乙女ゲームのバグ令嬢〜婚約破棄からの断罪劇が始まるようですが、冤罪は良くないと思います!〜【完結】

モナカ

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「キャンベラはシセーラにカバンの中身を全て捨てられ、制服も捨てられ、さらにはテラスから突き落とされて殺されそうになったのだ!」

王太子殿下の言葉に、堪えきれずとばかりにキャンベラ嬢が泣き出しました。
ひしっと抱き合う二人には少し落ち着いて頂きましょう。その間に、状況を掴めぬまま、祈るように震える手を胸の前で組んでいるシセーラ様へと向きを変えます。

「シセーラ様」
「は、はい!」
「本日はご卒業おめでとうございます」
「…ありがとう?」

戸惑いながらも応えるシセーラ様の目を真っ直ぐに見つめ、微笑みを浮かべて目礼を交わします。

「ご卒業のお祝いに細やかではございますが、こちらをお受け取りください」
「これは…?」

周囲の視線を感じながら、ボレロの内ポケットから一冊の手帳を取り出して差し出します。黒革でカバーした手帳です。

「私のヘチマ観察日記でございます!」
「・・・え?」
「「「はあ!?」」」

あら、どうなさいました?皆様、そんなポカンとしたお顔をなさって。ドヤ顔で取り出した私が滑稽みたいじゃありませんか。「…ああ!お読みいただきたいページを先に抜粋いたしますので、そこからお読みください」パラパラと観察日記を捲って、必要なページの右上を折り、もう一度シセーラ様に差し出しました。
何度か瞬きを繰り返し、差し出された日記帳を受け取ったシセーラ様。ここでヘチマの観察日記を読まされる意図が理解できず、探るような視線を向けられます。「どうぞ」と促し、読み終わるまで待つ姿勢を見せれば、戸惑いながらも観察日記を開いてお読みくださいました。
次第にシセーラ様の表情が変わり、真っ青だった顔色に血の気が戻ってきたようです。

「これは…!」

周囲は「ヘチマとは?」「なぜ今?」ざわめき始め、盛り上がっていた王太子殿下達もこちらを訝しげな表情で見ています。

「その観察日記がなんだというのだ?」

手帳を読み終えた時、こちらを見るシセーラ様の瞳には少し光が戻ったように感じました。
けれどそれは一瞬。躊躇うように瞼をふせてしまい、スカイブルーの瞳に金のまつ毛が影を落とします。

「…お読みください。シセーラ様」
「ですが、これは…!…これは……。これを読んでしまっては貴女に疵がつきます」

消えいる様な震える声でした。私よりも少し身長の低いシセーラ様の揺れる瞳を覗き込み、そっと自身の胸に手を当てます。
「…疵ならもう充分に」
瞼を上げたスカイブルーの瞳には労わりの色が浮かんでいます。

「シセーラ様はお優しいですね、こんな状況でも私を案じてくださる。私の知る限り、貴女ほど聡明で努力を惜しまず、慈しみ深い令嬢はおりません。おそらく、このままご自分が堪えて身を引けば状況は収まり、王太子殿下は想い人と結ばれることができるとお思いなのではありませんか?」
「…セレナーデさん」
「ですが、本当にそれで良いのでしょうか?キャンベラ嬢がこのまま王太子殿下とご結婚されれば、王太子妃となられます。そしてゆくゆくは王妃、この国の母となられることでしょう」

王太子殿下、そして陛下、王妃様へと視線を向けて

「貴族であれば己のことよりも国を優先せねばなりません。王家の威信が揺らげば、民の不安を煽り国が乱れる原因ともなりうるのです。民を守り、王族を支え、陛下の治めるこの平和な世を守るために、秩序を乱すような真似をしてはいけない。憂は取り払わねば。違いますか?ーーシセーラ・フロスト公爵令嬢」

揺れていたスカイブルーの瞳が真っ直ぐにこちらを見返してきます。
意を決し、姿勢を正したシセーラ様が王太子殿下とキャンベラ嬢に向き直り、小さく頷いたのを合図に、私もそちらへ視線を戻します。

『お兄様からヘチマの種を頂いた。学園長先生に許可を頂いて、空いている騎士棟の実技準備室前の花壇で育てることにした。今日から観察日記もつけましょう、早く大きく育てば夏の日差しを遮る緑のカーテンとなってくれるでしょう』

日記を読むシセーラ様の声はもう震えてはいません。

「シセーラ様にカバンの中身を全て捨てらた。ということですがキャンベラ様、それはいつ頃のことですか?」
「え?…初夏の頃だったと思うわ。私が一人になったところを見計らい鞄を奪って行かれ…追いかけたのですが、そのまま鞄の中身を燃える焼却炉の中に!」
「なんということでしょう!…ではシセーラ様、ヘチマ観察日記26ページをお願い致します」


『6の月3の日
 順調にヘチマが育ってきた。私の背丈を越えつつあるので誘引するために用務員さんに脚立を借りなければ…ところで、どうしてキャンベラ様は焼却炉にカバンの中身をぶちまけていらっしゃるのでしょう?用務員室の窓から一緒にその光景を見ていた用務員さんが、ゴミの分別がなっていないとご立腹です。しかし、何らかの事故か間違いの可能性はありますから、確認の必要があるのではと提案しておきました。紙は燃えるゴミですが鉄製品は燃えないごみ。瓶は再利用可能だそうで資源ごみだそうです』

周囲が騒がしくざわめき、王太子殿下が驚いた表情でこちらを見てきます。腕に抱かれたキャンベラ様も驚いているご様子ですが、顔色がよろしくありませんね。

「至急、用務員に確認せよ」

陛下の言葉で側近が動き、学園の用務員さんが作業着姿のままホールに連れてこられました。
わけがわからず戸惑っていらっしゃいます。陛下に気づいて膝をつき床に頭をぶつける勢いで礼をとる姿に、巻き込んでしまって申し訳ないと、心の中で合掌です。

「はい、仰る通りです。珍しい髪色でしたし間違いないでしょう。そちらのご令嬢がお一人でカバンの中身を全て焼却炉へ…しかし、焼却炉の火は消えかけていたので拾わせていただきました。名前の印字された教科書等もありましたので、職員の方に生徒の確認をして本人が処分しようとしたことはわかりました。一応用務員室で保管しております」
「う、嘘よ!きっと彼女が子爵家の力で用務員に証言させているんだわ」

焦りを見せるキャンベラ様にビシッ!と指さされてしまいましたが、周りには公爵に王族と高位貴族が勢ぞろいです。子爵家ごときの力とはなんでしょう?用務員さんも驚きです。

「…残念ながら、私にそんな力はございません。陛下の前で虚偽の証言などすれば命に関わります」

ギクリと肩を跳ねさせたキャンベラ様が陛下の方をちらり。
「ふむ…」陛下がお髭をひと撫でして側にいた騎士様に確認するよう命じておられます。


「続きまして「制服を捨てられた」ということですが…身に覚えはございますか、シセーラ様?」
「いいえ」
「では、ヘチマ観察日記48ページをお願い致します」

『7の月10の日
 だいぶ大きくなったヘチマを這わせるために植物用の網が必要です。今週中に用意しなくては。黄色いお花も咲いて、生育は順調です!今日はダンスの授業もありお腹が空いてしまったので、帰りに市井のパン屋さんへ寄って買い食いをしてしまいました(シナモンロールが美味しいのです)店を出ると、お向かいの古着屋に我が校の制服が売られていました…ああいった物に興奮する変態もいると聞いたことがあります。悪用の恐れもありますので、明日生徒指導の先生にお知らせしておきましょう』

陛下に呼ばれ、生徒指導のリッキー先生が前に出られました。リッキー先生は元騎士様でお怪我をなさって引退後、我が学園の教師となられたそうですが、今でも立派な筋肉を誇る野生的な男性教諭です。

「校内で制服が盗まれた件に関しましては、こちらでも調べておりました。報告を受け、古着屋に確認したところシリアルナンバーからキャンベラ・ロックハート男爵令嬢の物だと判明しました。店主に経緯を確認したところ、ロックハート男爵家のメイドが「主人が新しい制服を手に入れたから処分するようにと言われ、まだ綺麗な状態だったので勿体ないと思い、小遣い稼ぎのために売りにきた」そうです」
「では、そのメイドが盗んだのよ!」

動揺を抑えきれぬご様子のキャンベラ様ですが、瞳にはすでに涙は無くこちらを睨みつけていらっしゃいます。
抱いていた王太子殿下の腕が離れたことにもお気づきではないようです。

「…キャンベラ?制服は乗馬の授業の後で盗まれたと言っていたじゃないか。更衣室から制服を持って出て行くシセーラの後ろ姿を見た。制服はズタズタに引き裂かれて見つかり処分せざるおえなかった、と。だから、私は新しい制服を用意して贈ったのに」
「も、もちろんですわ!アルファードさま。ですからメイドが学校に忍び込んで盗んで行ったに違いありません!後ろ姿だったので、メイドとシセーラ様を見間違えてしまったのでしょう」

後ろ姿とはいえメイドとシセーラ様を見間違えるのも無理がありますが、男爵家のメイドがどうやって学校の警備を掻い潜って侵入し、制服を盗むことができたのか教えていただきたいところです。

「少なくとも、この件に関してシセーラ様は無関係。で宜しいですわね。ちなみに古着屋に制服が売られた日は帳簿で確認できるでしょうし、我が校の制服はオーダー品ですから王太子殿下が発注なさった日も確認できるでしょう。矛盾がないと宜しいのですが…」


会場中、キャンベラ様への不信感が止まりません!



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