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LESSON*4 木曜日
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「アリサ、あんたいつまで待たせるのよ」
木曜日。
放課後の教室に、黄色い声が上がる。
恭介様のご登場に、うちのクラスの女子がさざめいた。
「今日は日直だって言ったよね」
「数行の日誌に、何時間かけるつもりよ」
「もう、監視しないで! 気が散るから」
存在が派手な恭介に居座られると、こちらの居心地がわるくてしょうがない。
女子にはヒソヒソされるし。
男子には遠巻きにされるし。
現に、同じ日直の秋山くんも、居心地が悪そうだ。
「菅原、あとは俺がやっとくから」
「あら、いい心がけね」
「恭介! あの、秋山くん。さすがに、そういうわけには」
「あとここだけ書いて、提出するだけだし」
その笑顔が、どこかひきつっている。
たぶん、恭介にさっさとどこかに行ってほしいんだと思う。
「じゃあ、おねがいしてもいい?」
「もちろん!」
「ありがとう。こんど何か、お礼するね?」
手を合わせてうかがうように見ると、秋山くんが上気した顔でうなずく。
きっと、恭介が居なくなるから、嬉しいんだろう。
「行くわよアリサ!」
「ちょっと、ひっぱらないでよー」
腕をつかまれ、ひきずられるように連れていかれる。
教室を出る瞬間、振り返って、秋山くんにバイバイと手を振った。
「菅原、かわいくなったよな」
秋山くんの独り言と、クラスの男子がうなずいていたことなんて、その時のわたしには知る由も無かった。
着いたのは、うちの近所のビルだった。
いままで気付かなかったが、一階の扉に、英語で店名が書いてある。
どこかひっそりとたたずむ扉は、隠れ家の入り口のようだ。
「こんにちは、ユキさん」
「恭介! いらっしゃい」
中に入ると、おもったよりまぶしくて、目を瞬かせる。
出迎えてくれたのは、髪をキレイに巻いた、美女だった。
二十代前半くらいの女性で、すらっとして、背が高い。
いわゆる、モデル体型というやつだ。
うらやましい。
店内に通されて、ユキさんと向いあわせで座る。
紺色の一人用ソファーはふかふかで、座り心地がいい。
恭介がユキさんの隣に立ち、私の爪を見ながら、顔を寄せて相談している。
なんか、近くない……?
「小ぶりでかわいい爪だから、カラージェルはベビーピンクでどうかしら」
「そうね。ミルクホワイトフラワーと、パールをつけて」
「ひとさし指だけ、ラメにしましょう」
「いいわね。全体の形は、ショートラウンドでおねがい」
「まかせて」
ユキさんは私を見て、親しみやすい笑顔を浮かべた。
「腕が疲れたら、遠慮なく言ってね。いつでも休憩できるから」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃ、はじめるわね」
彼女はとても話やすいうえに聞き上手で、長時間の施術でも退屈しなかった。
その間、恭介は離れたソファーで、ゆったりとコーヒーを飲み、雑誌を読んでいた。
はじめてのジェルネイルは、とてもかわいくて、気分が上がる。
「みて、恭介! すごいかわいい!」
「そうね。よかったじゃない」
「ユキさん、ありがとうございました!」
彼女にお礼を言うと、麗しい笑顔が返ってきた。
美女の微笑みに、おもわず見惚れてしまった。
恭介が、今日もうちに寄ってコーヒーを飲んでいくと言うので、ならんで歩く。
隣の恭介をちらりと見上げ、迷いながら口を開く。
「……ユキさんって、キレイな人だね」
「ま、半分は、メイクのおかげね」
あっさり返され、なぜかホッとした。
「あんたそういえば、いつもノーメイクね」
「友達と遊ぶときしかしないから」
「はあ。明日はメイク指導ね」
「よろしくおねがいします」
素直に頭を下げる。
それから、ちょっと思ったことを付け加えた。
「でも、ユキさんは、すっぴんでもキレイだと思うな」
「そうね。そう見えたなら、喜ぶと思うわ」
ん? どういうこと?
疑問が顔に出ていたのか、恭介が、ああ、と続けた。
「あの人、元男だから」
木曜日。
放課後の教室に、黄色い声が上がる。
恭介様のご登場に、うちのクラスの女子がさざめいた。
「今日は日直だって言ったよね」
「数行の日誌に、何時間かけるつもりよ」
「もう、監視しないで! 気が散るから」
存在が派手な恭介に居座られると、こちらの居心地がわるくてしょうがない。
女子にはヒソヒソされるし。
男子には遠巻きにされるし。
現に、同じ日直の秋山くんも、居心地が悪そうだ。
「菅原、あとは俺がやっとくから」
「あら、いい心がけね」
「恭介! あの、秋山くん。さすがに、そういうわけには」
「あとここだけ書いて、提出するだけだし」
その笑顔が、どこかひきつっている。
たぶん、恭介にさっさとどこかに行ってほしいんだと思う。
「じゃあ、おねがいしてもいい?」
「もちろん!」
「ありがとう。こんど何か、お礼するね?」
手を合わせてうかがうように見ると、秋山くんが上気した顔でうなずく。
きっと、恭介が居なくなるから、嬉しいんだろう。
「行くわよアリサ!」
「ちょっと、ひっぱらないでよー」
腕をつかまれ、ひきずられるように連れていかれる。
教室を出る瞬間、振り返って、秋山くんにバイバイと手を振った。
「菅原、かわいくなったよな」
秋山くんの独り言と、クラスの男子がうなずいていたことなんて、その時のわたしには知る由も無かった。
着いたのは、うちの近所のビルだった。
いままで気付かなかったが、一階の扉に、英語で店名が書いてある。
どこかひっそりとたたずむ扉は、隠れ家の入り口のようだ。
「こんにちは、ユキさん」
「恭介! いらっしゃい」
中に入ると、おもったよりまぶしくて、目を瞬かせる。
出迎えてくれたのは、髪をキレイに巻いた、美女だった。
二十代前半くらいの女性で、すらっとして、背が高い。
いわゆる、モデル体型というやつだ。
うらやましい。
店内に通されて、ユキさんと向いあわせで座る。
紺色の一人用ソファーはふかふかで、座り心地がいい。
恭介がユキさんの隣に立ち、私の爪を見ながら、顔を寄せて相談している。
なんか、近くない……?
「小ぶりでかわいい爪だから、カラージェルはベビーピンクでどうかしら」
「そうね。ミルクホワイトフラワーと、パールをつけて」
「ひとさし指だけ、ラメにしましょう」
「いいわね。全体の形は、ショートラウンドでおねがい」
「まかせて」
ユキさんは私を見て、親しみやすい笑顔を浮かべた。
「腕が疲れたら、遠慮なく言ってね。いつでも休憩できるから」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃ、はじめるわね」
彼女はとても話やすいうえに聞き上手で、長時間の施術でも退屈しなかった。
その間、恭介は離れたソファーで、ゆったりとコーヒーを飲み、雑誌を読んでいた。
はじめてのジェルネイルは、とてもかわいくて、気分が上がる。
「みて、恭介! すごいかわいい!」
「そうね。よかったじゃない」
「ユキさん、ありがとうございました!」
彼女にお礼を言うと、麗しい笑顔が返ってきた。
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恭介が、今日もうちに寄ってコーヒーを飲んでいくと言うので、ならんで歩く。
隣の恭介をちらりと見上げ、迷いながら口を開く。
「……ユキさんって、キレイな人だね」
「ま、半分は、メイクのおかげね」
あっさり返され、なぜかホッとした。
「あんたそういえば、いつもノーメイクね」
「友達と遊ぶときしかしないから」
「はあ。明日はメイク指導ね」
「よろしくおねがいします」
素直に頭を下げる。
それから、ちょっと思ったことを付け加えた。
「でも、ユキさんは、すっぴんでもキレイだと思うな」
「そうね。そう見えたなら、喜ぶと思うわ」
ん? どういうこと?
疑問が顔に出ていたのか、恭介が、ああ、と続けた。
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