73 / 146
第二章 大隅秘湯、夜這い旅? 人気ゴルファーの謎
第25話 モグラ叩き
しおりを挟む『?』
扇風機は立ち止まり、首らしきものをひねった。目の前の“少女"は、巨大なパンチが割った大地の横に立っていた。見事にかわされたのだ。
『きっ、貴様ァ!』
怒った扇風機、二発目を放った。今度はフックだ。
『???』
そして、またも驚いただろう。華奢な“少女"は軽く飛び退いただけで、あっさりとかわしてしまったではないか。
隼人が持つ“D型"の超常能力とは、“驚異的な反射神経"である。それが発動したとき、彼の目には迫りくる対象物の動きがスローモーションに見える。相手の攻撃が当たることはないのだ。
『貴様ァ、どんな“手品"を使いやがった?』
と、扇風機。この能力、相手の目には、まるで瞬間移動をしたかのように見えるらしい。
「その程度か!たいしたことないな」
隼人が挑発した。さらに怒り狂った扇風機の連続攻撃が飛ぶ。
『このッ、このッ、このッ、このッ、当たれ、当たれ、当たれ、当たれェっ!』
と、掛け声は勇ましいが、全部かわされた。隼人の周囲の地面が穴だらけである。見ていられないのだろう。捕らわれの身である緑は、手で顔を覆っていた。
『ちょこまかちょこまか動きやがって!』
もともと僅少な冷静さを完全に失った扇風機の、さらに続く鉄拳の連打連打連打。全く当たらないので穴が増えるだけだった。傍から見ると、まるでモグラ叩きのようである。
『ゼェゼェ……』
美しいモグラを追う扇風機が肩で息をした。見た目的に、どこら辺が肩なのかはわからないが。
「もう終わり?」
と、隼人。さらに煽る。
『るせえええええええッ!!!』
伸びる扇風機のパンチ。これまた少年は、あっさりとかわした。
一見すると簡単に対処しているように見える隼人。だが、実は、苦労がないわけではない。巻きおこる強風のため、体のバランスを維持するのが大変であった。気を抜くと吹き飛ばされ、転倒しそうになる。さらに彼が持つ“D型"の超常能力は、気力体力の消耗が激しい。長引くとむしろ不利なのだ。
(和美さん、敏子さん。急いで……!)
敵に悟られぬよう、余裕の表情を保ちながら隼人は二人の動きを見た。懲りずに飛んでくるパンチはまたも空振りに終わる。だが、いつまでもは続かない。
隼人が囮になっている隙に、和美と敏子はこっそり扇風機の背後にまわっていた。
“奴の弱点は……背中だ"
二人は、天宮久美子からのアドバイスに従ったのである。そして、その通りであった。風が吹いていない。
「どうやら、リーゼント頭くんが風をおこせるのは“前"だけみたいね」
言って和美は扇風機の後ろ姿を見た。どこの家庭にもある扇風機に手足が生えている様は滑稽である。しかも、美少年と“モグラ叩き"の最中だ。
「狙える?」
和美は相棒に訊いた。
「この距離なら、なんとか」
敏子は、ホルスターから38口径を取り出した。それを両手で構え、撃鉄を上げた。彼女の銃の腕は、下手な和美と違い、実戦で使えるレベルである。距離は十メートル強。狙いは扇風機の右脚。ここを撃って動きを止めるつもりだ。隼人を狙う右腕は動いているので当てにくい。緑を抱いている左腕を撃つわけにもいかない。
敏子は引き金を引いた。その軽い感触とともに、リコイルが両腕に響く。銃声と着弾は、ほぼ同時だ。扇風機の右脚に見事、命中した。
「ダメだ……」
敏子が言った。38口径程度の威力ではビクともしない。
「もう一度……!」
さらにダブルアクションで全弾を撃ち尽くし、命中させたが、扇風機の脚にはヒビひとつ入らない。
「トシちゃん、これ」
和美が自分のベレッタを手渡した。受け取った敏子は狙いを定め撃った。当たるには当たるが、やはり効かない。敵は頑丈だった。
「隼人くんの銃なら、なんとかなるかもしれないけど」
と、敏子。彼の銃は44マグナムだ。二人の銃とは威力が全然違う。
そのとき、前方の隼人を狙っていた扇風機の右腕が後ろに飛んできた。リーチの圏外にいる和美と敏子の数メートル前の地面に穴を開けた。距離があったことは幸いである。
「こうなったら“力"を使うしかないわね」
和美が言った。敏子も頷く。いまだにモグラ叩きを続けている扇風機に対し、和美は人差し指を向けた。その先端が青白く光る。
和美が持つ超常能力は“L型"である。それは“帯電能力"であり、自身の体に電気を帯びることができる。そこからさらに“放電"し、遠距離にいる相手を狙撃することが主な戦法となるが、他にも様々な使い方がある能力だ。かつて首払村の“神"に取り憑かれた天宮久美子を倒したときは、近接で触れ、感電させたものである。
和美の人差し指から電撃が放たれた。狙いあやまらず。一直線に伸びた光線は扇風機の右脚にヒットし、そして、そのまま吸い込まれた。
『ハーッハッハッ!馬鹿め、馬鹿め』
笑う扇風機に“異変"がおこった。顔にあたる部分の巨大な羽が、さらに力強くまわり始めたのだ。
『俺様の“好物"をくれるとはなァ……!』
隼人の周囲に吹く風が強風から暴風に変わった。小柄な体が吹き飛びそうになる。
「わっ、わっ、わ……?」
なんとかバランスをとる隼人。状況が悪化した。
「しまった……!」
敏子は気づいた。目の前の巨大な扇風機は、和美の電撃をエネルギーに変えてしまったのである。そういえば、リーゼント頭は鼻にコンセントを突っ込んだり、乾電池を体中にくっつけて喜んでいたと不良たちが言っていたではないか。
「逃げて……逃げてください!」
扇風機の左腕の中で、緑は泣いていた。自分を助けるため、犠牲者が生まれようとしているのだ。
『くたばれや、クソ餓鬼ィ!』
扇風機の右ストレートが放たれた。超常能力を発動させている隼人は飛び退き、それをかわした。だが、彼の体が一瞬、宙に浮いたそのとき、さらに猛烈な暴風が吹いた。
「うわーっ!」
軽量級の隼人の体が煽られ、そして吹き飛んだ。
「隼人くん!」
和美が叫んだ。愛する少年の危機を呼んだのは、彼女自身だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる