乙女ゲームのバグ令嬢〜婚約破棄からの断罪劇が始まるようですが、冤罪は良くないと思います!〜【完結】

モナカ

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3部

3-2

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旦那様の葬儀も終わり、お屋敷は旦那様のいない日常を取り戻しつつあります。

私もことあるごとに旦那様を思い出して寂しくなってしまいますが、孫のロバートが這って歩くようになり油断するとなんでもお口に入れるので、旦那様に想いを馳せる暇がありません。
そんな中、キャメロンさんが第二子を妊娠していることが発覚いたしました。とても喜ばしいことです!
キャメロンさんは悪阻がひどく、顔色も優れないので心配ではありますが、病気ではないので大丈夫ですよと私が励まされてしまいました。
ああ、ロバートどこへ行くのですか?
乳幼児でありながら彼のハイハイはとても早いので、うっかりすると置いていかれてしまいます。

「セレナーデ様、オリオン・レイス様がおいでになられました」
「は、はい!」

ようやくロバートに追いついて抱き上げた玄関ホールで執事に声をかけられました。
急ぎお出迎えしたいところですが、自由を奪われたロバートが腕の中で暴れて思いっきり頭突きをされてしまいました。
痛い…。

「大丈夫か?」

いつの間にやら玄関扉が開いていてオリオン様に見られてしまいましたよ!

「セレナーデ様、ロバート様をお預かり致しましょう」
「気をつけてね。ロバートは自由を愛する男のようだから」

畏まりました。と微笑む執事にロバートを任せ、オリオン様をお出迎え致します。
あれ以来、オリオン様は暇を見てはお屋敷に訪ねてこられるようになりました。
実は息子と仲良しだったのかしら?とも思いましたが、息子が留守でも訪ねて下さいます。近衛となり、第一王子殿下の視察の護衛でよく遠方へ行かれるそうで、その度にお土産を持ってきてくださいます。各地の名産、名物、クマが首を振る謎の置物。

「ロバートはまた大きくなったな…」
「はい、離乳食も食べ始め日々目覚ましい進化を遂げております。直立二足歩行が楽しみです」
「…そうか」
「ところで今日はシリウスはご一緒ではないのですか?」
「……置いてきた」

シリウスはオリオン様の愛馬です。艶やかな黒い被毛に引き締まった体躯、睫毛に縁取られた黒曜石のような瞳、長い鬣が風になびいて…なんとも『イケメン』なお馬さんなのです。あら?『イケメン』ってなんでしたっけ。いえ、そんなことより、一度だけオリオン様が乗っていらしたのですが、それ以来会えておりません。もう一度お会いしたい。できたら撫でさせていただきたい。一日千秋の思いでございます。
マーサにお茶の用意をお願いしてサロンへご案内いたします。

「今回は王都の北に行ってきた。土産だ」
「いつもお気遣い頂き、ありがとうございます。北はいかがでした?」
「あちらはまだ山々に雪が残っていて、吹く風が寒い。峠を越えの途中で山賊も出た」
「山賊!?」
「10人程度のやせ細った山賊だったので容易に制圧できた」
「やせ細った山賊…ですか…」
「頭は女でかなりふくよかだったがな」

やせ細った下っ端山賊が哀れに思えてくるのはなぜでしょう。
お土産はブランデーケーキでした。お茶と一緒に頂きましょう。美味しい。
オリオン様は無口な方だと思っておりましたが、最近はこうしてお土産話しもしてくださいます。
テーブルを挟み向かい合うように座るオリオン様がこちらをじっと見てきます。
なんでしょう…はっ!ケーキの屑が口の周りについていましたか!?

「…赤くなっている」

身を乗り出して手を伸ばされ、顎を撫でられました。
先ほどロバートの頭突きをくらった場所が赤くなっていたようです。実はずっとジンジンと痛みがあります。
剣を持つ硬い手の感触を意識してしまって、顔が熱くなってしまいます。じわりと汗ばむのはブランデーケーキのアルコールの所為です。きっと。
「大丈夫です」と誤魔化しつつ、話題を変えねば。

「そ、そういえば第一王子殿下が留学なさると聞きました…」
「ああ、短期だが隣国エビアンに政務を学ぶ為留学なさるそうだ」

留学のお話はシセーラ様のお手紙で知りました。隣国エビアンには我が兄も長く留学しており、どのような所か気にしておられました。
表向きは留学ですが、王太子ロベルト殿下の婚約者候補に隣国の姫君をという話があり、人となりを探るというのが本当の目的だそうです。

シセーラ様からのお手紙には第一王子妃キャンベラ様がオリオン様を欲しがっていたこと、それを直接きっぱりとお断りになったことも書かれていました。そして第一王子妃キャンベラ様が当時何らかの方法でオリオン様を状態異常にして操っていた可能性があり、アルファード殿下が調べていることも。

それは『乙女ゲー』の『強制力』では…ん?ちょっと意味がわからないので、忘れましょう。

そういえば兄が留学したのは私が王立学園に入学する前、兄の居ぬ間に婚約解消→結婚→未亡人へとジョブチェンジしてしまいました。兄はいつ帰ってくるのでしょう。

「…一緒に行かれるのですか?」

不自然にならぬようマーサの淹れてくれたお茶を飲みながら、何気なく問います。
よもや兄のように行ったっきり何年も戻らない、何てことはありませんよね?
ティーカップ越しにちらりとオリオン様を見ると、じっとこちらを見る目と合ってしまいました。

「……………」
「…………?」

なんでしょう。

「……俺が遠くへ行くのは嫌か?」
「!」

今ご自分のことを「俺」っておっしゃいましたか?いえ、なぜそんなことを私に聞くのでしょう。

「…オリオン様の大事なお勤めなのですから、嫌も何もありません」
「……………そうか」

何ですか今の間は。そして心なしかがっかりなさっておられるような。
遠くへ行ってしまったら今の様にお会いすることは難しいでしょう。そうなればお話もできない。それはとても寂しいことです。
旦那様も彼方に逝ってしまって、お話したいことがいっぱいあるのにできなくなってしまいました…墓石は冷たいだけ。
ーーああ、でも隣国ならば

「会いに…行ってしまうかもしれません」
「セレナ…?」
「隣国ならば会いに行けますから」
「ーーーーっ」

瞠目したオリオン様がゆっくりと瞼を閉じて天を仰いでいらっしゃいます。
「よし…!」廊下からキャメロンさんの声がしたような?悪阻は大丈夫なのかしら。
廊下を気にしている間にオリオン様が隣に座っていました。私の手からティーカップを取ってソーサーに戻し、そのまま両手を握られ

「…隣国へは行かない。セレナが許してくれるなら側に置いてほしい」
「………それは」
「すぐに答えてくれなくていいが、考えて欲しい」

それは…なんと答えたら良いのか。握られた手の熱さと少し汗ばんだ硬い手、骨ばった長い指の爪は私のものより大きい。
まっすぐ見つめてくるアメジストの熱に堪えきれず、視線をそちらに下げてしまいます。

「………………その場合、シリウスも付いてきますか?」
「ぐ……っ」

ちらりと様子を伺うと、オリオン様の眉間に深い皺が寄りました。

「………………………………………シリウスも付けよう」


ああ、旦那様。
私、どうしたら良いのでしょう。




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