異端の巫子

小目出鯛太郎

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晴天

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 晴天だ。

 突き抜けるような青空の晴天だ。ヘベスが開けた窓から入る風はミント畑の上を行進してきたように爽やかで、夜の鬱々うつうつとした気分を何処かへ追いやった。


「おはようございます」

「おはようヘベス。…今日の午後本を借りに行けないかな?アルテア殿下が古い歴史の勉強はそんなしなくても良いって言ってたから…あ、仰ったから。何か見てみたくて」

「朝食の間に、護衛の方の都合を伺って参ります。私が昼までもどらなくともいつも通りお過ごし下さい。それから本日は来客の予定はございません」
 
 ヘベスは一礼をして出ていった。そうだった、本を借りるとか文学館へ行くにはヘベス一人じゃだめなんだった。

 面倒だよね。ヘベスにも予定があるだろうし、護衛の方だってさ。


 俺は着替えた後、使っていなかった机の上に画紙を何枚か置いた。黒檀か紫檀か分からないけれど凄く高級そうな机で、使うのを躊躇っていたんだけど、部屋の端の小さな文机よりこの机が一番大きくて絵を描くのに向いていそうだったから。

 俺の中にある物を全部出そうと思った。

 出すって言っても、その夜のあっちじゃなくて、頭の中にある道具や物の姿を。
 先代が邪道なものは描いてはいけないと言っていた、色々な物を全部。
 中にある物を全部出して、後はアルテア殿下に委ねよう。きっと殿下が必要なものを取捨選択されて、良いように扱って下さるだろう。


 俺の中身が空っぽになれば、あとは何が出来るわけでもないつまらないものがそこにあると気がついて手放してくれるだろう。


 不幸な境遇の巫子を救いにネフェシュに行くと言っていたし、殿下がもしその方に夢中になってくだされば、俺のことを思い出しもしないぐらいになればいいな。
 朝食までの短い時間に少しだけ下絵の線を引く。


 朝食の後は、黙々何枚かの下絵を描いた。
 イメージがあるだけで、原理や詳しいところを理解しているわけじゃない。


 描いてみると俺の中の別人の記憶にある物は見た目重視なのかな?と思うところも出てくる。
 燃料が違うとそうなるのかな。
  
 この世界を動かしている主動力は電気や石油ではなくて魔導だから。

 物体の仕組みも違ってくるのかもしれない。
 魔導は、俺は才能や素質がないからと先代によって遠ざけられていた。

 なんか難しそうだったし、面倒そうだったし別に学ばなくて良いかと思ってたけど…。



『私と一緒に魔導を学ばないか?』



 アルテア殿下の言葉が思い出される。小さい頃に理解出来なかったものが、もしかしたら今の歳ならもう少しわかるようになるんだろうか…。初等科の話をこっそり聞けたりしないかな?
それが難しそうだったらやめるとか、だめかな…。

 孤児だったし、物心ついた時には先代と一緒だった。先代から文字や歴史、計算を習った。
だから俺は学校に行った事がない。世俗の諸々は巫子には必要ないって感じだったしな…。


 もしかしたらものすごく偏った知識で生きてるのかもしれない。こう思えるようになったのも、セルカを離れたからかな?
『もっと自由にわがままにお過ごしになっても良いのですよ…』
 そう言ってくれたへベスのおかげもあるかもしれない。

 堕落じゃなくて自由。


 自由って、ちょっと漠然としすぎてよくわかんないけど。
 やりたい事をやってみたいと言っていいのかな。今日みたいに。

 ちょっとへベスには面倒をかけちゃうけど。

 

 昼前にへベスが戻り、今日の午後午睡の後14時に外出出来ると知らせを持ってきてくれた。
護衛にはシェスさんが来てくれるとの事だった。


 多分護衛だって、そのうちいらなくなる日が来るだろう。誰の手も借りずに気ままに歩ける日が来るかもしれない。

 顔を上げれば窓から入る爽やかな風が肯定するように俺の髪を撫でて行った。
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