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第三章 砂漠の魔女編
34.全ては自分のために
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長寿の血を求め砂漠の奥地まで現れた、赤の国の刺客達。
刺客の内の一人、二羽の相棒を操る褐色の男レンリは、二羽が抱えた病を治すため刺客達の親玉であるラボンへ協力をしていた。
だがエーテル吸収の能力を持つネオンが彼に触れた事により、レンリに掛かっていた洗脳が解かれる。
ずっと信じていた病を治す方法。それは端からラボン、もといヴァーミリオンの吐いた嘘であり、実際には赤の国そのものが二羽の鳥へ病を植え付け、レンリを騙し協力させていたのだ。
「まさか……あの猫が、この空間を支配していたというのか?」
「……ああ。あんな見た目をしているが、奴は赤の国グラナートでも上位の存在。奴の一声でどれだけの生物が犠牲となったか。奴は声だけで相手のエーテルを支配する、気を付けろ……!」
姿を暴かれたヴァーミリオンは、依然として落ち着いた態度で目の前に立ち塞がるシキやレンリを見つめる。
ヴァーミリオンは状況の変化を好意的に捉えていた。寝返ったレンリは切り捨て、彼を騙すために使用していたラボンももう必要はない。つまり今、ヴァーミリオンは何物にも縛られる事無く、彼の持つエーテルへ介入する力を最大出力で振るう事が出来るのであった。
「おやおや、そこまで知れているならもう何も隠す必要もないでしょう。全てひれ伏しなさい。勾引かしき後側具……!!」
長毛の隙間から禍々しい赤色の輝きが放たれる。猫に取り付けられていた首輪、長い毛に隠れていた豪奢な首飾りはその姿を現す。
ヴァーミリオンが身に着けているのは、大罪武具が内の一つ『勾引かしき後側具』。その性質は取り付けられた赤のコアから喉へ直接エーテルを流し込み、声の振動により伝達したエーテルが相手のエーテルを支配するという、大罪武具の内でも特異かつ独善的なものであった。
ヴァーミリオンはこの首輪を利用して国へ連れ去られて来る人や生物を一方的に洗脳。そして兵や実験体として作り替え、赤の国へ膨大な利益をもたらしていた。
ラボンという隠れ蓑を介さなくなったヴァーミリオンの一声は圧倒的である。地下空間にいる全ての者は地にひれ伏し、先ほどまで敵も味方も関係なく暴れていたエルフ型の魔物は、全てが自滅していた。
遠くで見ていたエリーゼも彼の言葉には逆らえない。赤のコアを持つ事により支配を受けていないミネルバは一方的に動き出し、作り出された氷の檻を瞬く間に破壊する。
そしてすぐさまヴァーミリオンの元へと寄り添い、目の前の白蛇を討伐しようとした。だが、何か様子がおかしかった。
「ラボン様……いえ、ヴァーミリオン様。ワタクシの見間違いかも知れませんが、あの白蛇。未だ支配下に置けていないように見受けられます」
「……見間違いではありませんよ、ミネルバ君。彼は、いえ。彼らは私の支配を免れています」
ヴァーミリオンは目の前に広がる光景が信じられなかった。絶対服従であるはずの勾引かしき後側具を通した一声が、邪魔者達が立ち塞がった先の白蛇には届いていなかったのだ。
それだけではない。赤のコアを持つシキとエーテルを吸収するネオンに加え、彼らの側に立っていたオームギとレンリ達にも効いていない様子だった。
(私の勾引かしき後側具は確かに発動しています。それは周りの魔物達を見ても明白。なのに、あの白蛇には私の声が届いていない。いいえ、白蛇どころか前へ立つ彼らにも響いていない様子。これは実に興味深いですねぇ)
赤のコアが埋め込まれた首輪『勾引かしき後側具』の声を無効に出来るのは、本来同じく赤のコアを持つ者のみ。赤のコアを持つシキはまだしも、他の連中までもが洗脳を受けないのは本来あり得ない事態であった。
(彼の持つコアのエーテルが周辺まで守っている……? いえ、そのような事例はグラナート内でも聞いた事がありません。であれば要因は別にあるはず。とすればやはり、最初から私の声が響かないあの寡黙な少女。彼女の持つ何かが、私の声に対して防衛機能を持っているのでしょうか)
赤のコアにより効力を発揮する設計上、勾引かしき後側具には同じコアの所持者に対しては効果が無い性質を持っていた。しかしヴァーミリオンの把握している限りでは、赤のエーテルコアはシキに奪われた一つを除き、全て赤の国グラナートが管理しているのだ。
とすれば、勾引かしき後側具には赤のコア以外での対抗策が存在する事となる。別色のコアではエリーゼのように完全には抗う事が出来ず、行動は制限されるはず。では、コア以外の何かが効果を無効にする性質を持っている事となる。
(確か、レンリ君は認識出来ないはずのエルフの住処を目視し、その所在を私達へと伝えてくれました。本来であれば隠してあるはずの住処を、わざわざ認識出来る状態のまま放置するはずがないでしょう。とすれば、あの寡黙な少女は無意識化でエーテルの効力を無効化している事になります。それが単体ではなく周辺まで及んでいるとすれば、目の前の方々や白蛇に対しても洗脳が効かない事と結び付きます。つまり……)
ネオンが側に居る限り、シキ達にも白蛇にも洗脳の効力は届かなくなる。ヴァーミリオンが今使える駒はミネルバと、下半身を凍らされ身動きが取れないスワンプ、そして半壊状態の両軍の魔物ぐらいであった。
「ミネルバ君。一旦引きますよ」
「えぇ!? ヴァーミリオン様どうしてですの!?」
「君一人で全員を相手出来ますか。それに策はまだあります。安心なさい」
「ッ、分かりました……」
現状ヴァーミリオンがまともに扱える戦力は、ミネルバしか残っていなかった。
長寿の力、橙のエーテルコアを白蛇より奪い去るより前に地下空間の崩壊に巻き込まれてしまっては、元も子もなくなる。圧倒的有利と思われた状況下は、レンリの寝返りとオームギの未来を受け入れる決断によって覆っていたのだ。
ヴァーミリオンはこの期に及んでも冷静であった。彼は落ち着いた目で現状を判断し、そして持ち帰る事を選んだのだ。オームギという生き残りの存在を。長寿の血と呼ばれた橙のエーテルコアの真相を。
ヴァーミリオンは勢い良く地面を蹴り、側にいたミネルバの肩へ飛び乗る。彼の重みを感じたミネルバはすぐに斧槍を天へと掲げ、天井を貫き地下空間から脱出した。
刺客の内の一人、二羽の相棒を操る褐色の男レンリは、二羽が抱えた病を治すため刺客達の親玉であるラボンへ協力をしていた。
だがエーテル吸収の能力を持つネオンが彼に触れた事により、レンリに掛かっていた洗脳が解かれる。
ずっと信じていた病を治す方法。それは端からラボン、もといヴァーミリオンの吐いた嘘であり、実際には赤の国そのものが二羽の鳥へ病を植え付け、レンリを騙し協力させていたのだ。
「まさか……あの猫が、この空間を支配していたというのか?」
「……ああ。あんな見た目をしているが、奴は赤の国グラナートでも上位の存在。奴の一声でどれだけの生物が犠牲となったか。奴は声だけで相手のエーテルを支配する、気を付けろ……!」
姿を暴かれたヴァーミリオンは、依然として落ち着いた態度で目の前に立ち塞がるシキやレンリを見つめる。
ヴァーミリオンは状況の変化を好意的に捉えていた。寝返ったレンリは切り捨て、彼を騙すために使用していたラボンももう必要はない。つまり今、ヴァーミリオンは何物にも縛られる事無く、彼の持つエーテルへ介入する力を最大出力で振るう事が出来るのであった。
「おやおや、そこまで知れているならもう何も隠す必要もないでしょう。全てひれ伏しなさい。勾引かしき後側具……!!」
長毛の隙間から禍々しい赤色の輝きが放たれる。猫に取り付けられていた首輪、長い毛に隠れていた豪奢な首飾りはその姿を現す。
ヴァーミリオンが身に着けているのは、大罪武具が内の一つ『勾引かしき後側具』。その性質は取り付けられた赤のコアから喉へ直接エーテルを流し込み、声の振動により伝達したエーテルが相手のエーテルを支配するという、大罪武具の内でも特異かつ独善的なものであった。
ヴァーミリオンはこの首輪を利用して国へ連れ去られて来る人や生物を一方的に洗脳。そして兵や実験体として作り替え、赤の国へ膨大な利益をもたらしていた。
ラボンという隠れ蓑を介さなくなったヴァーミリオンの一声は圧倒的である。地下空間にいる全ての者は地にひれ伏し、先ほどまで敵も味方も関係なく暴れていたエルフ型の魔物は、全てが自滅していた。
遠くで見ていたエリーゼも彼の言葉には逆らえない。赤のコアを持つ事により支配を受けていないミネルバは一方的に動き出し、作り出された氷の檻を瞬く間に破壊する。
そしてすぐさまヴァーミリオンの元へと寄り添い、目の前の白蛇を討伐しようとした。だが、何か様子がおかしかった。
「ラボン様……いえ、ヴァーミリオン様。ワタクシの見間違いかも知れませんが、あの白蛇。未だ支配下に置けていないように見受けられます」
「……見間違いではありませんよ、ミネルバ君。彼は、いえ。彼らは私の支配を免れています」
ヴァーミリオンは目の前に広がる光景が信じられなかった。絶対服従であるはずの勾引かしき後側具を通した一声が、邪魔者達が立ち塞がった先の白蛇には届いていなかったのだ。
それだけではない。赤のコアを持つシキとエーテルを吸収するネオンに加え、彼らの側に立っていたオームギとレンリ達にも効いていない様子だった。
(私の勾引かしき後側具は確かに発動しています。それは周りの魔物達を見ても明白。なのに、あの白蛇には私の声が届いていない。いいえ、白蛇どころか前へ立つ彼らにも響いていない様子。これは実に興味深いですねぇ)
赤のコアが埋め込まれた首輪『勾引かしき後側具』の声を無効に出来るのは、本来同じく赤のコアを持つ者のみ。赤のコアを持つシキはまだしも、他の連中までもが洗脳を受けないのは本来あり得ない事態であった。
(彼の持つコアのエーテルが周辺まで守っている……? いえ、そのような事例はグラナート内でも聞いた事がありません。であれば要因は別にあるはず。とすればやはり、最初から私の声が響かないあの寡黙な少女。彼女の持つ何かが、私の声に対して防衛機能を持っているのでしょうか)
赤のコアにより効力を発揮する設計上、勾引かしき後側具には同じコアの所持者に対しては効果が無い性質を持っていた。しかしヴァーミリオンの把握している限りでは、赤のエーテルコアはシキに奪われた一つを除き、全て赤の国グラナートが管理しているのだ。
とすれば、勾引かしき後側具には赤のコア以外での対抗策が存在する事となる。別色のコアではエリーゼのように完全には抗う事が出来ず、行動は制限されるはず。では、コア以外の何かが効果を無効にする性質を持っている事となる。
(確か、レンリ君は認識出来ないはずのエルフの住処を目視し、その所在を私達へと伝えてくれました。本来であれば隠してあるはずの住処を、わざわざ認識出来る状態のまま放置するはずがないでしょう。とすれば、あの寡黙な少女は無意識化でエーテルの効力を無効化している事になります。それが単体ではなく周辺まで及んでいるとすれば、目の前の方々や白蛇に対しても洗脳が効かない事と結び付きます。つまり……)
ネオンが側に居る限り、シキ達にも白蛇にも洗脳の効力は届かなくなる。ヴァーミリオンが今使える駒はミネルバと、下半身を凍らされ身動きが取れないスワンプ、そして半壊状態の両軍の魔物ぐらいであった。
「ミネルバ君。一旦引きますよ」
「えぇ!? ヴァーミリオン様どうしてですの!?」
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「ッ、分かりました……」
現状ヴァーミリオンがまともに扱える戦力は、ミネルバしか残っていなかった。
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