乙女ゲームのバグ令嬢〜婚約破棄からの断罪劇が始まるようですが、冤罪は良くないと思います!〜【完結】

モナカ

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「続きまして「突き落とされて殺されそうになった」件ですが、これが事実ならば殺人未遂です。シセーラ様、身に覚えは?」
「ございません!」

力を取り戻されたシセーラ様の声がホールに響きます。
こちらを睨みつけていたキャンベラ様の視線を受け流し詳細をお尋ねします。

「あの日は、数日続いた雨が上がり私は校舎3階のテラスに出て空にかかる虹を見ていました。突然背中を押されて、濡れて滑るテラスから突き落とされそうになりました!落ちそうになる途中、視界の端にシセーラ様の波打つ金の髪が見えて…本当に恐ろしかった…!」

流れを戻そうと必死なキャンベラ様がワッと泣き出し、ハンカチで顔を覆い俯かれました。

「我が校で金髪の女生徒は限られるでしょうが、鬘の可能性もございます。数日続いた雨上がりの日、虹の出ていた時間帯でしたら宮廷の気象部に確認すれば日時が明らかになるでしょう」

俯かれたままハンカチの隙間から睨むのはおやめください。怖いです。

「それではシセーラ様、ヘチマ観察日記73ページをお願い致します」
「はい…」
『8の月1の日
 雨が続いてヘチマのお世話はできません。園芸部の顧問で校医のエルザ先生に言って、今日は帰宅します。医務室には先生とシセーラ・フロスト公爵令嬢がいらっしゃいました。体調を崩され今までベットで休まれていたそうです。顔色も悪く、どこか憔悴したご様子です。ご挨拶をさせて頂くと「ごめんなさいね、入学して…さぞ驚いたでしょう。私も何度も彼女に注意をし、殿下をお諌めしたのですけれど…」子爵令嬢に過ぎない私に謝罪なさいました。シセーラ様は私のことをご存知だったようです。優しく責任感のある方のなのですね。なんと声をおかけしたら良いのかと迷い窓の外を見れば、雲間から光が差し、雨は止んだようです…』

「あの日「虹が出ますよ」と貴女が見せてくれた空は、とても美しかった。「人の気分は天気次第で変わります。心だって不変ではいられないのでしょう、良くも悪くも…。けれど、その全てが貴女の所為ではありません。明日はもう少し、良い天気だといいですね」と励ましてくれたわね」

シセーラ様に微笑みが戻りました。私は微笑みを受けて目礼し、先を促します。

『その後、校医と一緒に校舎の昇降口までご一緒させていただき、丁度ついた公爵家の馬車でシセーラ様はお帰りになられました』
「そんなハズない…!その日は生徒会があって校医は職員会議に出ていて、シセーラ様は医務室に一人だったはずよ。二人で示し合わせて私を陥れようとしているんだわ」

「失礼ながら、体調を崩した女生徒を残して会議に出る校医はいません」

校医のエルザ先生が白衣姿のまま前へ出られました。騒ぎを聞きつけてホールに様子を見にいらっしゃっていたようです。

「門番の記録を確認すればその日、何時に公爵家の馬車が出入りしたかもわかるでしょう。シセーラ嬢は殺人未遂などしていません」

もはや泣き真似をしていたことも忘れ、忌々しげに奥歯をギリギリさせているキャンベラ様。
そのあまりの変貌ぶりに王太子殿下が一歩身を引いております。

「そんな日記なんて出鱈目よ!!」

不意に、キャンベラ様がこちらに向かって走り「!?」シセーラ様の手からヘチマ観察日記を奪い取りました。押された勢いでシセーラ様が蹌踉めき「シセーラ…!」王太子殿下が手を伸ばされました。しかし、お支えしたのは隣で立っていた私です。
「こんなもの!」ホールを明るく照らす燭台の炎に私のヘチマ観察日記が投げ込まれてしまいました。
陛下の侍従と護衛が騎士様が慌てて炎の中からヘチマ観察日記を拾い上げ…「燃えて…ない…?」不思議そうなお顔でこちらを見ています。ムフフ!

「はい!ワイバーン製の丈夫なブックカバーを使用しております!!」

キリッ!とお答えしたのに『ワイバーンって小竜だろ!?』『ブックカバーに使うか!?』『なぜ観察日記ごときに…貴重なワイバーンの皮を…!??』なんです、その道路の真ん中に生えた大根を見るような目は。解せぬ。

侍従の手によりヘチマ観察日記はシセーラ様の手に戻され、キャンベラ様の後ろに騎士様が二人立ちました。何かあればすぐに抑えてくださるようです。

「これでシセーラ様への疑いは晴れ、潔白は証明できたでしょうか?」

成り行きを見守っていた陛下に視線を戻し、コテリと首をかしげて見せます。
「…アルファード」名を呼ばれた王太子殿下が「はい…」小さく返事をされ、シセーラ様の前に立たれます。

「君の話を聞かず疑って、すまなかった…」

目を伏せて、頭を下げられました。王族が謝罪することは滅多にありません。シセーラ様も驚いて戸惑っていらっしゃいまが、シセーラ様は公爵令嬢です。公の場でこれだけ恥をかかせたのですから、公の場で謝罪の意思を示さねば後々大きな問題に発展しかねません。
…王太子殿下のつむじ…押したい………我慢です!

「アルファードさま!」

頭を下げた王太子殿下に駆け寄り、支える様に腕を絡ませて豊満な胸を押し付けているキャンベル様。まるで「殿下にこんな屈辱な真似させるなんて、なんて酷い人」とばかりにこちらを批難がましい目で睨んでいますが、原因貴女ですけど?自覚ございます?

「…謝罪をお受けいたします」

顔を上げた王太子殿下がシセーラ様の微笑みを見つめています。視線が絡み、何かを言いかけて口を開かれましたがすぐにキュッと唇を結ばれ、視線を外されました。シセーラ様に労わるように「アルファード様」と小さく名前を呼ばれ、その声に再びお二人の視線が絡みます。
少しそっとしておきましょう。

さて、私も覚悟を決めなければ。

オリオン様の気配を背中に感じます。
今、何を思っていらっしゃるのでしょう。
キャンベル様への仕打ちを怒っていらっしゃるでしょうか。
「ごめんなさい」声にならぬほど小さく謝ります。
もう、許されることはないでしょう。









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