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2部

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旦那様はそのまま弁護士とお話を続けていらっしゃいます。
そういえば。と思い出し

「「若い肉体を持て余す」とは何でしょう?キャメロンさんはお分かりになりますか?」

突然聞いてしまってキャメロンさんを驚かせてしまったようで、ソーサーに戻していたカップを鳴らしてしまったようです。小さく咳払いしたキャメロンさんが気を取り直し

「欲求不満ということではないでしょうか」
「…男性ではなく女性のことですよ?」
「女性にだって食欲と同じ様に性欲はあるのですから、欲求不満にだってなりますわ!…ところでお母様、一体どこでそのような事を?」

言ってよいものか躊躇われましたが、不用意に他所から聞かされるよりは良いだろうと判断し、騎士棟で聞いてしまった噂の事をキャメロンさんにお話ししました。

「私の軽率な行動の所為で息子に迷惑をかけてしまったようで…本当にごめんなさい」

情けなく思いながら頭を下げると、背後の窓。ピカッ!ドォォン!!
あら?今日は快晴だったはずなのに雷が落ちたような…まさかね。なんだかお部屋の温度が少し下がったかしら?冷気が…

「…ほう。最近は己で物を考えられなくとも騎士になれるようだな。甘やかされて育った坊っちゃんの集まりになり果てたか…息子が帰ったら聞いてみなければなるまい」

いつも穏やかな旦那様のお声が地を這うようです、どうなさいました?
百戦錬磨であろう弁護士の笑顔も完全に引きつって、怯えていらっしゃる?

「そうですわね、お父様。あの人が戻り次第、詳しくお聞かせいただかないと。噂の内容から嫉妬の気配を感じますの…お父様の後妻の座を狙っていたご婦人方か、私の夫に見向きもされなかったご令嬢に唆されているのかもしれません」
「国を守る騎士が貴婦人の戯言に踊らされるようでは、程度が知れるというもの。情けない」
「私が少しばかり社交をお休みしている間に…なめられたものね」

キャメロンさんの背後に何時ぞや見た幻の肉食獣が…!
「ーーっ」



それまで怒りを露わにしていたキャメロンさんがお腹に手を添えて、美しいお顔に苦悶の表情を

「キャメロンさん?」
「…お母様、破水しました」
「はすい?」
「ーーー産まれます」
「「「!!!」」」

産まれる!お腹の赤ちゃんが!!
「大変!どうしましょう!?マーサ!主治医、産婆!?あ、息子ーーーーー!!」
怒らせてしまったのが胎教に良くなかったのかしら!?いや、でも臨月ではあったし産まれることには問題ないのかしら、どうしましょう、どうしましょう。まずは何から?!

「どこ行くのですか、奥様!」

部屋を出ようとした私をマーサが羽交い締めにして止めます。

「離してマーサ!息子を呼びに行ってくるわ!マーサは産婆をお呼びして!!」
「奥様が行かずとも騎士団に使いを出します」
「では、私が産婆を」
「そちらも使いを出します!」
「では私はお湯を沸かしてくるわね」
「それはメイドの仕事です!」
「では私は、私は…私は……何を?」
「とりあえず、落ち着いてください」

マーサに引きずられて部屋に戻り、ストンとソファに座らされてしまいました。
ちょこん…。
いや、座ってる場合?場合なのですか!?

「セレナーデ、書類は済んだから彼のお見送りをお願いしてもいいかな?」

は!そうでした。執事と一緒に弁護士をお見送りします。
お部屋に戻ると「今なら陣痛が治まっている」というので、マーサとキャメロンさんの侍女とで脇を支えてキャメロンさんを自室へ運びます。ベットで再び陣痛に襲われ「痛い」と苦悶の表情を浮かべて堪えるキャメロンさん。後ろでは侍女がテキパキと出産準備を整えています。
「お願い、お母様手を握っていて」
もちろん、任せて!ガシッ!と握った手、陣痛の痛みを堪えるために痛いほど強く握られます。

「ごめんなさ…痛いですよね」
「構いません。遠慮なく骨を砕くつもりで握ってちょうだい!」

陣痛の合間をぬってお水を飲んでもらい、痛むという腰を摩って、流れる汗を拭いてあげます。

「これってどのぐらいで産まれるのでしょう…うぅぅーーーっ」
「わからないけど、実家の母に聞いたら私が出てくるまでに二日かかったそうよ」
「二日!?」
キャメロンさんの顔に絶望の色が
「でも私の兄は二時間で出てきたとか」
「極端!」
ごめんなさい、参考にならなくて。

そこで廊下が騒がしくなり息子が帰ってきたようです。丁度、産婆も到着し「必要だと判断したら主治医を呼びましょう。お産は病気じゃないので、まずは落ち着いて。あら若い姑さんですね。必要ならお呼びしますから、お部屋で待機していてください」お部屋から放り出されてしまいました。あら、息子、貴方も追い出されたの?
息子は廊下を行ったり来たり、部屋からキャメロンさんの悲鳴が上がる度に扉まで駆け寄って張り付いています。

仕方なく自室に戻りましたが、全く落ち着きません。
お邪魔でしょうが、旦那様と一緒にいさせていただきましょう。失礼します。
すごすごとバット脇まで歩いて行くと、本を読んでいらっしゃった旦那様が苦笑で迎えてくださいました。ぽんぽんとベット脇を叩いて勧められたのでそこへ腰掛けます。

「追い出されましたか?」
「追い出されました」
「…息子が生まれる時は、私も部屋を追い出されました」

本を置いた旦那様が手招きされ、腕の中にお邪魔させていただきます。
「大丈夫」だと宥めるように背を撫でてくださいますが、どうしても落ち着きません。腕の中でもぞもぞしてしまいます。
ああ、やっぱりもう一度様子を見に行きましょうか…ん?旦那様以外と腕力ああるのですね、抜け出せません
「!!」
不意にうなじに柔らかく熱いものが触れて、チュッと吸われ
「旦那様!?」

「はい?」

慌てて振り返りますが、常と変わらぬ穏やかな微笑みの旦那様です。
…気のせいでしたか?
チュッ、カプ。
今度は噛まれました!
「旦那様…!」

「はい」

そしてやっぱり穏やかに微笑んでおられますが、こんな時にイタズラですか!?
「旦ーーーン、っ…!」
叱ろうと開いた唇にそのまま口付けられ、ぬるりと舌が入り込みます。旦那様の手が咄嗟に息を止めた私の髪を撫で、耳朶を撫で「瞼は軽く伏せて」と角度を変える口付けの合間に囁かれ「鼻で息をしなさい」しかし、そんなことを言われても上手くはできず、チロチロと口内を舐められる感覚とむず痒さ、息苦しさで頭がクラクラしてきます。

「はっーーー…!」

唇が解放され、大きく空気を吸い込む間も旦那様の唇は下へ。首筋を這い時折チュッと吸われ、耳朶を撫でていた指がいつの間にかワンピースの釦を外し始め「!?だ、んーーー?」再び口付けられ、翻弄され、気づけばやわやわと乳房を揉まれております、しかも直に!
ーーなんという早業!
釦を外されたワンピースはスルスルと勝手に開けるてしまい、抑えようとした手は両手とも旦那様の片手に簡単に絡め取られてしまい「嫌じゃなければ大人しくしておいで」と。
ーー嫌ではないのです。嫌ではないのですが、居た堪れないのです!!
やわやわと揉まれていた胸の先が尖り始め、旦那様の指がそこを掠めるとビクビク体が跳ねてしまいます。そこは妙に感覚が…っ
とかなんとか思っていたら、いつの間にやらスカートがたくし上って、膝まで露わになってます「!?」
太腿を撫でる旦那様の指が「く、くすぐったい…の、ですが…!?」ふふふと笑う旦那様の声が耳元で「!」息を吹き込まないでください!
そのまま内腿を撫でられ、旦那様の骨ばった細く長い指が下着の中へーーー

ーークチュ…
「…あ……っ」

濡れた音と自分のものとは思えない喘ぎ。
脳裏にあの日の光景がよぎりました。
夕日の差し込む騎士科実技準備室内、重なる男女の影…情交の音と喘ぎ声。

「ァ…!!」

反射的に両手で耳を塞いてキツく目を閉じ、旦那様の腕から逃げてしまいました。

「セレナーデ?」

いけない、逃げてしまっては…
ーーでも、どうしたら良いのかわからない…っ

強張り、震える私の不調法な態度にも旦那様は「大丈夫だ」といつもの微笑みでストールをかけてくださいました。

「すまなかった。ついセレナーデが可愛くて虐めすぎてしまった」
「可愛…ッ」

真っ赤になって焦ってるだけで、一体どこに可愛要素があったというのですか!?

「怖かったか?それとも、やはりこんな年寄りに触られるのは嫌か?」

反射的にブンブン顔を横に振ったら、つられて溢れていた乳房も揺れてしまい、慌ててワンピースを着なおし釦を留めます。

「旦那様にされて嫌なことなどありません。…突然のことで頭が全く状況について行かず、申し訳ありませんでした」

とりあえず謝らなければと頭をさげると「触れても?」と静かに問われ「大丈夫です」という私の答えを聞いて、旦那様は少し乱れた私の髪を撫でてなおしてくださいました。

「…ですが、怖がっていたように見えました」
「いえ、それは私が…思い出してしまって…」

不意に扉の向こうが騒がしくなり、かすかに赤ん坊の声?

「旦那様!!」

常ならノックなど忘れるはずのない執事が飛び込んできました。
開いた扉からは赤ん坊の泣き声も飛び込んできます。

「お産まれになりました!元気な男のお子様です!」
「キャメロンさんは!?」
「若奥様もお元気です」

ーーああ、よかった…!
すぐに立ち上がり、キャメロンさんのお部屋に行こうと・・・ヌルリ・・・

「か、体を清めて参ります!」

顔を赤くして自室へ駆け込む私を不思議な顔で見送る執事に「私も少し汗をかいた、拭いたいのでタオルを頼めるか?」と笑みを含んだ旦那様の声。ああ、待機していてくれたマーサの目が見られません!




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