異端の巫子

小目出鯛太郎

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起き上がれない

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 本当だったら今の時間は17時まではレベリオの歴史や巫子として必要な教養を学ぶ時間なんだけれど、文学館から戻った時間が中途半端だったから19時の夕食までは、部屋で読書なりしてお過ごしくださいと、へベスはお茶の準備だけして下がって行った。


 うわわわわわ。

 よ、読もう。例のあれを…。

 俺は借りてきた本を机の上ではなく、アルコーブベッドの本棚に背表紙が見えるように押し込んだ。

 それから『神話における魔導体系』の挿絵のある頁を開いた。
 それは四大元素を可視化擬人化した挿絵だった。うん、これで人の目を惹きつけて、対象を発見されにくくする…。
いや、でもへベスの動作が静かすぎて近づいてきても俺、没頭してたら気づかないかも…。

 う、注意しよう…。

 『魔導大全』の下巻をさらにベッドの横に置き、読書灯をつけ、サテンの青いクッションを背中に当てる。
 よーし準備完了だ。

 俺はようやく上巻を手に取って開いた。本当は『愛慾の輪舞曲』という名の本を。

 
 俺がどうしてここまで興奮しているかと言えば、それはもう、俺の知識が貧弱だからだ。俺のソレに関する知識なんて神話止まりなんだ。

 せいぜいが接吻しただの、妻を娶って夜を迎えただの、金色の枝をかざしたとか、柘榴ざくろの実を手ずから食べさせただの。

 ねぇ、俺が市場で熟した柘榴の赤い実をどんな目で見つめたと思う? 

 謎だよ…。混乱の果実だよ。

 林檎もそうだし、無花果もそうだ。
 美味い果物にどんな秘密がとか思ってた純情な子供の頃の俺に戻りたい…。


 本を読んで行くと主人公はザラムという男で、宇宙、闇、夜みたいなものが擬人化された奴だった。
そのザラムに囚われ最初熱烈に愛されるのがカマル。こちらは月の化身で、やはり擬人化されている。月の満ち欠けで付けられる呼称の数だけ、その色々と致している場面があって…ちょっと途中から恥ずかしくていくつか頁を飛ばしてしまった。

 だってみかづきの場面で初めて帳を開けて二人が姿を表すんだけど、それまではほぼ強姦…。暗闇のなかでザラムはお前は美しいとか言ってカマルを押し倒して致してしまうとか…。
 ひゃー。


 これが神話の本なら、ザラムは暗闇の中でカマルを捕らえて従えた。
 って一文で書かれてしまうだろうのに。

 金の枝を刺し入れた、とか剣を収めたとかそういう書き方じゃなかった。

 凄く具体的に生生しく書かれていた。


 勃起した陰茎から透明な雫がたらたらとか、我慢しきれずに白濁が押さえた指の間からとか書かれていたら…そりゃ俺だって理解する。

 だめだよ、いけないよ、公序良俗に反するよ。…と思いながら読んでしまう。

 先代ごめんなさい、と思ってしまう。でもこういうものが印刷されて本になっているという事は…。
 強姦とか犯罪行為は勿論いけない。


 でも体が興奮するのは許されてるのかな。


 性器が硬くなっても、漏らしてもそこまで悪い事じゃ無いのかな。

 男の人が好きでもいいのかな。し、神話にも男色あるしさ。


『お前に会った日から、お前のことばかり考えてしまう』
文中にそんな台詞があった。そういう事があってもいいのかな。


ゼルドさ…ん。初めて会った時のふっと笑った顔。
オレンジの香り。飛空挺の中でずっと抱えていてくれたしっかりした腕。

たったそれだけで人を好きになってしまうんだろうか?


先代のことも好きだった。でもその好きとこの好きは違う。
抱きしめたい、抱きしめられたいと思う願いは一緒なのに、そこに別の欲が加わるだけで、好きってそんなにかけ離れた物になっちゃうんだろうか…。


あの人に触れてみたい。あの人に触って欲しい。
本で読んだような事をしてみたい。



 本の中でザラムは最初こそ無理矢理だけど、後はすごく優しくなる。キスして、お互いを触りあって、一緒に気持ちよくなる。
 触れている間ずっと、愛の言葉を囁き続ける。
 もし、あの人の声で、あの人の手で…そんな事を考えただけで座っていて収まりが悪い。なんか足の間がむずむずする感じだ。慌ててふわふわクッションを取って顔を埋める。


 ういやつめ、ふわふわクッションよ、お前が俺の精神安定剤だよ…。 


 やばい。ズボンを押し上げている。
俺は項垂れてクッションに顔を埋めているのに、俺のあれは元気に上を向こうとする。


「エヌ様、お疲れでいらっしゃいますか、できればそのベッドではなくて机で読んで頂きたいものですが…」

 ひっ!?いつの間にへベス!?


 俺ちゃんと本を閉じたかな。

 多分大丈夫、たぶん…。


 でもどうしよう。っていて恥ずかしくて顔をあげられない…。


 ぎしりと音がした。
 広くはないスペースにへベスが入り込んでくる。
「そのままそのクッションを抱えてうつ伏せになってください」

 顔をあげられない俺は、ん、と言葉に従った。


 腰より下辺りにへベスが陣取ったような気配がした。パタンと本を重ねる音もする。

「少し身体を押しますよ、楽にしてください」

 そう言ったへベスの両手が俺の腰にかかった。ぐぅっと圧がかかってあぅんと変な声が出た。
う、あんまり腰を押されると前が潰れるような感じで苦しい。

「んっ…ぁ へベス、そこじゃなくて、うっ……ん…  首がい」

 背骨に沿ってへベスの指が押して肩に到着したと思ったら、今度は掌が背中を押しながら腰へと戻って来た。

「あっ… んぁ っ」
 押されるたびに声が出た。

「へベス、ちょ…待って、もぅ…   」
「…お辛いですか?」

 気持ちの良いことがつらいなんて…。へベスの手が俺の腰を掴んで身体を起こそうとしたか、何かしようとした時に偶然、ってたそこが寝台と強く擦れた。


 擦れる弾ける漏らす濡れる。それだけのことが一瞬だった。

 身体からくてっと力が抜けて、腰をもう一度押されて、そこに染みるか広がるみたいな感触が加わった。
「… ベス、 も…だ め…」

「エヌ 様?」
 低い声で名前を呼ばれて、腰から背中がひくっとした。

「ごめ、今日先、にシャワー…あびたぃ」

 はい、と声がして、身体の近くにあった熱が離れる。本当に熱の塊がぶわっと移動する感じがした。


 きたなく、ない。身体が気持ち良くて出ちゃうのは自然な事だと本に書いてあったから。
 ただ、恥ずかしくて。顔を上げられないし、すぐには起き上がれそうになかった。
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