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第三章 怪奇、幽霊学習塾! 退魔剣客ふたたび
第23話 攻撃者
しおりを挟む現在、発見されている超常能力は26種類。それらはAからZまでのアルファベットで区分、呼称されている。そのどれもが“気"を源とするが、表面化する効果は、それぞれに異なる。例えば、東郷隼人は驚異的な反射神経を持つ“D型"、河野和美は帯電能力を持つ“L型"というように。
バロンもまた、超常能力者であった。彼が今、発動した力は“B型"に分類される。それは“障壁展開能力"と呼ばれ、物理的な攻撃を妨げることが出来る。剣圧すら通さない。
久美子がそれを見、慌てたということはない。バロンが超常能力実行局に属さない野良の異能者であることは噂に聞き知っていた。突進し、振るわれた右手の大ナイフを後退してかわし、愛刀花切丸を突き入れる。バロンも飛び退いて避けたため、ふたたび両者の距離が離れた。この間合いならば、ナイフによる斬突撃を喰らうことはない。
だが、その後があった。バロンが左手の小ナイフをこちらに向けると、先端が小さな“渦"を巻いた。次の瞬間、直前上に伸び、襲いかかる。
久美子は跳躍した。硬い地面に飛沫が上がる。放出された物は“水"だった。バロンがナイフの先端から、それを生み出し“飛び道具"としたのだ。彼が持つ、もう一つの異能力なのか?
「キャーッハッハ!死んでェェェ!誰か死んで見せてよォォォォォ……!!」
自転車置き場の屋根の下で自慰をしながら高子が叫んだ。ストロング・エンジェルがもたらす快感の真ッ只中なのだろう。ふたりの攻防を楽しみながら、性器をいじっている。いつの間にか服を脱ぎ、白のブラジャーとパンティだけのあられもない姿になっていた。息も凍るほどに気温が低いが、寒さを感じていないのか?体が燃えるほどに熱い快楽を薬物がもたらしているのか?
久美子は誰も住んでいない建物の影に回り込んだ。遠距離でイニシアティブを取りづらい状況である以上、賢明な判断である。奇襲をかけ、倒すという選択肢も生まれるが、応援が来るまで時間を稼いでもよい。
「よく逃げる女だな」
バロンの声がした。
「お前が楽しませてくれないのなら、こっちの女で楽しませてもらうぜ」
久美子は素早く建物を半周し、もう一方の建物の影に回り込んだ。ここは二棟ある団地だ。水たまりを踏むため足音がするが、豪雨の音にかき消され、聴こえはしないだろう。
反対側の建物の端から久美子はそっと顔を出した。自転車置き場まで二十メートルほどある。見ると、バロンが下着姿の高子を強引に立ち上がらせた。
「今、ここでセックスをさせろや」
と、バロン。自転車置き場の前で言った。見せつける気なのか?
「セックスぅー?するわ、超するわァ!」
薬物でテンションが上がっている高子が喜んだ。自分でブラジャーを外した。さほどの大きさの胸ではないが形は良い。乳首が立っていた。
「ひ、ヒィあああーッ!!!」
けったいな高子の嬌声。雨に濡れた胸をバロンに揉まれ、感じていた。
「もっと、もっとォォーーーー!!!」
叫び、高子もバロンの股間をまさぐりはじめた。革パンに覆われたそこは膨張している。勃っていた。
「へへっ、てめぇが隠れて出てこないのが悪ィんだぜぇ……今から、こいつを犯してやンよ」
久美子に聴こえるような大声で、バロンが言った。
「犯して……あたしを……犯してぇぇぇぇーーー!」
と、高子。そのまま革パンのファスナーを開け、手を入れた。バロンの性器を生でいじくるつもりなのだろう。
「もうイキそうだぜ……しゃぶれよ、ほらァ」
バロンは両手で革パンを下ろそうとしている。
「しゃぶらせて、その。デッカイちんちんをしゃぶらせてェェェェェェーッ!!!」
と言い、高子はかがんだ。その口が、いきり立った肉棒で汚されようとしている。仕方なく久美子が出ていこうとしたそのとき、自転車置き場の屋根の上に小さな影が見えた。
(誰だ……?)
予想外の展開に久美子の行動が一瞬、遅れた。なんと、その影は飛び上がり落下すると、バロンの右肩に長い棒状の物を突き立てたのだ。
「ちィッ……!」
舌打ちし、バロンは小柄な攻撃者を蹴ッ飛ばした。
「何モンだ、てめぇ?!」
そして、高子を突き飛ばし、負傷した肩を左手で抑え怒鳴った。大雨で濡れた地面に転がった小さな影の正体。それは東郷隼人だった。彼は右手に持っている傘で攻撃したのだ。
「“小僧"、やってくれるじゃねぇか……」
バロンは左のポケットから小ナイフを取り出した。隼人を狙おうとしたが、久美子が駆け寄って来ていた。
「金は頂いた。この女に用はねぇ」
二対一の不利を悟ったのか。バロンは自転車置き場の柵を長い脚で飛び越えた。
「待て!」
言って隼人は立ち上がった。その肩が引かれた。
「久美子さん……!」
少年が見上げた先に、雨で美しく濡れた久美子の顔がある。
「なんで……なんで止めるの?今なら、あいつを捕まえられるよ!」
振りほどこうとする隼人。だが、肩にかかる力は強かった。
「……なぜ、ここに来た?」
久美子は訊いた。
「久美子さんが、血相変えて出てったから」
「なぜ、こんなことをした……?」
「“こんなこと"って……?」
「一歩間違えれば、君は斬られていたかもしれないのだぞ」
「僕だって戦えるよ」
「馬鹿を言うな。餓鬼の分際で……命を粗末にする気か?」
「命がけで戦うのが男だよ」
その言葉を聞き、反射的に久美子の右手があがった。叩かれると思ったのか。隼人が目を瞑った。
だが、その手が頬を打つことはなかった。目を開けたとき、久美子は抱きしめてくれた。
「……久美子さん?」
「危ないことをするな。二度と……」
「僕は、もう、“友達"を失いたくはないんだ……」
久美子の胸の中、隼人は、ほんの少し震えた。凍えるほどに寒いからだろうか?それとも……
そして、隼人を抱きしめた本当の理由は、彼を温めたいから、ではなかった。
「はひぃ……はひぃ……イク、超イクわぁ……」
いつの間にか全裸になっていた高子が目をヒン剥きながら、いまだ自慰の真っ最中だったのだ。とても子供に見せられる光景ではない。久美子は隼人を胸に抱きながら、“末期"の女に憐憫の瞳を向けた。
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