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大精霊の代替わりとルークの秘密
6、大精霊の代替わり
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王立ルサルカ魔法学園は精霊から加護を受けた者が魔力の制御や操作、精霊との付き合い方などを学ぶ学園で、十五歳から十八歳までの三年間、貴族も平民も同じ学舎で授業を受ける。
精霊は対価に魔力を差し出せば色々と手助けをしてくれるありがたい存在だが、別の種族なので人とは価値観が全く違う。享楽的でいたずら好きの精霊は下位になればなるほど話が通じず、契約を少しでも違えると手痛いしっぺ返しがやってくる。そのため学園では精霊との円滑な付き合いができるように、軋轢が起きないように契約や交流の仕方を学ぶのだ。
「……勇者は学園生、ですか。誰かを名指ししているわけではないのですね」
ルークが確認すると、アベルは軽く頷いた。
「ああ。ただ学園生とだけ」
「ではどうやって勇者を選定するんでしょうかね。そういえば前の魔王討伐の際に使われた聖剣はクラヴィア神国に安置されているんですよね?」
クラヴィア神国は精霊教会の本拠地で、神の代理とも言われる教皇により統治される宗教国家だ。大陸の東にある小さな島国だが、各国にある精霊教会と密接な関わり合いを持ち、国々に多大な影響力を持っている。
「ああ。前回は聖剣が使い手を選んだそうだな。鞘から聖剣を抜いた者が聖剣の担い手となって魔王を討伐し『勇者』と呼ばれるようになったという」
「今回も同じでしょうか……。まあ何にせよ私には大精霊に託された大事な使命があります。私が勇者に選ばれる事はないでしょう。だから安心してください、父上」
「ああ、そうだな。それにしても大精霊様か……」
アベルが安心と不安がない混ぜになったような複雑な顔をして腕を組み、大きくため息をつく。
「まさか魔王の復活と大精霊様の代替わりが重なるとはな……」
全ての精霊を統べる大精霊の代替わり。
アベルが言う通り、それが今まさに精霊界で起こっている。
大精霊は衰えを感じると、身体だけでなく記憶や精神などありとあらゆるものを完全に写し取った自らの複製体を作り出し、古い身体を捨てて乗り換える。
精霊の代替わりには膨大な魔力が必要となり、魔力を複製体に与える役目を持つ者も同時期に誕生する。
その者は無尽蔵の魔力を持ち、産まれた時から精霊の姿が見え、どの精霊とも意思疎通ができる、大精霊と親和する穢れなき魔力を持つ精霊の【寵愛者】でーーー
「ルーク、大精霊様の代替わりは順調か?」
「はい。ようやく一メートルほどの大きさとなり、だんだんと光が濃くなってきました。間もなくヒト型を取れるようになり、意思疎通も可能になるかと」
「そうか。励めよ」
「はい、父上」
ーーー此度の代替わりで大精霊に魔力を注ぐ大事な役目を担うのがルーク・ファルシオンだった。
複製体は最初、弱々しい光を放つ直径三センチほどの球体だった。ルークは定期的に精霊たちに連れられて精霊界へと赴き、魔力を捧げてきた。やがて球体が眩い光を放ち、ヒトのような姿を取れるようになる頃には旧い大精霊が完全に消滅し、複製体が新たなる大精霊となる。
新たな大精霊が力をつけ完全体になるには長い期間が必要なため、精霊の寵愛者は成人を迎えると精霊界へと渡り、完全体になるまで魔力を与えて母親のように護り育てる。
その関係性から加護の名は【寵愛者】から【伴侶】へと変化する。【伴侶】となると歳を取らなくなり、大精霊が次代に引き継ぐまでずっと傍らに寄り添い続けることとなる。
ルークがファルシオン家を継がず、この歳になって婚約者もいないのは、いずれ精霊界に渡ることになるためだ。
現在、大精霊の複製体は、世界樹から伸びたたくさんの幹がおくるみのように包み込んで護っている。複製体を護るための魔力は世界樹自体が持つものと、人と契約した対価に受け取る魔力を使っている。そしてその世界樹と契約、加護を受けた者が少女ルルだった。
本来、世界樹のような高位植物精霊と人が契約することは不可能だ。だが今回は大精霊の代替わりという特殊な事情があったため、人間と契約する必要があった。
ルルが選ばれたのは、単に魔力量が大きかったことと、魔法属性が土で相性が良かっただけのことだった。
だがそのせいで、普通に生活していた市井の少女ルルがヴァレンタイン侯爵家に引き取られ、ルルーシェ・ヴァレンタインとして聖女の冠を戴くことになってしまった。
聖女として生きるか、ただの少女として生きた方が良かったのか、どちらが幸せなのかはルルのみぞ知ることだろう。
◾️◾️◾️
旧大精霊と複製体の新大精霊は寸分の狂いもなく同じものであるはずだった。
それなのに、なぜか旧大精霊には無い、私だけが持っている記憶がある。
ーー『最果てに咲くサフィニア』ーー
そんな名前のゲームをやっていた記憶が私だけにある。
私は手元に持っている、小さな四角い金属の箱のようなものを見ている。記憶によるとそれはスマホと言うらしい。スマホにはゲーム画面が映し出されており、選択肢が出るまで自動で場面が移り変わっていく。
ゲームのストーリー、登場人物たちのプロフィール、攻略のしかた、エンディングに至る経路ーーなどなど、殆どを覚えている。どうやらこの記憶の主はずいぶんとこのゲームをやり込んでいたらしい。
なぜこんなゲームの記憶が私にだけ残っているのかは分からない。
もしかしたら私は転生者で、ゲームをしていたのは前世の私かもしれない。
だが、ゲームのストーリーを隅から隅まで思い出してみても、大精霊の代替わりなどといったイベントはなく、私の【伴侶】となるルークも出てこない。
つまり、今回の魔王復活に関して私の出る幕はない、ということだ。
ならば人に対して私からできる事は何もない。
魔王に蹂躙されようが世界が崩壊しようが、ただ人の行く末を精霊界で見つめるだけだ。
ーーーだけどゲームとこの世界の違いを見て愉しむのはいいよね?
どこまで原作乖離が続くのか、ルークがストーリーをどうやって掻き回してくれるか。
楽しみにしているよ、ルーク。
私の愛しい子。
精霊は対価に魔力を差し出せば色々と手助けをしてくれるありがたい存在だが、別の種族なので人とは価値観が全く違う。享楽的でいたずら好きの精霊は下位になればなるほど話が通じず、契約を少しでも違えると手痛いしっぺ返しがやってくる。そのため学園では精霊との円滑な付き合いができるように、軋轢が起きないように契約や交流の仕方を学ぶのだ。
「……勇者は学園生、ですか。誰かを名指ししているわけではないのですね」
ルークが確認すると、アベルは軽く頷いた。
「ああ。ただ学園生とだけ」
「ではどうやって勇者を選定するんでしょうかね。そういえば前の魔王討伐の際に使われた聖剣はクラヴィア神国に安置されているんですよね?」
クラヴィア神国は精霊教会の本拠地で、神の代理とも言われる教皇により統治される宗教国家だ。大陸の東にある小さな島国だが、各国にある精霊教会と密接な関わり合いを持ち、国々に多大な影響力を持っている。
「ああ。前回は聖剣が使い手を選んだそうだな。鞘から聖剣を抜いた者が聖剣の担い手となって魔王を討伐し『勇者』と呼ばれるようになったという」
「今回も同じでしょうか……。まあ何にせよ私には大精霊に託された大事な使命があります。私が勇者に選ばれる事はないでしょう。だから安心してください、父上」
「ああ、そうだな。それにしても大精霊様か……」
アベルが安心と不安がない混ぜになったような複雑な顔をして腕を組み、大きくため息をつく。
「まさか魔王の復活と大精霊様の代替わりが重なるとはな……」
全ての精霊を統べる大精霊の代替わり。
アベルが言う通り、それが今まさに精霊界で起こっている。
大精霊は衰えを感じると、身体だけでなく記憶や精神などありとあらゆるものを完全に写し取った自らの複製体を作り出し、古い身体を捨てて乗り換える。
精霊の代替わりには膨大な魔力が必要となり、魔力を複製体に与える役目を持つ者も同時期に誕生する。
その者は無尽蔵の魔力を持ち、産まれた時から精霊の姿が見え、どの精霊とも意思疎通ができる、大精霊と親和する穢れなき魔力を持つ精霊の【寵愛者】でーーー
「ルーク、大精霊様の代替わりは順調か?」
「はい。ようやく一メートルほどの大きさとなり、だんだんと光が濃くなってきました。間もなくヒト型を取れるようになり、意思疎通も可能になるかと」
「そうか。励めよ」
「はい、父上」
ーーー此度の代替わりで大精霊に魔力を注ぐ大事な役目を担うのがルーク・ファルシオンだった。
複製体は最初、弱々しい光を放つ直径三センチほどの球体だった。ルークは定期的に精霊たちに連れられて精霊界へと赴き、魔力を捧げてきた。やがて球体が眩い光を放ち、ヒトのような姿を取れるようになる頃には旧い大精霊が完全に消滅し、複製体が新たなる大精霊となる。
新たな大精霊が力をつけ完全体になるには長い期間が必要なため、精霊の寵愛者は成人を迎えると精霊界へと渡り、完全体になるまで魔力を与えて母親のように護り育てる。
その関係性から加護の名は【寵愛者】から【伴侶】へと変化する。【伴侶】となると歳を取らなくなり、大精霊が次代に引き継ぐまでずっと傍らに寄り添い続けることとなる。
ルークがファルシオン家を継がず、この歳になって婚約者もいないのは、いずれ精霊界に渡ることになるためだ。
現在、大精霊の複製体は、世界樹から伸びたたくさんの幹がおくるみのように包み込んで護っている。複製体を護るための魔力は世界樹自体が持つものと、人と契約した対価に受け取る魔力を使っている。そしてその世界樹と契約、加護を受けた者が少女ルルだった。
本来、世界樹のような高位植物精霊と人が契約することは不可能だ。だが今回は大精霊の代替わりという特殊な事情があったため、人間と契約する必要があった。
ルルが選ばれたのは、単に魔力量が大きかったことと、魔法属性が土で相性が良かっただけのことだった。
だがそのせいで、普通に生活していた市井の少女ルルがヴァレンタイン侯爵家に引き取られ、ルルーシェ・ヴァレンタインとして聖女の冠を戴くことになってしまった。
聖女として生きるか、ただの少女として生きた方が良かったのか、どちらが幸せなのかはルルのみぞ知ることだろう。
◾️◾️◾️
旧大精霊と複製体の新大精霊は寸分の狂いもなく同じものであるはずだった。
それなのに、なぜか旧大精霊には無い、私だけが持っている記憶がある。
ーー『最果てに咲くサフィニア』ーー
そんな名前のゲームをやっていた記憶が私だけにある。
私は手元に持っている、小さな四角い金属の箱のようなものを見ている。記憶によるとそれはスマホと言うらしい。スマホにはゲーム画面が映し出されており、選択肢が出るまで自動で場面が移り変わっていく。
ゲームのストーリー、登場人物たちのプロフィール、攻略のしかた、エンディングに至る経路ーーなどなど、殆どを覚えている。どうやらこの記憶の主はずいぶんとこのゲームをやり込んでいたらしい。
なぜこんなゲームの記憶が私にだけ残っているのかは分からない。
もしかしたら私は転生者で、ゲームをしていたのは前世の私かもしれない。
だが、ゲームのストーリーを隅から隅まで思い出してみても、大精霊の代替わりなどといったイベントはなく、私の【伴侶】となるルークも出てこない。
つまり、今回の魔王復活に関して私の出る幕はない、ということだ。
ならば人に対して私からできる事は何もない。
魔王に蹂躙されようが世界が崩壊しようが、ただ人の行く末を精霊界で見つめるだけだ。
ーーーだけどゲームとこの世界の違いを見て愉しむのはいいよね?
どこまで原作乖離が続くのか、ルークがストーリーをどうやって掻き回してくれるか。
楽しみにしているよ、ルーク。
私の愛しい子。
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