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「お母様、ヘチマ畑の一角だけ違う植物が育っているようですが、あれは?」
ロバートのお昼寝中に畑いじりをしていたらキャメロンさんに見つかってしまいました。
最近は悪阻もおさまり、食欲も戻ってきたようで一安心です。
「…ちょっと人参を植えてみようかと思って」
「お母様、シリウスに貢ぐおつもりですね」
「ちょっとよ!ほんの少し。手作りのものを受け取って貰えたら嬉しいじゃない」
「そんな恥らう乙女のような表情で…セレナーデ様」
なんですマーサ、呆れたように溜息なんかついて。キャメロンさんまで首を横に振って、なんですの。
「お母様、シリウスに貢いでも夜会でエスコートはしてくれませんよ」
「…夜会?」
「はい、今度国王陛下主催の夜会があるのです。ジークが爵位を継いだので招待状が来ているのですが、私はこの通りの体でしょ?お母様に代理をお願いしたいのです」
「代理、ですか?」
「ええ、ジークを一人で行かせるわけにはいきません。余計な虫がつくかもしれませんしね」
「…けれど、そんなことをしてまたあらぬ噂をされたら、ジークを困らせてしまうのではないかしら」
「全く問題ありません。ジークはそんな噂でどうこうなるような男ではありませんから。それに…」
キャメロンさんはバサリと扇を広げて鮮やかに笑み、その表情は欠片も疑わぬ信頼と自信で輝くばかりです。そして子供を産んでさらに豊満さを増した胸を張り
「私がお母様にジークを奪われるなど、ありえませんわ!」
オーホッホホホと高らかに笑う声が青空に抜けてゆきます。確かに、その通りです。
その翌日、私は久しぶりに旦那様のお部屋にお邪魔しました。
ベットを見ても、もうあの穏やかに微笑む旦那様の姿はなく、綺麗に片付いたお部屋は冷たい寂しさを感じさせます。
それでもまだお部屋には旦那様の匂いがして
「母上」
いけません、思いを馳せている場合ではありませんでした。息子に呼ばれて来たのです。
苦笑する息子の後ろ、テーブルに大きな箱が置かれています。
「父からの贈り物です」
ーー旦那様からの贈り物?
すぐには理解できずに首をかしげると、息子に箱を開けるよう促されました。
大きな箱を開けると中にはドレスが
「男の沽券に関わるとドレスの採寸をさせられたでしょ」
箱の中のドレスから目が離せません。そっと触れて、手にとって…
「気に入ってくれましたか?」
旦那様の声が聞こえた気がしました。穏やかな微笑みで。でも少し悪戯が成功した子供のような目で笑いかけてくださる。
ドレスを胸に抱いて…はい、旦那様。ありがとうございます。
笑顔で応えたいのに、声は出ず涙が溢れてしまいました。
「父は貴女と共に歩み、寄り添う者が側にいて欲しいと願っていました。これを着て外に出て探しておいでということでしょう。母上、父の願いを叶えてくださいませんか?」
旦那様と同じブルーサファイアの瞳が、よく似た微笑みで細められています。
「…はい」
私に旦那様のお願いを断れるわけがないのです。
ロバートのお昼寝中に畑いじりをしていたらキャメロンさんに見つかってしまいました。
最近は悪阻もおさまり、食欲も戻ってきたようで一安心です。
「…ちょっと人参を植えてみようかと思って」
「お母様、シリウスに貢ぐおつもりですね」
「ちょっとよ!ほんの少し。手作りのものを受け取って貰えたら嬉しいじゃない」
「そんな恥らう乙女のような表情で…セレナーデ様」
なんですマーサ、呆れたように溜息なんかついて。キャメロンさんまで首を横に振って、なんですの。
「お母様、シリウスに貢いでも夜会でエスコートはしてくれませんよ」
「…夜会?」
「はい、今度国王陛下主催の夜会があるのです。ジークが爵位を継いだので招待状が来ているのですが、私はこの通りの体でしょ?お母様に代理をお願いしたいのです」
「代理、ですか?」
「ええ、ジークを一人で行かせるわけにはいきません。余計な虫がつくかもしれませんしね」
「…けれど、そんなことをしてまたあらぬ噂をされたら、ジークを困らせてしまうのではないかしら」
「全く問題ありません。ジークはそんな噂でどうこうなるような男ではありませんから。それに…」
キャメロンさんはバサリと扇を広げて鮮やかに笑み、その表情は欠片も疑わぬ信頼と自信で輝くばかりです。そして子供を産んでさらに豊満さを増した胸を張り
「私がお母様にジークを奪われるなど、ありえませんわ!」
オーホッホホホと高らかに笑う声が青空に抜けてゆきます。確かに、その通りです。
その翌日、私は久しぶりに旦那様のお部屋にお邪魔しました。
ベットを見ても、もうあの穏やかに微笑む旦那様の姿はなく、綺麗に片付いたお部屋は冷たい寂しさを感じさせます。
それでもまだお部屋には旦那様の匂いがして
「母上」
いけません、思いを馳せている場合ではありませんでした。息子に呼ばれて来たのです。
苦笑する息子の後ろ、テーブルに大きな箱が置かれています。
「父からの贈り物です」
ーー旦那様からの贈り物?
すぐには理解できずに首をかしげると、息子に箱を開けるよう促されました。
大きな箱を開けると中にはドレスが
「男の沽券に関わるとドレスの採寸をさせられたでしょ」
箱の中のドレスから目が離せません。そっと触れて、手にとって…
「気に入ってくれましたか?」
旦那様の声が聞こえた気がしました。穏やかな微笑みで。でも少し悪戯が成功した子供のような目で笑いかけてくださる。
ドレスを胸に抱いて…はい、旦那様。ありがとうございます。
笑顔で応えたいのに、声は出ず涙が溢れてしまいました。
「父は貴女と共に歩み、寄り添う者が側にいて欲しいと願っていました。これを着て外に出て探しておいでということでしょう。母上、父の願いを叶えてくださいませんか?」
旦那様と同じブルーサファイアの瞳が、よく似た微笑みで細められています。
「…はい」
私に旦那様のお願いを断れるわけがないのです。
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