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2部
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湯浴みを済ませて身支度を整え、マーサを伴っていそいそとキャメロンさんのお部屋にお邪魔させていただきます。
ベットにはぐったりと疲れきった様子のキャメロンさんが横たわり、お包みを抱いた息子が側に座っていました。
「…母上、男の子です。俺の息子です」
「見せていただいても宜しいですか?」
赤ん坊を驚かせないよう声を潜め、足音も忍ばせて側へ寄ります。
「抱いてあげてください」
キャメロンさんの声は少し掠れていました。
「お疲れ様でした。産婆は先ほどお見送りしましたが、初産にしては上出来だったと褒めていましたよ」
「褒めていた?!息め、息むな、根性無しと厳しい事ばかり言われましたのよ」
「頑張ったのですね」
「扉の前で聞こえてはいたが、情けないことに何もできなかった…」
情けなく肩を落とす息子に苦笑です。
「貴方の出番はこれからでしょう!父親の背中というものを見せてあげなければいけないのですから、落ち込んでいる暇はないのでは?」
「そうでした」と姿勢を正した息子が椅子を勧めてくれました。
「抱き慣れていないと座って抱いた方が良いそうです」
でも…
「あの、私よりも旦那様に抱かせてあげてください。ボルト家の跡取りです、きっと逢えるのを待っていらっしゃると思うのです」
その言葉に息子が確認するようにキャメロンさんを見ました。キャメロンさんが微笑で頷き
「私はもう少し休まないと動けそうにありません。お母様、お願いします」
「ありがとうございます」
感謝を込めて頭を下げ、息子に続いて旦那様のお部屋へと向かいます。
「父上、孫を連れてまいりました…」
「入れ」
執事が扉を開けてくれました。ベットの上で旦那様が身を乗り出すようにお待ちです。息子の腕の中のお包みを覗き込み、最高の笑顔を浮かべて両手を出し「いいか?」と。頷いた息子が、旦那様の腕にお包みを預けました。
「母上も…」
勧められベットの端へ腰掛けて、旦那様の腕の中のお包みを覗き込みます。
途端にニョキッ!とお包みの中から手が「!」驚いて仰け反ってしまいました。飛び出した手は小さくて、指も小さくて、その指一つ一つに小さな爪がちゃんとついていて…お包みを直そうと伸ばした私の左手薬指をきゅっと掴んで握りました。
「小さい…ですね」
「…ああ」
驚かさないよう、覗き込むと銀の髪が見えました。旦那様と同じ銀髪なのですね。けれど髪質は息子に似たのか柔らかな猫っ毛に見えます。閉じられた瞼にも銀のまつ毛が。小さな鼻に小さな口…何色の瞳をしているのでしょう?
そう思っていたら、瞼がわずかに開き…青いブルーサファイアの瞳…旦那様と同じ色です。
ーー…なんて美しい赤ちゃん
知らず、ため息をもらしてしまいました。
「セレナーデ…」
旦那様が両手を出すよう促してきますが、私は赤ん坊を抱いた経験がありません。どうしたらいいのでしょう?
「母上、両手をこのように。首を支えてあげてください」息子に教わったように両腕を曲げて用意し、そこに抱かせてもらいます。
思ったよりも重い、けれど人としてはあまりに軽く儚い
ーー温かい…
腕の中の眩しさに自然と涙が滲みます。
「…嗚呼、命は奇跡というけれど本当ですね。愛おしい」
見つめていると「ふぁ…」と小さな欠伸を!
「旦那様、見ましたか?今欠伸を…!」
旦那様は、なぜか私の方を見て微笑んでいらっしゃいます。いえ、私と赤ん坊でしょうか
「自分の子を抱いてみたいとは思わないかい?」
「…自分の子?」
意味がよく理解できず、息子を見ます。息子も微笑んで頷いてみせますが…
「息子よ、抱っこして欲しいのですか?」
「違います!なぜそうなるのですか。ご自分で産んだ子を抱きてみたくはないかと聞かれているのです」
「自分で産んだ子」と言われ、再び旦那様へと視線を戻します。
「ですが…旦那様にご無理をさせるわけには」
先程のアレコレを思い出し、顔が熱くなってしまいます。ふふ…と旦那様が笑い「そうではありません」と優しい声音で否定されました。
「私が逝った後の話です。貴女はまだ若い、私が逝った後も生きてゆかなければならない。独りはどうにも心許無い…貴女と共に歩み、寄り添う者がいて欲しいと、私は思うのです。いつまでも噂を気にする必要はありません。そんなものに振り回されて貴女が独りになる方が私は心配だ。夜会でも茶会でもいい、外に出ていい人を探しておいで」
「旦那様」
「私が生きている間でもいい。息子をエスコートに付けよう。連れてきた男は私が見定めて、悪い男は追い返す…うん。それもいいな」
「旦那様!私は浮気はいたしません!」
声を荒げてしまったせいで、腕の中の赤ん坊が身動ぎ眉間に皺を寄せてしまいました。
宥めるようにゆるく揺らし「ごめんなさい」と謝れば、小さな瞼を閉じて…眠ってしまったようです。
恨めしげに旦那様を睨めば、困ったように笑われてしまいました。
ーーわかっています。
私を心配してくださっていること。
旦那様のお体は痛みだけを取り除いた状態。今も侵食され、命を削られ続けています。
確実にその日は近づいていて、孫の顔を見ることは叶わないかもしれないと、覚悟していらっしゃったことも…
ベットにはぐったりと疲れきった様子のキャメロンさんが横たわり、お包みを抱いた息子が側に座っていました。
「…母上、男の子です。俺の息子です」
「見せていただいても宜しいですか?」
赤ん坊を驚かせないよう声を潜め、足音も忍ばせて側へ寄ります。
「抱いてあげてください」
キャメロンさんの声は少し掠れていました。
「お疲れ様でした。産婆は先ほどお見送りしましたが、初産にしては上出来だったと褒めていましたよ」
「褒めていた?!息め、息むな、根性無しと厳しい事ばかり言われましたのよ」
「頑張ったのですね」
「扉の前で聞こえてはいたが、情けないことに何もできなかった…」
情けなく肩を落とす息子に苦笑です。
「貴方の出番はこれからでしょう!父親の背中というものを見せてあげなければいけないのですから、落ち込んでいる暇はないのでは?」
「そうでした」と姿勢を正した息子が椅子を勧めてくれました。
「抱き慣れていないと座って抱いた方が良いそうです」
でも…
「あの、私よりも旦那様に抱かせてあげてください。ボルト家の跡取りです、きっと逢えるのを待っていらっしゃると思うのです」
その言葉に息子が確認するようにキャメロンさんを見ました。キャメロンさんが微笑で頷き
「私はもう少し休まないと動けそうにありません。お母様、お願いします」
「ありがとうございます」
感謝を込めて頭を下げ、息子に続いて旦那様のお部屋へと向かいます。
「父上、孫を連れてまいりました…」
「入れ」
執事が扉を開けてくれました。ベットの上で旦那様が身を乗り出すようにお待ちです。息子の腕の中のお包みを覗き込み、最高の笑顔を浮かべて両手を出し「いいか?」と。頷いた息子が、旦那様の腕にお包みを預けました。
「母上も…」
勧められベットの端へ腰掛けて、旦那様の腕の中のお包みを覗き込みます。
途端にニョキッ!とお包みの中から手が「!」驚いて仰け反ってしまいました。飛び出した手は小さくて、指も小さくて、その指一つ一つに小さな爪がちゃんとついていて…お包みを直そうと伸ばした私の左手薬指をきゅっと掴んで握りました。
「小さい…ですね」
「…ああ」
驚かさないよう、覗き込むと銀の髪が見えました。旦那様と同じ銀髪なのですね。けれど髪質は息子に似たのか柔らかな猫っ毛に見えます。閉じられた瞼にも銀のまつ毛が。小さな鼻に小さな口…何色の瞳をしているのでしょう?
そう思っていたら、瞼がわずかに開き…青いブルーサファイアの瞳…旦那様と同じ色です。
ーー…なんて美しい赤ちゃん
知らず、ため息をもらしてしまいました。
「セレナーデ…」
旦那様が両手を出すよう促してきますが、私は赤ん坊を抱いた経験がありません。どうしたらいいのでしょう?
「母上、両手をこのように。首を支えてあげてください」息子に教わったように両腕を曲げて用意し、そこに抱かせてもらいます。
思ったよりも重い、けれど人としてはあまりに軽く儚い
ーー温かい…
腕の中の眩しさに自然と涙が滲みます。
「…嗚呼、命は奇跡というけれど本当ですね。愛おしい」
見つめていると「ふぁ…」と小さな欠伸を!
「旦那様、見ましたか?今欠伸を…!」
旦那様は、なぜか私の方を見て微笑んでいらっしゃいます。いえ、私と赤ん坊でしょうか
「自分の子を抱いてみたいとは思わないかい?」
「…自分の子?」
意味がよく理解できず、息子を見ます。息子も微笑んで頷いてみせますが…
「息子よ、抱っこして欲しいのですか?」
「違います!なぜそうなるのですか。ご自分で産んだ子を抱きてみたくはないかと聞かれているのです」
「自分で産んだ子」と言われ、再び旦那様へと視線を戻します。
「ですが…旦那様にご無理をさせるわけには」
先程のアレコレを思い出し、顔が熱くなってしまいます。ふふ…と旦那様が笑い「そうではありません」と優しい声音で否定されました。
「私が逝った後の話です。貴女はまだ若い、私が逝った後も生きてゆかなければならない。独りはどうにも心許無い…貴女と共に歩み、寄り添う者がいて欲しいと、私は思うのです。いつまでも噂を気にする必要はありません。そんなものに振り回されて貴女が独りになる方が私は心配だ。夜会でも茶会でもいい、外に出ていい人を探しておいで」
「旦那様」
「私が生きている間でもいい。息子をエスコートに付けよう。連れてきた男は私が見定めて、悪い男は追い返す…うん。それもいいな」
「旦那様!私は浮気はいたしません!」
声を荒げてしまったせいで、腕の中の赤ん坊が身動ぎ眉間に皺を寄せてしまいました。
宥めるようにゆるく揺らし「ごめんなさい」と謝れば、小さな瞼を閉じて…眠ってしまったようです。
恨めしげに旦那様を睨めば、困ったように笑われてしまいました。
ーーわかっています。
私を心配してくださっていること。
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