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サイン
しおりを挟む俺はシェスが差し出した紙切れを見つめた。
その紙に俺が署名すれば、雇用者と被雇用者の同意に基づいて契約がなされるという。
つまりは俺とシェスの間で。
巫子が護衛を指名できる仕組みがあるなんて、俺は知らなかった。アルテア殿下もへベスもそんな事は一言も俺に言わなかったから。
「ねぇ、でも俺雇おうにもお金ないよ?」
雇用契約というからには対価が必要だと思うんだけど、俺は自分のお金も資産の価値があるものも何にも持っていない。
「王宮外から雇う場合は金が必要ですけどね、これは移動指示書みたいなものなので、心配する必要はありませんよ。私の給与は今迄と変わらず国家から支払われますから。まぁ、その他に何らかなお手当を払って下さると云うなら…体で払ってもらっても…」
シェスは俺の身体を軽々と抱えて、ソファにずしんと座った。
悪戯な手は、俺が何かを言うよりずっと早く上着の合わせ目から滑るように入り込んで俺 の乳首を捏ね始めていた。
「うわぁ!だめ、昼間っからこういうのはだめだめ!」
俺は空いた手でシェスをつねった。
「昨日はあんなにいっぱいしたのに…」
つれないなぁ…とシェスは俺のこめかみや首筋に唇を押しあて、俺があれ?あれっ!?と驚く間も与えずにソファの上に寝かせてしまった。
お、おかしい…。ほんの一呼吸前まで、俺を抱っこするみたいにソファに座っていたのに、もう俺の上にいる。
絶対におかしい、これはきっと敵を制圧したり反撃不能にする組手か特殊な技を使っているに違いない。
「もう、だめだった…ら……っ」
反撃の狼煙を上げられもせず、肉厚な唇にふさがれた。
かなうわけがない。一般人が軍人に敵うわけがない。
手脚をばたつかせても無意味だった。
シェスはキスが上手かった。
ヘベスのキスだって優しいし気持ち良かったけど、シェスのキスは鎮まった性欲をかきたてた。
彼は口の中を縦横無尽にぞんざいに暴れるようにしながら俺の肩が跳ねたり背中がそり返るような場所を攻めた。
口の中に性感帯があるのをシェスは繰り返し教えこむみたいに唇をあわせた。
息継ぎさえさせてくれなくて、苦しくなって藻掻くと顔と頭を押さえつけるように掴まれて、そのくせその太い指が耳たぶや首筋に絶妙な加減で触れてくる。
逃げたいのかもっとキスしたいのか、分からなくなる
ほんの少し唇が離れると俺は苦しさから夢中で呼気を求めるのに、十分に吸い込めないままシェスの唇と舌が襲ってる。
シェスの肉体の重みに押しつぶされて、手足のない胴体になったような頼りない心細いような気分になる。
そんな頼りない気分に浸ることもできないまま、シェスが次の悪戯を仕掛けてきた。
キスだけで勃ってしまた俺のそこに、シェスも塊を擦り付けてくる。
昨日あんなにしたのに、もうこんなになってしまう。
あさましさも恥ずかしさも押し流してしまうような快感に、俺はどうして良いか分からなくなる。シェスは俺が何も考えなくても良いようにまた唇を塞ぐ。
「…触ってもいい?」
シェスは笑って俺の手を取って握らせた。
シェスの熱の塊。
昨日も一昨日も俺の身体の中に侵入してきた肉の杭。
それがお腹につくくらい反り返っているのが、俺には嬉しかった。
頭の中には、別の人を思い浮かべているかもしれないけれどそれはお互い様で、でも俺の身体でそんな風になるのを見ると…安堵した。
安堵、っていうのは少し違うかもしれないけれど。ヘベスとする時に感じていた不安が、シェスとする時はなかった。
ヘベスが何を考えているのか気持ち良いのか分からなくて、他にも言い表せないような不安があって怖かった。
シェスの時は、こんな風に陰茎が頭をもたげて、震えて、待てと言われた犬みたい先っぽから透明な滴がにじむのを見るのは愉快でならなかった。自分にだって同じものがついているのに…まぁ大きさとか色々違いはするけれど。
俺に笑いかけて、俺にキスして、お互いに触って気持ち良くなって、果てることに不満はなかった。
「…こんな性欲処理の道具みたいな使われ方で良いのか?」
って正直すぎるくらい正直にシェスは尋ねてくる。
駆け引きや、人の心の機微に鈍い俺にはこれぐらいが良いような気がする。
わかりやすくて。
これなら俺はきっと距離を間違えずにいられる。自分が傷つかない、相手を傷つけないちょうど良い距離にいられる、そう思った。
そんな事を傲慢にも俺は思ったんだ。
シェスの大柄な身体が掴んで引き倒されるまで。
その向こうに激昂したヘベスの瞳を見るまで。
俺は自分の愚かさに全く気がついていなかった。
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