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31. スマホ
しおりを挟む続けて望は赤いトランクの中身を確認する。
このトランクの中身だけが、今は彼女の持ち物だ。
「え~っと、化粧ポーチの中身の確認してと・・・これだけか~・・・使ってもトランクに戻せば元通りになればいいのに。あ、そういう魔法を掛ければいいんだわ」
――常識外れの魔法が使えるのだから、そんな魔法を使えてもいいんじゃない?
「ストールにカーディガン、ミニタオルとそれから・・・スマホ?」
昨日の晩、埴輪ちゃんの記録画像を見る為に使ったミニプロジェクターもスマホも充電出来なければ近い将来使えなくなるだろう。
「当然圏外よね~・・・」
期待はせずに画面を覗くと、
「え?」
アンテナが立ってる? 何故?
「・・・電話が繋がるって事かしら?」
恐る恐る、ラインを開くが画面は真っ白だった。
「そう上手く行くわけ無いか~・・・」
ついでに電話帳のアプリを立ち上げるとソッチはちゃんと画像が現れる。
「電話は使えたりして? まっさか~」
試しに『母』の電話マークを押してみる。
『プルルル プルルル・・・』
「えっ! 繋がるって事ッ?!」
『モシモシッ!? 望なの?!』
「え、お母さん?!」
『アンタどこにいたのッ!!』
電話から聞こえた声は間違いなく母の声だった・・・
×××
「信じられないかも知れないけどさ~」
『異世界ねえ~・・・寝ぼけてんじゃない?』
「いや、ちゃんと起きてるよ。こっちは朝だけど日本は何時よ?」
『今は夕方よ。もうすぐ7時だから。そろそろ勇さんも帰ってくるわ』
「あー。お義父さんは仕事行ったの?」
『空港よ』
「なんでさ?」
『望の乗った飛行機が墜落ちちゃったから航空会社に事情聞きに行ったのよ』
「あー。成る程・・・お手数をお掛けしますって謝っといて」
『ていうか、ほんとに生きてるのね・・・』
「うん。もう1人この世界に来ちゃった子と一緒に、今はこの国の王様の保護下って感じみたいで、ちっちゃいお城に泊まってる。ご飯日本食もあったよ・・・」
『聞く限り至れり尽くせりね。でも騙されるんじゃないわよ? 身の危険感じたら逃げるのよ?』
「・・・何処に?」
『・・・分かんないわね』
思わず溜息をついた望だが、電話の向こうで母も溜息を付いたようだ・・・
『あ。勇さん帰ってきたッ、ちょっと! 来て来て! スピーカーにするから! 望生きてるのよ!』
電話の向こうで何かが倒れる音がして、ドタドタという足音が聞こえる。
『の、望ちゃん!! 何処にいるのッ?』
――あ。繰り返しかなこれ・・・
ちょっと遠い目になった。
×××
「というわけで、ピンピンしてますね」
母への説明より若干端折っての話しだが、詳しくは聞いてくれでお願いした。
『じゃあ、魔女になっちゃったって事?』
「そうみたい。頭で考えた埴輪がちゃんと動き出したし」
『埴輪って?』
「あー、母に聞いて?」
『分かった。でも気を付けて望ちゃんは翠さんと同じで、か弱い女の子なんだからねッ!』
50歳近い年齢で職場では看護師長を勤める肝っ玉母さんも、この人にとってはか弱い女性なんだな~と改めて嬉しくなる言葉だった。
「じゃあ、又なんかあったら電話する。ソッチから繋がるかは謎だけど電池がなくなったら次がないかもだからね」
『そうねえ』『確かに』
「とにかく元気だから心配しないでね」
『『分かったくれぐれも身体には気をつけて!』』
電話を切った後に残った気持ちは、喜びというより困惑で・・・
「あれ、昨日の晩お風呂で決心したのって・・・親不孝??」
微妙である・・・。
「・・・取り敢えず考えないことにしよう!」
思考は取り敢えず手放す事にした。
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