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第三章 砂漠の魔女編
36.その背を押すのは
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シキとオームギが白蛇攻略の算段を立てている裏で、ネオン、エリーゼ、そしてレンリは脱出の邪魔をしようとする敵の刺客スワンプと対峙していた。
ヴァーミリオンに切り捨てられたスワンプは、洗脳状態のまま一心不乱にその岩石のように巨大な拳で衝撃波を放ち、暴力的な力を保持し続ける。
「スワンプ・スタンプゥゥゥ!!」
「愚かな……。ハロエリ、ハルウェル! 砂乱の翼ッ!!」
単なる力比べでは勝ち目のない相手でも、レンリと二羽の相棒による三方向からの風でなら、スワンプの踏み込む力を分散させ殴り掛かる腕も本来の爆発力を発揮させない。
動きが鈍ったところをさらに追い込み、レンリ達はスワンプに振り被る事すら出来ないように封じ込んだ。
「今だ、やれ氷の女!」
「は、はい! 氷結精製:氷の塊!!」
エリーゼの精製する氷が瞬時に大男の足元を包み込む。暴れ狂う風の中、バランスが取れなくなったスワンプはそのまま倒れ込み再び気を失った。
「ネオンさん! 今です!」
「…………!」
動きが止まったのを確認すると、すぐさまネオンは大男に触れようとする。
風と氷、双方の援護によって万が一にも警戒しながら、ネオンはするりするりと倒れ込む大男へ近づく。至近距離でも微動だにしない様子を確認し、ネオンはポンと大男の背中に触れた。その瞬間だった。
ぐちゃりと。スワンプだったものは、全身を泥に変え見る姿もなく崩れ去ったのだ。
崩れ去る大男の様子を見たレンリは、身の毛がよだつような震えを覚えその存在を読み解いた。
「まさかこいつ……エーテルで出来た生物兵器だったとでも言うのか!?」
最初からスワンプという男など存在しなかった。暴力的な威力も泥で出来た人形故のものであり、その正体はヴァーミリオンが作り出した研究物の一つに過ぎなかったのだ。
エーテルを介した洗脳を得意とするヴァーミリオンは、自国からぞろぞろと兵を連れ歩く事を好まない。大人数を制御する手間や国とのやりとりすら邪魔だと考える彼は、手駒など現地調達で良いと考える。
それ故側近のミネルバの他には、使い捨ての出来る生物兵器スワンプと、獣の言葉を理解するレンリが居れば他はどうとでもなっていた。自由であるほど使える選択肢は増える。ヴァーミリオンは常に最悪の状況を考え、常に最善の利益を生む選択を取り続けるのであった。
スワンプが消えた今、レンリ達は再び白蛇攻略へと参加する。再び生まれたエルフ型の魔物と白蛇の巨体に阻まれ、シキは白蛇の額に埋め込まれたコアへと触れる事が出来ないでいた。
「シキさんオームギさん、状況は!?」
駆け付けたエリーゼが二人に状況を確認する。エルフ型の魔物は不規則に増え続け、悶え苦しむ白蛇は苦痛からのたうち回り、戦場は混沌と化していた。
「エリーゼ、私が奴のコアに触れエーテルを回収する。お前は白蛇の動きを止めてくれ!」
「周りの魔物は私が相手にするわ! 貴方はシキの援護に集中なさい!」
「わ、分かりました! 氷結精製:氷柱の監獄!」
オームギが増え続ける魔物をけん制し、エリーゼは氷の檻を生み出し白蛇の取れる動きを狭めていく。少しずつ、確実に。二人は活路を開き、コアへと繋がる道を作り出す。そして生まれた一瞬の隙。
邪魔をする魔物が消え白蛇が正面を向いたその瞬間、傷だらけのシキは最大出力の炎で地面を殴り、はるか上に構える白蛇の額へとその手を伸ばす……!
「そのコアも記憶も苦痛でさえも、全て私が受け取ってやる。だから静まるのだ、エーテルコアーーーッッッ!!」
炎が橙に輝く砂を吹き飛ばす。同時にシキは遥か上へ飛び立ち、白蛇の顔の真ん前に陣取る。
伸ばした手を轟々と輝く橙のエーテルコアへ差し出す。あと少し、ほんの僅かに指先でも触れれば。だが、シキの手が届くよりも前に、過度のエーテルに苦しむ白蛇が嘆きの声を上げる。
「ギイイイイイイィィィィィ!!」
それは白蛇の逃げろという叫びなのか。それともコアの触れるなという意志なのか。
白蛇の咆哮が迫り来るシキを拒む。至近距離の咆哮を受け押し返されるシキは何とか触れようとするが、ギリギリのところで指先が届かない。白蛇も地下空間ももう限界だ。せっかくのチャンスが、最後の希望が、指先に込めた願いが悶え苦しむエルフの魂に拒まれてしまう。
最後の最後でダメなのか。紡いで繋いで手繰り寄せた未来への一歩は踏み出せないままなのか。
死の間際の光景ように、ゆっくりと離れていくエーテルコアを見てシキは自分の無力さを思い知らされる。だが、それでも諦めないシキは指先の先端まで神経を集中させ、手を伸ばし続ける。
絶対に諦めない。こんな結末はあっていいはずなどない。救うと決めたからには、折れていい理由などどこにもない。
全力の炎を使った後の身体に、無理を言わせて炎を吐き出させようとする。しかしコアからの供給は間に合わず、炎の出力が足りずシキの身体はどんどん離れていく。あと少しなのだ。あと少し、ほんの少しでも限界を超える。それだけで奇跡は起きるというのに。
もうダメなのか。頭の中が真っ白になりかけたその時。背後から唐突に追い風が吹き込んだ。
「止まるな、手を伸ばせーーーッ!!」
最後の最後でシキの背中を押したのは、他でもない敵の刺客であったレンリだった。
希望の風を受けたシキは、再び白蛇の正面へと押し返される。迫り来る恐ろしくて悲しい表情をした巨大生物を前に、シキはそれでもと手を伸ばし続けた。
シキの指先が白蛇の額に埋め込まれたエーテルコアに触れる。コアが莫大なエーテルを放つと同時に、地下空間は橙色の光に包まれた。
ヴァーミリオンに切り捨てられたスワンプは、洗脳状態のまま一心不乱にその岩石のように巨大な拳で衝撃波を放ち、暴力的な力を保持し続ける。
「スワンプ・スタンプゥゥゥ!!」
「愚かな……。ハロエリ、ハルウェル! 砂乱の翼ッ!!」
単なる力比べでは勝ち目のない相手でも、レンリと二羽の相棒による三方向からの風でなら、スワンプの踏み込む力を分散させ殴り掛かる腕も本来の爆発力を発揮させない。
動きが鈍ったところをさらに追い込み、レンリ達はスワンプに振り被る事すら出来ないように封じ込んだ。
「今だ、やれ氷の女!」
「は、はい! 氷結精製:氷の塊!!」
エリーゼの精製する氷が瞬時に大男の足元を包み込む。暴れ狂う風の中、バランスが取れなくなったスワンプはそのまま倒れ込み再び気を失った。
「ネオンさん! 今です!」
「…………!」
動きが止まったのを確認すると、すぐさまネオンは大男に触れようとする。
風と氷、双方の援護によって万が一にも警戒しながら、ネオンはするりするりと倒れ込む大男へ近づく。至近距離でも微動だにしない様子を確認し、ネオンはポンと大男の背中に触れた。その瞬間だった。
ぐちゃりと。スワンプだったものは、全身を泥に変え見る姿もなく崩れ去ったのだ。
崩れ去る大男の様子を見たレンリは、身の毛がよだつような震えを覚えその存在を読み解いた。
「まさかこいつ……エーテルで出来た生物兵器だったとでも言うのか!?」
最初からスワンプという男など存在しなかった。暴力的な威力も泥で出来た人形故のものであり、その正体はヴァーミリオンが作り出した研究物の一つに過ぎなかったのだ。
エーテルを介した洗脳を得意とするヴァーミリオンは、自国からぞろぞろと兵を連れ歩く事を好まない。大人数を制御する手間や国とのやりとりすら邪魔だと考える彼は、手駒など現地調達で良いと考える。
それ故側近のミネルバの他には、使い捨ての出来る生物兵器スワンプと、獣の言葉を理解するレンリが居れば他はどうとでもなっていた。自由であるほど使える選択肢は増える。ヴァーミリオンは常に最悪の状況を考え、常に最善の利益を生む選択を取り続けるのであった。
スワンプが消えた今、レンリ達は再び白蛇攻略へと参加する。再び生まれたエルフ型の魔物と白蛇の巨体に阻まれ、シキは白蛇の額に埋め込まれたコアへと触れる事が出来ないでいた。
「シキさんオームギさん、状況は!?」
駆け付けたエリーゼが二人に状況を確認する。エルフ型の魔物は不規則に増え続け、悶え苦しむ白蛇は苦痛からのたうち回り、戦場は混沌と化していた。
「エリーゼ、私が奴のコアに触れエーテルを回収する。お前は白蛇の動きを止めてくれ!」
「周りの魔物は私が相手にするわ! 貴方はシキの援護に集中なさい!」
「わ、分かりました! 氷結精製:氷柱の監獄!」
オームギが増え続ける魔物をけん制し、エリーゼは氷の檻を生み出し白蛇の取れる動きを狭めていく。少しずつ、確実に。二人は活路を開き、コアへと繋がる道を作り出す。そして生まれた一瞬の隙。
邪魔をする魔物が消え白蛇が正面を向いたその瞬間、傷だらけのシキは最大出力の炎で地面を殴り、はるか上に構える白蛇の額へとその手を伸ばす……!
「そのコアも記憶も苦痛でさえも、全て私が受け取ってやる。だから静まるのだ、エーテルコアーーーッッッ!!」
炎が橙に輝く砂を吹き飛ばす。同時にシキは遥か上へ飛び立ち、白蛇の顔の真ん前に陣取る。
伸ばした手を轟々と輝く橙のエーテルコアへ差し出す。あと少し、ほんの僅かに指先でも触れれば。だが、シキの手が届くよりも前に、過度のエーテルに苦しむ白蛇が嘆きの声を上げる。
「ギイイイイイイィィィィィ!!」
それは白蛇の逃げろという叫びなのか。それともコアの触れるなという意志なのか。
白蛇の咆哮が迫り来るシキを拒む。至近距離の咆哮を受け押し返されるシキは何とか触れようとするが、ギリギリのところで指先が届かない。白蛇も地下空間ももう限界だ。せっかくのチャンスが、最後の希望が、指先に込めた願いが悶え苦しむエルフの魂に拒まれてしまう。
最後の最後でダメなのか。紡いで繋いで手繰り寄せた未来への一歩は踏み出せないままなのか。
死の間際の光景ように、ゆっくりと離れていくエーテルコアを見てシキは自分の無力さを思い知らされる。だが、それでも諦めないシキは指先の先端まで神経を集中させ、手を伸ばし続ける。
絶対に諦めない。こんな結末はあっていいはずなどない。救うと決めたからには、折れていい理由などどこにもない。
全力の炎を使った後の身体に、無理を言わせて炎を吐き出させようとする。しかしコアからの供給は間に合わず、炎の出力が足りずシキの身体はどんどん離れていく。あと少しなのだ。あと少し、ほんの少しでも限界を超える。それだけで奇跡は起きるというのに。
もうダメなのか。頭の中が真っ白になりかけたその時。背後から唐突に追い風が吹き込んだ。
「止まるな、手を伸ばせーーーッ!!」
最後の最後でシキの背中を押したのは、他でもない敵の刺客であったレンリだった。
希望の風を受けたシキは、再び白蛇の正面へと押し返される。迫り来る恐ろしくて悲しい表情をした巨大生物を前に、シキはそれでもと手を伸ばし続けた。
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