に……?」
「その次に来るのは……別の狂い……だ……。お前達によってもたらされた……別の……狂い……なのだ」
「そんなものは起こさせぬ!! 我らで徹底的に監視し、そのような事が起きないよう管理を行う!!」
ダーダネラの戦士は、頭に血を登らせながら反論を繰り返す。
そんな彼を見て、シキは呆れたように笑った。
「それが……狂いなのだ……」
「何を……言っている……?」
「狂いの原因が……他国からお前達へと移る……。それだけの事だ……。何故それが……分からぬ」
「貴様、世迷言を……!! 我らは人を攫って兵を集めなければ、エーテルを弄り道具へもしない。当然他国の民も人として扱う。そのために我らが管理すると言っているのだ。それのどこが狂いであるか!!」
やはり分かっていない。とシキは呟く。
ゆっくりと身を起こしながら、彼の言葉を紐解いていった。
「その……我らが管理する。という言葉こそが狂い……なのだ。お前の話す理想は……常にお前達が上に立っている前提での話……ではないか」
「なっ…………!! そうさ。ああそうだ。そうだとも。誰かが管理をしなければ、この世界は狂ったままだ。そのために、今まで魔物同然と迫害された我らが管理をしようと言っているのだ。それのどこがおかしいか!?」
「そもそも管理など……強要されて行うものではない。おかしな事を言う相手には、同じ舞台へ立って正してやればいい。お前達の理想のために、世界中という関係のない者達まで含める必要など、どこにもありはしないのだ……」
近くに転がっていた氷の槍を拾い、杖代わりにしてシキは立ち上がる。己の欲望のために世界を支配しようとする敵の前に、シキは立ちはだかる。
「だったらどうすると言う。貴様はもう戦えない。貴様にはもう我らを止める事は出来ない。次の一撃が当たれば意識も保っていられないだろう。そんな貴様が、貴様ごときが、どうやってこの俺を正すというのだ!!」
「私には目的がある。私だけではない、ミルカやエリーゼにも、それ以外にも私は沢山の願いを背負って旅を続けている……! だから今、ここでお前に負ける訳にはいかない。絶対に勝たなければならない。この感情だけあれば……十分だ!!」
轟々と、シキの身体から真っ赤な炎が燃え上がる。傷口を塞ぐように煌びやかな光が、骨を繋ぐように燃え盛る炎がシキに力を与える。
「……ッ!? そのエーテル……その熱量!! 貴様、体内にコアを取り込んでいるな!!」
「実際見てはいない……がなッ!!」
腕が上がる。足に力が入る。つまり、まだ戦える。動けると確信を得た瞬間、シキは一気に間合いを詰め、強固に作られた氷の槍を突き刺した。
「外道の分際で、我らに逆らおうなど!!」
ダーダネラの戦士も気後れせずシキの攻撃に対応する。
左足を軸に槍の一突きを身を反らせかわすと同時、かわした勢いを炎でより加速させ右手の裏拳で殴りかかる。
「当たらぬわ!!」
槍で突いた勢いのまま、シキもその場にとどまらず二歩三歩と前に足を運ぶ。予想外に距離感を外された紫炎が、真っ赤な炎と交差し、混ざり合うように燃え上がった。
「ならば当ててみせるまでだ。現れろ、愚か者共。愚者を灯し焦がす無の太陽……!!」
室内を覆いつくすほどの紫炎の塊が現れる。
襲い掛かる炎の塊は時折りダーダネラの戦士の姿に変異し、いとも容易く国を揺るがす一撃を放つ。
「理想と幻想を燃やす二つの太陽……!!」
術が放たれるより前に短剣で切り裂く。刃を当てても消えない本体へは氷の槍を振り回し距離を稼ぐ。
一瞬でも意識が抜ければそれだけで敗北が確定する。それほどギリギリの戦いをシキは強いられていた。
数は何度でも増える。攻撃が当たれば一撃で致命傷。そして敵にはフェイクが織り交ぜられている。自分と敵の大きさが少しでも違えば一瞬で袋叩きにされそうな戦いから、シキは抜け出せずにいた。
(どうする……何か手は無いのか!?)
寸前のところで保っているつば迫り合いも、最後の一押しを避け続けているに過ぎない。何か。この戦いを打破出来る何かがないのか。
エリーゼとの約束を破り、命をかけた戦いへ移ろうとした。その時だった。
僅かに、エリーゼの放った真っ白な雪煙が、シキの戦場へとなだれ込むのが目に入る。
(これだ!!)
シキは自身が連れ込まれた壁の穴へと近づく。
そして襲い掛かる強大な一撃一撃を避け、受け流し、苦痛に耐えながら、エリーゼの作り出した氷の壁へと攻撃させていた。
音を立て周辺の壁が崩れると同時、戦場に変化はもたらされる。
「…………なんだ。このエーテルは……」
紫炎によって作り出された陽炎と怪しいエーテルに満たされた空間。そこへ、エリーゼの精製した真っ白で純粋な雪煙が混ざり合う。
月の光がエリーゼの雪に反射し、色めき立つ。
希望に溢れた忌々しいエーテルの存在に、ダーダネラの戦士は静かに怒りを覚えていた。
その一瞬があれば十分であった。
「!? 奴はどこに……ッ!!」
「ここだぁ!!」
氷の槍が炎の爆発の中から飛び出す。
通常の何倍もの速度で放たれた槍はダーダネラの戦士の動きを上回り、彼の右肩へと突き刺さった。
「うぐっ……。この程度で……ッ!!」
突き刺さった氷の槍は瞬時に紫の炎で破壊される。
そしてダーダネラの戦士は、槍を放ちふらついているシキをその眼光で捉える。
「これで終わりだ。理想と幻想を燃やす二つの太陽……!!」
ダーダネラの戦士は二人に増える。
その右手には赤みを帯びた焦がれるような紫炎を、その左手には青みを帯びた灼熱の紫炎を灯し、愚かなる侵入者へと飛び込む。
「理想を灯す左手の太陽……!!」
「幻影を焦がす右手の太陽ァ!!」
放った槍をさらに超える速度で、二人のダーダネラの戦士はシキへと襲いかかる。
氷の槍はもうない。短剣も彼らには効かない。その身に宿る炎もで対抗する事も、全てを投げ捨てて守りに徹する事も、もう間に合わない。
「ダーダネラに……勝利の紫炎をーーーーーッ!」
紫炎に燃ゆる二つの太陽が、立ちはだかる障壁を燃やし尽くす。
「貴様のせいだ……貴様が現れて全てが狂い始めた。お前はなんだ? お前達は何なのだ!? この十年、あと少しだった。もう一つのエーテルコアが得られれば祖国との門は完成していた。そうすれば我が国はこの世界の頂点へと昇り詰める事が出来ていたはずだ!! なのにお前は……お前達のせいで……!!」
赤みを帯びた右手の紫炎と青みを帯びた左手。双方の紫炎でダーダネラの戦士はシキを殴り続ける。
背負っていた重荷ごと叩きつけるように、何度も何度も力無い彼を責め続けた。
「この世界は狂っているのだ……。平気で人を道具にする国、平気で人を攫う国、平気で人や獣のエーテルを弄繰り回す国、そして平気で人を魔物扱いする国。どいつもこいつも狂っている!! だから変えなければならないのだ。俺が、我らがダーダネラが、この世界を修正しなければ!! そのための作戦だったのだぞ……。敵国の要人を捕らえ、我らの力を証明する。そして世界中のエーテルコアを集め、この世界の悪を挫く。そのために備えた十年と言う月日を、お前達はこの一瞬で無駄にしたのだぞ!!」
血反吐を吐かせても、骨を何本も折っても、身体中を火傷跡で覆いつくしても、それでもダーダネラの戦士はシキを殴り続けた。殴り続けるしか、彼には考えられなくなっていた。
「だ……ったら……お前達が勝っていたら……どうなっていた……?」
「な……に……?」
「その次に来るのは……別の狂い……だ……。お前達によってもたらされた……別の……狂い……なのだ」
「そんなものは起こさせぬ!! 我らで徹底的に監視し、そのような事が起きないよう管理を行う!!」
ダーダネラの戦士は、頭に血を登らせながら反論を繰り返す。
そんな彼を見て、シキは呆れたように笑った。
「それが……狂いなのだ……」
「何を……言っている……?」
「狂いの原因が……他国からお前達へと移る……。それだけの事だ……。何故それが……分からぬ」
「貴様、世迷言を……!! 我らは人を攫って兵を集めなければ、エーテルを弄り道具へもしない。当然他国の民も人として扱う。そのために我らが管理すると言っているのだ。それのどこが狂いであるか!!」
やはり分かっていない。とシキは呟く。
ゆっくりと身を起こしながら、彼の言葉を紐解いていった。
「その……我らが管理する。という言葉こそが狂い……なのだ。お前の話す理想は……常にお前達が上に立っている前提での話……ではないか」
「なっ…………!! そうさ。ああそうだ。そうだとも。誰かが管理をしなければ、この世界は狂ったままだ。そのために、今まで魔物同然と迫害された我らが管理をしようと言っているのだ。それのどこがおかしいか!?」
「そもそも管理など……強要されて行うものではない。おかしな事を言う相手には、同じ舞台へ立って正してやればいい。お前達の理想のために、世界中という関係のない者達まで含める必要など、どこにもありはしないのだ……」
近くに転がっていた氷の槍を拾い、杖代わりにしてシキは立ち上がる。己の欲望のために世界を支配しようとする敵の前に、シキは立ちはだかる。
「だったらどうすると言う。貴様はもう戦えない。貴様にはもう我らを止める事は出来ない。次の一撃が当たれば意識も保っていられないだろう。そんな貴様が、貴様ごときが、どうやってこの俺を正すというのだ!!」
「私には目的がある。私だけではない、ミルカやエリーゼにも、それ以外にも私は沢山の願いを背負って旅を続けている……! だから今、ここでお前に負ける訳にはいかない。絶対に勝たなければならない。この感情だけあれば……十分だ!!」
轟々と、シキの身体から真っ赤な炎が燃え上がる。傷口を塞ぐように煌びやかな光が、骨を繋ぐように燃え盛る炎がシキに力を与える。
「……ッ!? そのエーテル……その熱量!! 貴様、体内にコアを取り込んでいるな!!」
「実際見てはいない……がなッ!!」
腕が上がる。足に力が入る。つまり、まだ戦える。動けると確信を得た瞬間、シキは一気に間合いを詰め、強固に作られた氷の槍を突き刺した。
「外道の分際で、我らに逆らおうなど!!」
ダーダネラの戦士も気後れせずシキの攻撃に対応する。
左足を軸に槍の一突きを身を反らせかわすと同時、かわした勢いを炎でより加速させ右手の裏拳で殴りかかる。
「当たらぬわ!!」
槍で突いた勢いのまま、シキもその場にとどまらず二歩三歩と前に足を運ぶ。予想外に距離感を外された紫炎が、真っ赤な炎と交差し、混ざり合うように燃え上がった。
「ならば当ててみせるまでだ。現れろ、愚か者共。愚者を灯し焦がす無の太陽……!!」
室内を覆いつくすほどの紫炎の塊が現れる。
襲い掛かる炎の塊は時折りダーダネラの戦士の姿に変異し、いとも容易く国を揺るがす一撃を放つ。
「理想と幻想を燃やす二つの太陽……!!」
術が放たれるより前に短剣で切り裂く。刃を当てても消えない本体へは氷の槍を振り回し距離を稼ぐ。
一瞬でも意識が抜ければそれだけで敗北が確定する。それほどギリギリの戦いをシキは強いられていた。
数は何度でも増える。攻撃が当たれば一撃で致命傷。そして敵にはフェイクが織り交ぜられている。自分と敵の大きさが少しでも違えば一瞬で袋叩きにされそうな戦いから、シキは抜け出せずにいた。
(どうする……何か手は無いのか!?)
寸前のところで保っているつば迫り合いも、最後の一押しを避け続けているに過ぎない。何か。この戦いを打破出来る何かがないのか。
エリーゼとの約束を破り、命をかけた戦いへ移ろうとした。その時だった。
僅かに、エリーゼの放った真っ白な雪煙が、シキの戦場へとなだれ込むのが目に入る。
(これだ!!)
シキは自身が連れ込まれた壁の穴へと近づく。
そして襲い掛かる強大な一撃一撃を避け、受け流し、苦痛に耐えながら、エリーゼの作り出した氷の壁へと攻撃させていた。
音を立て周辺の壁が崩れると同時、戦場に変化はもたらされる。
「…………なんだ。このエーテルは……」
紫炎によって作り出された陽炎と怪しいエーテルに満たされた空間。そこへ、エリーゼの精製した真っ白で純粋な雪煙が混ざり合う。
月の光がエリーゼの雪に反射し、色めき立つ。
希望に溢れた忌々しいエーテルの存在に、ダーダネラの戦士は静かに怒りを覚えていた。
その一瞬があれば十分であった。
「!? 奴はどこに……ッ!!」
「ここだぁ!!」
氷の槍が炎の爆発の中から飛び出す。
通常の何倍もの速度で放たれた槍はダーダネラの戦士の動きを上回り、彼の右肩へと突き刺さった。
「うぐっ……。この程度で……ッ!!」
突き刺さった氷の槍は瞬時に紫の炎で破壊される。
そしてダーダネラの戦士は、槍を放ちふらついているシキをその眼光で捉える。
「これで終わりだ。理想と幻想を燃やす二つの太陽……!!」
ダーダネラの戦士は二人に増える。
その右手には赤みを帯びた焦がれるような紫炎を、その左手には青みを帯びた灼熱の紫炎を灯し、愚かなる侵入者へと飛び込む。
「理想を灯す左手の太陽……!!」
「幻影を焦がす右手の太陽ァ!!」
放った槍をさらに超える速度で、二人のダーダネラの戦士はシキへと襲いかかる。
氷の槍はもうない。短剣も彼らには効かない。その身に宿る炎もで対抗する事も、全てを投げ捨てて守りに徹する事も、もう間に合わない。
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