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第60話「赤騎士爆誕①」

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 そう、あれは皆さんとサロンを襲撃した翌日のことでした。

 私は昼過ぎから自室で色々と考え事をしていた筈なのですが、戦利品のリアン様枕を抱きしめた辺りで意識がトリップしたらしく、気がつくと外は暗くなり始めていました。

 ああ、やはりこの枕は使い過ぎると危険ですわね。

 幸せ過ぎて逝ってしまうところでした。

 ……ではなくて。

 えーと、私は何を考えていたのでしたか……ああ!現状と今後について、でしたね。

 婚約破棄騒動の後、アネットに腹パンしたり、サロンを襲撃したりと慌ただしかったので忘れていましたが、私って今、ニートなのです……。

 そう、ニート。

 就労せず、また就職の為の教育や訓練も受けていない人なのです。

 皆様はこう思われるでしょう。

 そんなことを言ったら貴族の令嬢なんて皆ニートみたいなものじゃないか、と。

 まあ、確かにそう言えなくもないのですが……。

 貴族の令嬢は、将来別の貴族家に嫁いでその家を支えたり、より良い相手と結婚する為に自分を磨く必要があります。

 ですから花嫁修行や婚活、また社交界で顔を売ったりコネ作りをするなどしている貴族令嬢はニートではないと思うのです。

 では、それを踏まえて考えると今の私はどうでしょうか。

 婚約破棄を宣言されて王妃教育は無くなり、正式に婚約が解消されるまでは縁談も無く、そして暫く社交界にも当面顔を出すつもりは無い、と言う状態です。

 貴族令嬢のお仕事たる諸々を何もしていない私はつまり……ニート!

 ああ、なんて嫌な響きなの……。

 まさか公爵令嬢たる私がそんな生産性の無い存在になってしまうとは……。

 ですが、勿論先のことを何も考えていない訳ではありません。

 寧ろ自分なりに最適と思える解を既に導き出しているのです!……が、それにはどうしても時間が掛かるのです。

 恐らく早くても半年から一年、遅ければ五年から十年は掛かるでしょう。

 つまり、私はそれまで嫁ぎ遅れのニートということなのですよ。

 幾ら私でも流石に辛いものがあります。

 でもまあ、あの方の妻になる為ですから私頑張ります!

 と、そんなことを考えていると外から馬車が走ってくる音がして、私は我に返りました。

 恐らくお父様がお帰りになったのでしょう。

 窓を見れば外は既に真っ暗になって月が地平線から顔を出していました。

 おや、これはいけません。

 随分と考え込んでしまっていたようです。

 さて、お父様をお出迎えに行きませんと。

 足早に部屋を出た私は玄関で居並ぶ使用人達と一緒にお父様をお迎えしました。

 馬車を降り、玄関を入って来たお父様は、何だか疲れたような声で帰りを告げました。

「ただいま」

「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」

 使用人達が声を揃えて挨拶し、

「お帰りなさいませ、お父様」

 続いて私が挨拶しました。

「ああ、ただいまセシル。今日も金色のドリルが決まってるね」

 するとお父様はそんな訳の分からない言葉を私に返してきました。

 喧嘩売ってるのかしら?……ではなくて、どうかされたのでしょうか?

 と、お顔をよく見ればお父様はとてもお疲れ様のご様子でした。

「お父様、とてもお疲れのご様子ですが、どうかされました?」

「ああ、わかるのかい?実は少しトラブルで仕事が進まなくてね」

 するとお父様は弱々しくイケメンスマイルを浮かべながら答えて下さいました。
 
「まあ、それはいけませんね。一体何が?」

 私、気になります。

「うん、それが……昨日から私とセシルに謝罪をしたいという貴族が大量に押しかけて来て仕事にならなかったんだよ」

「……」

 おっと、これは……。

「だから帰宅がこんな時間になってしまったんだ。私はさっぱり訳がわからないんだけど、セシルは何か知ってるかな?」

「い、いいえ、何も……」

 ええ、知りませんとも。

 シバかれるようなことをした彼女達が悪いのです。

「そうか。あ、そう言えばもう一つあってね」

「はい」

 おや、他にも事件が?それは本当に私は知らな……

「セシルにとっては少しショックな話かもしれないが、実は……昨日何者かにマクシミリアン殿下の私室が襲撃されたんだ」

 どうしましょう、少々心当たりが……。

「え、えーと、それで?」

 私は取り敢えず先を促します。

「ああ、警備の一個分隊が壊滅し、全員意識不明だ。ただ、うわごとで貧乳、厚化粧などと……」

「あ゛あ゛ん?」

 あの連中、折角生かしてあげたのに……。

「ひぃ!どうしたセシル!?」

 あ、お父様を驚かせてしまいました。

「あ、いえ何でもございませんわ」

 これは後で衛兵さん達のところへ口封じ……いえ、口止めの為にお見舞いに行かないといけませんね。

「そうか、と、兎に角そのことを受けてシャルルの奴が殿下の護衛を増やすと言い出してね……全く、暗部だけで十分だろうに、過保護な奴だよ」

 やれやれ、という感じでお父様が肩を竦めました。

 おや?これはもしかして……。

「ほほう、それで?」

「私がその護衛の人選を任されてしまったんだ。あの野郎、こっちは忙しいのに」

 お父様は親バカなシャルル陛下に悪態をつきました。

 ですが……良いことを思いつきました!

 これは良いです!チャンスです!

 あと、シャルル陛下ナイスです!

 私は逸る気持ちを抑えつつ、話を慎重に進めます。

「護衛ですか……それで誰にするおつもりですか?」

「ああ、取り敢えずウチの騎士団と精鋭の近衛歩兵連隊から選ぶつもりだよ」

「お父様!ダメです!そんな連中は殿下に相応しくありません!」

 私は余りに酷い候補に思わず叫んでしまいました。

 まあ、誰が候補でも反対はしますが。

「ど、どうしたセシル!?」

「ウチの騎士団は兎も角、近衛歩兵などいけません!あんな弱い連中私なら指先一つで倒せます」

 そう、あの人達弱いんです。

 連中では殿下を守れません。

「いや、そんなことが出来るのはセシルだけ……」

「何か?」

「いや、何でもない……。しかし、困ったな。それでは一体誰がいいのかな……」

 と、改めてお父様が考え始めようとしたその時、私はここぞとばかりに言いました。

「私がやります!」

「!?」

 お父様は驚いて声も出ないようです。

「私がリアン様の護衛に着きます。強さも家柄も問題は全て解決です」

 そう、いい考えとはこれです。

 私がリアン様の護衛になればいいのです!

 そうすれば合法的にずっと一緒にいられますし……あんな事やこんな事も……ぐふふ、ああ!考えただけでテンション上がってきました!

 それに、私これでニートからも脱出できます!

 つまり、一石二鳥なのです!
 
「い、いや。確かにそうだが……流石に今セシルを殿下の側に置く訳には……」

 余りに意外な提案に驚いたお父様は、何とか反論を試みましたが残念、そんなものは想定済みです。

「そんなもの仮面でも何でも被ればきっと誰かなんて分かりませんし、大丈夫ですよ」

 ええ、きっと大丈夫。

「そ、そうかな?」

「そうですよ!」

 取り敢えず押していきます。

「で、でも、危ないし、シャルルにも話をしないといけないし……」

 全く、陛下を引き合いに出して逃げるとは卑怯な。

 ですが。

「ですが、お父様なら強引にでも話を通せますわよねぇ?」

 私はニッコリと微笑みながらそう問いかけました。

「え?まあ、出来なくは……」

「やって下さい」

「ええ……」

「やって」

「うぅ……」

「やれ」

「……はい」

 良かった、お父様は私の真摯なお願いを快く聞いてくれました!

「ありがとうございます!お父様!大好きです!」

 あら、折角可愛い一人娘が笑顔で大好き!とか言ってあげたのに、何故お父様は微妙な顔をしているのでしょうか?

「……だが、限界はあるからね?シャルルがダメだと言ったらダメだからね?奴はセシルのことを実の娘のように大事に思っているから危ないことは拒否するかもしれない」

 まあ、確かにそれはありそうな展開ですね……だったら。

「確かにそうですわね……そうだわ!お父様、明日私も陛下の元へお連れ下さいませ!」

「ええ!?」

「私が自分で説き伏せてみせますから!」
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