オネェ男子と、みがけ女子力!

黒いたち

文字の大きさ
3 / 7

LESSON*3 水曜日

しおりを挟む
「きょーちゃん! 来てくれてうれしいわ!」
「こんにちは、オーナー」

 水曜日の放課後。
 連れていかれたのは、市街地の靴屋だった。
 黒を基調にした店内は、おちついた大人の空間だ。

 そしてまた、オネェ友達――もとい、靴屋のオーナーを紹介される。
 私たちより少し年上の、中性的な顔立ちの男性だ。

「スェードブラックのアーモンドトゥパンプス。あるかしら?」

 恭介が、なにかの呪文を唱える。オネェ用語か?

「あらすごい。昨日、入荷したばかりよ」 

 通じている。さすが、オネェ。

 このオーナー、ずっと聞いていたくなるほど、超絶ちょうぜつにいい声をしている。
 奇跡のイケボが、オネェとは。
 なんだかとっても残念だ。

「サイズのご指定は?」
「Mのローヒール。あの子、どんくさいから」
「りょうかい。持ってくるから、そこに座って待っていて」

 オーナーが、奥に消える。
 店内に置かれたソファーに、恭介と座る。

「アリサ。あんた、足のサイズは?」
「24.5cmだよ」
「……おもったより、でかいわね」

 怪訝けげんそうな顔をした恭介が、私の足に視線を落とす。

「ちょっと見せなさい」

 言うが早いか、恭介が私の靴をスポンと脱がせた。

「恭介!?」

 しゃがみこみ、私の足を確かめるように触る。
 え、まって。
 なんかすごく、恥ずかしいんだけど。
 一日歩いた足だし、くさかったらどうしよう。

「幅広で、こうが高い。足自体は、24cmも無いわね」
「あ、うん。はいる靴ってなったら、サイズを上げるしかなくて」
「そこは妥協だきょうしないで、合う靴を探しなさいよ」

 恭介があきれる。
 
「ほら、変なとこがれてるじゃない」

 足の親指を撫でられ、ビクリと肩がゆれる。
 足を引くが、恭介にがっちりつかまれていて、かなわない。

「恭介! くすぐっ……ははっ、あははは!」

 こらえきれずに、声を上げて笑う。

「お取込み中、失礼するわ。はい、彼女の靴」

 オーナーが、にこにこと笑いながら立っていた。

「ありがとう」

 なぜか恭介が受け取る。
 箱から靴を出して、また私の前にしゃがみこんだ。

「自分で履くよ!?」
「うるさい」
「……はい」

 するどく一睨ひとにらみされ、私は口を閉じる。
 恭介に靴を履かせてもらうあいだ、オーナーが微笑ほほえましそうにこっちを見ていた。
 なんというか、とっても、はずかしい。

「サイズは良さそうね。アリサ、少し歩いてみて」
「うん」

 ヒールに慣れてないから、ぎこちなくなる。
 それを見て、恭介がため息をついた。

「店長、このままいて帰るわ。練習させなきゃ」
「じゃあ、履いてきた靴を袋に入れておくわね」
「助かるわ、ありがとう」

 オーナーが、履き古しの靴をキレイなショップの袋に入れてくれる。
 なんだか、もうしわけない。
 それを当然のように受け取ったのは、恭介だった。

「アリサ、手」
「て?」

 差し出された手におて・・をすると、恭介がそれをつかんで眉をよせた。

「あんたの爪、きったないわね! 明日、ネイルサロンに行くわよ」

 そういうと、手をつながれる。

「ローヒールのくせに、ふらふらね。しかたないから、支えてあげる」
「だって、ふだんヒールなんて履かないし」
「知ってる。オーナー、ありがとう。またね」
「はーい! きょーちゃんの彼女も、またね」

 ん? いま、恭介の彼女って言った?

 首をひねるあいだに、恭介に手を引かれて店をあとにした。

「否定しなくてよかったの?」
「なにが?」

 改めて問われると、口にするのがためらわれる。
 
「……なんでもない」
「そうね。あんたはヒール靴に慣れることだけを考えなさい」
「……はい」

 私の歩幅に合わせて、恭介はゆっくりと歩く。 
 二日連続でつながれた手から、恭介の優しさが伝わってくるようだ。 

「送ってあげるんだから、コーヒーぐらい入れなさいよ」
「はーい」
「まったく、世話の焼ける」

 そう言いながら、彼はどこか楽しそうな笑みを浮かべていた。
 その笑顔と、つないだ手のあたたかさは、家がもっと遠ければいいのに、と思うほどだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...