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第86話「少女の皮を被った化け物⑤」
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「ぐっ!揃いも揃って私を馬鹿にしやがって!」
激昂したフィリップは、それなりに美しい顔を真っ赤に染め、凄まじい形相で喚いた。
だが、マリーとアネットの二人はまるでそんなことを気にせず、余裕たっぷりの態度で、バカにしたような目で彼を見ていた。
当然、そんな彼女達の態度を許せないフィリップは、遂になりふり構わず手下を呼ぶことに決めた。
「おのれ、下賤な輩の分際で私を愚弄するとは!目にモノ見せてやる!であえ!であえ!」
そしてフィリップの叫びに呼応し、二十人程の衛兵がドカドカと部屋に入ってきて、たちまちマリー達を取り囲んだ。
「全く、騒々しいですわね。結局、貴方は一人では何も出来ないのですね」
しかし、それでもマリーは余裕の態度を崩さない。
そればかりか、彼女は平然とフィリップに嫌味をぶつけている。
が、アネットはそれとは対照的に大慌てだった。
「ちょ、ちょっと、どうすんの!流石にこれはヤバいわよ王女様!」
パニックになったアネットが、マリーに抱きついてゆさゆさと揺すっている。
そんなアネットの反応を見たフィリップは、満足そうにニヤリと笑い、そして徐々に余裕と落ち着きを取り戻していった。
「ハッハッハ!どうだ?恐ろしいか?結局、どんな手段を使っても最終的に勝てばいいのだ!勝てばな!」
それを聞いたアネットは更に焦って頭を抱えた。
「ああ!どうしよう!調子に乗りすぎたかも……このままだと捕まって、薄い本みたいな展開になっちゃうわ!」
しかし、右往左往するアネットを尻目に、マリーは尚も余裕の表情を崩さずに言った。
「まあまあ、落ち着きなさいなアネット。大丈夫ですから」
「ああああ!どうしよう……って、この状況でどうすんのよ!」
そこでアネットは縋るようにマリーに問うた。
「こうするのです!」
するとマリーは、スーッと息を吸い込み、そして大声で叫んだ。
「リゼット!いるのでしょう?私達を助けなさい!」
「え?あ、そういえばリゼットって……」
それを聞いたアネットは、リゼットが応援でも呼んできてくれたのかしら?と、思ったのだが……。
それからほぼ間を置かず、開いた扉の方から、
「はぁ~い、かしこまりましたぁ~」
と、間延びした緊張感のない聞き慣れた声がして、同時に入口付近の衛兵が数人倒れた。
「「「え!?」」」
マリー以外の全員が突然の事態に驚愕し、固まった。
そこには先程、連行されていった筈のホルスタインもとい、リゼットが一切の感情を感じさせない表情で立っていた。
しかも血塗れのナイフを手に持って。
「え?リゼット!?でも、何か雰囲気が違うような……」
「「「な!なんだあのメイドは!?」」」
そして、それを見たマリーを除く全員が困惑した。
「何奴!?くっ……だが、多少戦えると言っても、メイド一人増えたところで何ができる!?」
と、フィリップは無理矢理自らを安心させるようにそう言ったが、次の瞬間、いきなりリゼットがスカートを跳ね上げた。
勿論、リゼットが痴女という訳ではなく、太腿には大量に巻き付けた細身の投擲用ナイフがあった。
そして、彼女は素早くそれらを両手の指の間に挟み込むようにして持つと、恐ろしい早さで投擲し、瞬時に衛兵六人を絶命させた。
まさに、プロの仕事である。
「あら、配下が半分ぐらいになってしまいましたが、大丈夫ですか兄上~?」
それを見ていたマリーがニヤリとしながら、煽るようにフィリップに言った。
「くっ!バカな!?だが、勝負はこれからだ!もっと応援を呼んでこい!そして物量でおせ!全員で一気に襲い掛かって、数であのメイドを押し潰すのだ!」
そこで意外にも彼は、的確な判断をしてそう命じた。
因みに、実はその時彼は一見トロそうな巨乳メイドに、得体の知れない恐怖を覚えて膝がガクガクしていた。
しかし、そこはフィリップも一応は王族、恐怖に負けそうになりながらも懸命にそれを抑え、可能な限り現実的で確実な方法を考えて手下に命令を出したのだ。
まあ、一番マシと言うだけで、勝てる訳ではないのだが……。
因みにその横でリゼットの凄まじい強さを見ていたマリー達は……、
「アネット今の見ましたか!?黒よ、黒!」
「ええ、バッチリ見たわ!リゼットのやつ、意外と大人ね!」
非常に下らないことを話していた。
リゼットは折角、クールに登場したのに、二人の所為で早々にそれが台無しになってしまった。
「ちょ、お二人ともぉ!?私頑張ってるのに酷いですぅ!」
空気を読まない二人の会話が聞こえたリゼットは悲鳴を上げ、そして敵を斬り捨てながら涙目で抗議したのだった。
閑話休題。
そんな緊張感の無いやり取りを横目に、フィリップは攻撃命令を出した。
「私がマリーを、モブ男共はビッチをやれ!残りはあのメイドを倒すのだ!かかれ!」
それに対してマリーは呆れたような顔で呟いた。
「ほう、いい度胸です。折角、平和的に話し合いで解決してあげようと思いましたのに……本当にバカな男」
そして、マリーも二人に戦闘開始を告げる。
「さあ、行くわよ!リゼット、アネット、懲らしめてやりなさい!」
「はっ!」
それにリゼットはクールに応じ、
「ふざけんな!誰がビッチよ!激安ナルシスト王子!……ってアタシも戦うの!?」
フィリップにやじを飛ばしていたアネットは突然のことに目を剥いて慌てた。
そして、フィリップ一味とマリー達三人の仁義無き戦いが始まったのだった。
フィリップは自ら宣言した通り、マリーを痛い目に遭わせる為、彼女のところへやって来た。
だが、勇んでやってきたところで彼はマリーの強烈な先制口撃を受けてしまう。
「来ないで下さい!このロリコン!気持ち悪いです!」
「うるさい!誰がロリコンだ!」
「貴方ですよ?他に誰がいるというのですか?確かに私は美少女ですが、十三歳の私の身体を求めるなど、ロリコンでなくて何だというのですぅ?」
マリーはわざと嫌味ったらしい顔でフィリップを挑発した。
「くっ………ぐぬぬ……はっ!」
フィリップはマリーの言葉に、すぐに言い返せず歯噛みしてしまったが、そこで彼はあることに気付いた。
「おい、ちょっと待て!だったらマクシミアンの奴はどうなるのだ!アイツはお前より五歳も年上ではないか!」
そして、意外にもまともなツッコミを入れた。
「黙りなさいロリコン王子!ふん!リアンお義兄様はいいのです!愛が有れば全てが許されるのです!」
「はあ!?なんだとぉ!?」
「というか、私から好きになったのだから問題無いのです!」
マリーはドヤ顔でそう言った。
「はあ!?では、もしアイツが先お前を好きになっていたらどうしたのだ?そうしたらアイツもロリコンではないのか?」
そこで彼は割とまともな疑問をマリーにぶつけたが……。
「勿論、オッケーです!無問題です!当然その瞬間に全てを捧げますよ!」
対してマリーはまるで、息をするのと同じぐらいに当たり前のことだ、とでも言いたげに胸張ってそう答えた。
「……」
流石のフィリップも、これには呆れて言葉が出ない。
「重ねて言いますが、愛が有れば全て許されるのですよ!……というのは冗談ですが、単純に人としての価値や魅力が違うのですよ。貴方とあの人では……ね」
マリーは殊更皮肉げな表情でそう言い放った。
つくづく、彼女はフィリップに対してどこまでも容赦が無い。
「くっ!ふざけやがって!この生意気なガキめ!痛めつけた後、直接身体でわからせてやる!」
「誰がガキですかコラァ!産廃の癖に!それに私に向かって身体で分からせる?この腐れロリコン!」
「黙れ!すぐにそんなセリフ言えなくしてやるからな!」
そして、遂にフィリップがマリーに手を伸ばそうとした、その時。
マリーは、すっと体勢を低くし、呼吸を整え、構えを取ると……、
「はぁっ!!!」
次の瞬間、強力な掌底をフィリップの鳩尾に叩き込んだ。
「ぐはぁ!」
彼は予想外のことに全く反応出来ず、モロにそれを喰らい、呻き声と共に崩れ落ちた。
そして、それを見下ろしながら彼女は冷たく言った。
「全く、私を子供だと侮るからですよ。ブルゴーニュ流体術師範代の私を」
「ぐぅ……ハァハァ、は、はあ!?し、師範代!?」
いきなり出てきたその単語に、フィリップは目を剥いた。
「一体いつから暴力はシロクマの専売特許だと錯覚していたのです?」
「!?……は?シロクマ?」
「さあ、一緒に遊びましょうか?兄上♪」
マリーはそう告げると、ニタァっと恐ろしい笑みを浮かべたのだった。
「ば、化け物め!く、来るな!来るなぁ!……うあああああああああああ!」
激昂したフィリップは、それなりに美しい顔を真っ赤に染め、凄まじい形相で喚いた。
だが、マリーとアネットの二人はまるでそんなことを気にせず、余裕たっぷりの態度で、バカにしたような目で彼を見ていた。
当然、そんな彼女達の態度を許せないフィリップは、遂になりふり構わず手下を呼ぶことに決めた。
「おのれ、下賤な輩の分際で私を愚弄するとは!目にモノ見せてやる!であえ!であえ!」
そしてフィリップの叫びに呼応し、二十人程の衛兵がドカドカと部屋に入ってきて、たちまちマリー達を取り囲んだ。
「全く、騒々しいですわね。結局、貴方は一人では何も出来ないのですね」
しかし、それでもマリーは余裕の態度を崩さない。
そればかりか、彼女は平然とフィリップに嫌味をぶつけている。
が、アネットはそれとは対照的に大慌てだった。
「ちょ、ちょっと、どうすんの!流石にこれはヤバいわよ王女様!」
パニックになったアネットが、マリーに抱きついてゆさゆさと揺すっている。
そんなアネットの反応を見たフィリップは、満足そうにニヤリと笑い、そして徐々に余裕と落ち着きを取り戻していった。
「ハッハッハ!どうだ?恐ろしいか?結局、どんな手段を使っても最終的に勝てばいいのだ!勝てばな!」
それを聞いたアネットは更に焦って頭を抱えた。
「ああ!どうしよう!調子に乗りすぎたかも……このままだと捕まって、薄い本みたいな展開になっちゃうわ!」
しかし、右往左往するアネットを尻目に、マリーは尚も余裕の表情を崩さずに言った。
「まあまあ、落ち着きなさいなアネット。大丈夫ですから」
「ああああ!どうしよう……って、この状況でどうすんのよ!」
そこでアネットは縋るようにマリーに問うた。
「こうするのです!」
するとマリーは、スーッと息を吸い込み、そして大声で叫んだ。
「リゼット!いるのでしょう?私達を助けなさい!」
「え?あ、そういえばリゼットって……」
それを聞いたアネットは、リゼットが応援でも呼んできてくれたのかしら?と、思ったのだが……。
それからほぼ間を置かず、開いた扉の方から、
「はぁ~い、かしこまりましたぁ~」
と、間延びした緊張感のない聞き慣れた声がして、同時に入口付近の衛兵が数人倒れた。
「「「え!?」」」
マリー以外の全員が突然の事態に驚愕し、固まった。
そこには先程、連行されていった筈のホルスタインもとい、リゼットが一切の感情を感じさせない表情で立っていた。
しかも血塗れのナイフを手に持って。
「え?リゼット!?でも、何か雰囲気が違うような……」
「「「な!なんだあのメイドは!?」」」
そして、それを見たマリーを除く全員が困惑した。
「何奴!?くっ……だが、多少戦えると言っても、メイド一人増えたところで何ができる!?」
と、フィリップは無理矢理自らを安心させるようにそう言ったが、次の瞬間、いきなりリゼットがスカートを跳ね上げた。
勿論、リゼットが痴女という訳ではなく、太腿には大量に巻き付けた細身の投擲用ナイフがあった。
そして、彼女は素早くそれらを両手の指の間に挟み込むようにして持つと、恐ろしい早さで投擲し、瞬時に衛兵六人を絶命させた。
まさに、プロの仕事である。
「あら、配下が半分ぐらいになってしまいましたが、大丈夫ですか兄上~?」
それを見ていたマリーがニヤリとしながら、煽るようにフィリップに言った。
「くっ!バカな!?だが、勝負はこれからだ!もっと応援を呼んでこい!そして物量でおせ!全員で一気に襲い掛かって、数であのメイドを押し潰すのだ!」
そこで意外にも彼は、的確な判断をしてそう命じた。
因みに、実はその時彼は一見トロそうな巨乳メイドに、得体の知れない恐怖を覚えて膝がガクガクしていた。
しかし、そこはフィリップも一応は王族、恐怖に負けそうになりながらも懸命にそれを抑え、可能な限り現実的で確実な方法を考えて手下に命令を出したのだ。
まあ、一番マシと言うだけで、勝てる訳ではないのだが……。
因みにその横でリゼットの凄まじい強さを見ていたマリー達は……、
「アネット今の見ましたか!?黒よ、黒!」
「ええ、バッチリ見たわ!リゼットのやつ、意外と大人ね!」
非常に下らないことを話していた。
リゼットは折角、クールに登場したのに、二人の所為で早々にそれが台無しになってしまった。
「ちょ、お二人ともぉ!?私頑張ってるのに酷いですぅ!」
空気を読まない二人の会話が聞こえたリゼットは悲鳴を上げ、そして敵を斬り捨てながら涙目で抗議したのだった。
閑話休題。
そんな緊張感の無いやり取りを横目に、フィリップは攻撃命令を出した。
「私がマリーを、モブ男共はビッチをやれ!残りはあのメイドを倒すのだ!かかれ!」
それに対してマリーは呆れたような顔で呟いた。
「ほう、いい度胸です。折角、平和的に話し合いで解決してあげようと思いましたのに……本当にバカな男」
そして、マリーも二人に戦闘開始を告げる。
「さあ、行くわよ!リゼット、アネット、懲らしめてやりなさい!」
「はっ!」
それにリゼットはクールに応じ、
「ふざけんな!誰がビッチよ!激安ナルシスト王子!……ってアタシも戦うの!?」
フィリップにやじを飛ばしていたアネットは突然のことに目を剥いて慌てた。
そして、フィリップ一味とマリー達三人の仁義無き戦いが始まったのだった。
フィリップは自ら宣言した通り、マリーを痛い目に遭わせる為、彼女のところへやって来た。
だが、勇んでやってきたところで彼はマリーの強烈な先制口撃を受けてしまう。
「来ないで下さい!このロリコン!気持ち悪いです!」
「うるさい!誰がロリコンだ!」
「貴方ですよ?他に誰がいるというのですか?確かに私は美少女ですが、十三歳の私の身体を求めるなど、ロリコンでなくて何だというのですぅ?」
マリーはわざと嫌味ったらしい顔でフィリップを挑発した。
「くっ………ぐぬぬ……はっ!」
フィリップはマリーの言葉に、すぐに言い返せず歯噛みしてしまったが、そこで彼はあることに気付いた。
「おい、ちょっと待て!だったらマクシミアンの奴はどうなるのだ!アイツはお前より五歳も年上ではないか!」
そして、意外にもまともなツッコミを入れた。
「黙りなさいロリコン王子!ふん!リアンお義兄様はいいのです!愛が有れば全てが許されるのです!」
「はあ!?なんだとぉ!?」
「というか、私から好きになったのだから問題無いのです!」
マリーはドヤ顔でそう言った。
「はあ!?では、もしアイツが先お前を好きになっていたらどうしたのだ?そうしたらアイツもロリコンではないのか?」
そこで彼は割とまともな疑問をマリーにぶつけたが……。
「勿論、オッケーです!無問題です!当然その瞬間に全てを捧げますよ!」
対してマリーはまるで、息をするのと同じぐらいに当たり前のことだ、とでも言いたげに胸張ってそう答えた。
「……」
流石のフィリップも、これには呆れて言葉が出ない。
「重ねて言いますが、愛が有れば全て許されるのですよ!……というのは冗談ですが、単純に人としての価値や魅力が違うのですよ。貴方とあの人では……ね」
マリーは殊更皮肉げな表情でそう言い放った。
つくづく、彼女はフィリップに対してどこまでも容赦が無い。
「くっ!ふざけやがって!この生意気なガキめ!痛めつけた後、直接身体でわからせてやる!」
「誰がガキですかコラァ!産廃の癖に!それに私に向かって身体で分からせる?この腐れロリコン!」
「黙れ!すぐにそんなセリフ言えなくしてやるからな!」
そして、遂にフィリップがマリーに手を伸ばそうとした、その時。
マリーは、すっと体勢を低くし、呼吸を整え、構えを取ると……、
「はぁっ!!!」
次の瞬間、強力な掌底をフィリップの鳩尾に叩き込んだ。
「ぐはぁ!」
彼は予想外のことに全く反応出来ず、モロにそれを喰らい、呻き声と共に崩れ落ちた。
そして、それを見下ろしながら彼女は冷たく言った。
「全く、私を子供だと侮るからですよ。ブルゴーニュ流体術師範代の私を」
「ぐぅ……ハァハァ、は、はあ!?し、師範代!?」
いきなり出てきたその単語に、フィリップは目を剥いた。
「一体いつから暴力はシロクマの専売特許だと錯覚していたのです?」
「!?……は?シロクマ?」
「さあ、一緒に遊びましょうか?兄上♪」
マリーはそう告げると、ニタァっと恐ろしい笑みを浮かべたのだった。
「ば、化け物め!く、来るな!来るなぁ!……うあああああああああああ!」
応援ありがとうございます!
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