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66. 矜持の問題
しおりを挟む口元をハンカチで拭いながら、ミミの言葉に驚いて目を回しそうになる望。
「ど、ど、どうしましょうか? って何故私に?」
「ローザ様が御指示をとの伝言です」
「し、指示!?」
「はい。離宮の主は魔女様と聖女様ですので」
×××
貴族の邸での取りまとめはその家の夫人の役目である。
高貴な身分の家は執事長、侍女長、メイド長等々仕事によって分けられその統括が女主人となる。
家令が実質その家の主人の経営の補佐だが、あり方は各家によって違い、執事長が家令を兼任する場合もありその逆もある。
現在ローザ夫人の立場は望と涼子を支える執事長や侍女長に近く、この離宮の主人はあくまでも望達2人なのだという。
望と涼子はその辺りの認識が甘く、ローザ夫人いやフォルテリア侯爵家にお世話になっている客という認識だったのだが・・・
「ミミちゃん私考えた事も無かったわ・・・」
「家令や執事長は主人や女主人の意向をさり気なく汲み取り、望まれている結果を主人に奉じるのが本来の役目なのです。なので望様とルーカス様の婚約に関しての諸々に関しては、ローザ様がその役目に則って手続きを行うことを決められたのだと思います」
「・・・む、難しい仕事なのね」
「はい。ローザ様はそういった事は真面目かつ本気で取り組むタイプのお方です。しかもルーカス様の『親権』はローザ様がお持ちなのです」
「親権? って」
何やら自分の知っている『親権』とは違う気がする・・・
「はい。対象者、この場合はルーカス様ですが『婚姻』や『継家』を望んだ時に了承をする『寄親』と同じ役目を果たす権利ですね。元々ルーカス様は次男でしたので、ローザ様に『親権』がお有りでした。神殿に撤回の申し立て書を送り、王家が認めた場合は変更も可能ですが」
「やってない?」
「いいえ。審議の結果小侯爵様は王家に血が近いため認められませんでした。ですのでルーカス様は現在王位継承権をお持ちです」
「つまり3人の王子達のスペア?」
「平たく言えばそうです。簡単に変更が効かないお立場ですね」
ルーカスは、なかなかに面倒くさそうな立場だな、と望が思ったのは間違いない。
「侯爵家に他にお子様が居ないのならそれも通ったのでしょうが」
「あ、双子の妹と弟がいるから?」
「そうです。お2人の親権は侯爵様です」
「侯爵家の跡継ぎは決まってるの?」
「小侯爵様が継ぐとはハッキリとまだ決まっておりません。どの家も跡継ぎに関しては能力的に適合するか否かが大事になります。生まれ順はあまり関係ありません。嫡子1人しかその家にいない場合は別ですが。その場合能力が低いと判断されれば優秀な家令が補佐に付く事で王家の了承を得られます」
「意外に・・・簡単じゃないんだ」
「? そうでしょうか?」
ミミの態度からこの世界での貴族の常識なのだという事が伺えた。
「小侯爵様の婚姻に関する許可はローザ様の権利です。小侯爵様御本人の強い意向もあり、ノゾミ樣との仲睦まじさを認めて手続きを行ったと私共も認識しておりました。それを反故にするような動きを認め、助長させた侯爵様に対してローザ様が非常に憤慨されておりまして・・・」
なんと望とルーカスの事が全てバレていたらしい。
誰も彼の深夜の訪問を咎めない訳である・・・
「はい。今回は貴人としてのローザ様の権利に侯爵様が口を出しケチを付けた状態とでも申しましょうか、ローザ様の矜持の問題に発展してしまいましたので私共としては静観するしか御座いません」
「ミミちゃん達は侯爵家の使用人でしょう? 御二人が揉めて困らないの?」
「? 私共は元々侯爵家のメイドですが、離宮に派遣された時点でローザ様の配下ですので、ノゾミ様とリョーコ様が御主人様となります。何も困ることは御座いません。私共以外の者も同様です。違うのは護衛騎士達だけです。王家直轄ですから。ただ、彼らもこの離宮に派遣されている間は離宮の主、つまりノゾミ様とリョーコ様を主人として動きます。そういう契約になります」
「・・・成る程」
「で、ノゾミ様? 侯爵様の沙汰はどうしましょうか?」
「あ。忘れてた・・・何処にいるの?」
「敷地の端で痺れて止まっているようですねえ」
困った顔で頬に手を添えるミミ。
忘れていた望もそうだが、ミミも大概である。
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