10 / 146
序章2 運命の夏の日! 美少年と謎の男
第4話 一郎と隼人
しおりを挟む翌朝早く、隼人は散歩に出た。道に迷ったらいけないと、一郎と啓子がついて行こうとしたが
「少し、ひとりで考えたいことがあって」
と、スニーカーをつっかけながら、隼人は断った。
朝食までには戻る、と言う隼人の後ろ姿を玄関で見送った啓子が、一郎に言った。
「おじいちゃん。あの子、その……どういう子なのかしら……」
一郎は頭をかいた。年齢のわりに髪は豊かで、白髪も見えない。
「悪い子ではないよ。危険な子でもない。じゃが……只者でもないな」
啓子は、一郎を見た。祖父の人を見る目の確かさは、誰よりも知っている。
「わかるの?」
一郎は笑った。
「なんとなくじゃよ。行くところがないようじゃから、ちゃんと戻って来るじゃろ」
散歩、といっても行くアテがあったわけではない。が、歩き回れば、心のもやもやが取れるかと隼人は思ったのである。夏の早朝の涼しい風が体に心地よい中、彼は首払村の外れにある高台までやってきた。
「へぇ……」
下に広大な緑の絨毯が広がっていた。稲刈りを来月に控えた田んぼである。村を一望できるが、その周辺にある他の集落もよく見え、首払村が結構な高地であることを知らされる。数本の道路が霞む先には建築物の群れが並び、田舎と街が折衷した良い景色だ。
奈美坂精神病院を逃げ出して数日。超常能力を持つ“研修生"として規則正しいトレーニング生活をおくっていたせいか、何もしないということはかえって疲れるものだと知った。今、見える綺麗な風景は隼人の目には優しかったが、心には大きな空洞があることを教えてくれる。
「これから何すりゃいいんだろ……」
空に抜けるような少年のひとりごとは、家にも奈美坂にも帰れない自分のフラついた立場が言わせたものだが、まとまらない考えはため息に姿を変え、隼人の口から漏れ出した。
“あたしね、力を持っていることには意味があると思うの。だって、無意味なことなんて、この世にはないんだから"
ふと、香代のことを思いだす。常に前向きだった彼女は、よくそんなことを言っていた。
“あたしたちは人のために生きていくべきなんじゃないかしら。特別な力を持っている以上、どこの誰だか知らない人であっても、その人たちのために。その結果、たとえ敵を殺すことになってしまっても、あたしたちは戦わなければならない"
“でも、それじゃ、僕たちが死んじゃうかもしれないじゃないか"
“そうね。ならば、そうならないように特訓特訓!"
香代のことを考えると涙が出そうになるので、隼人は思い出すのをやめた。断ち切った思考を眼前の景色に投げ捨てるようにして、隼人は高台をおりた。
「おう、隼人君。意外と早かったのう」
一郎邸に帰りつくと、庭先で首払一郎が出迎えた。というか、そこにいた。
「お、おじいさん。何やってんの?」
とりあえず、一郎のことを“おじいさん"と呼ぶことにした隼人が、ビックリした様子で尋ねた。
「何って、腕立て伏せじゃよ。いっしょにやるかね?」
「い、いや、僕は……というか、それ“腕"じゃなくて“指"立て伏せじゃないですか」
おそるべきことに、ランニング姿の一郎は、親指のみを地につけて腕立て伏せをしていた。しかも片手で。昨日の川岸での身のこなしといい、超常能力者の隼人でさえも驚く身体能力である。一郎のほうこそ、只者ではないのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる