異端の巫子

小目出鯛太郎

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謝罪

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 いつヘベスが戻ってくるとか、俺の頭の中にだってあったはずだ。

 シェスとのことを隠し通すつもりだったのか、それともはじめからばれても、どうなっても良いと思ってこうしたのか。

 わからない。

 自分のことなのに全然わからない!

 


 でも、俺は凄く馬鹿だ。ヘベスが怒っているのが嬉しいなんて。

 もしヘベスがまるで何も見なかったかのように通り過ぎるか、無言で部屋の扉を閉めたのだったら俺は悲しくなっただろう。
 多分今以上にどうして良いか分からなくなってはずだ。


「貴様!!」
 聞いたことも無いような低い声でシェスを蹴ろうとするヘベスに俺は飛びついた。
 
 俺を蹴っても良い。

 でも今日のシェスはだめだ。

 これが昨日のことだったらどう云う気持ちになったかわからないけど、今日のは無理矢理でもなんでもない。

 俺はキスするのも、それ以上も楽しんでしまったから。シェスばっかりが悪いわけじゃない。

「やめてよ、ヘベス。寂しかったんだ!ハティに盗られたみたいで寂しかったんだ。シェスを蹴らないで」


 そうだ、寂しかったんだ、寂しかったんだ、寂しかったんだ!ようやく俺を見て笑いかけて優しくしてくれる人が現れたのに。すぐに別の人のものになった気がして。

 お気に入りの玩具おもちゃを取り上げられた小さな子供みたいにわんわん泣きたくなった。

 離れた方がお互いの為に良いと一度は思ったはずなのに、寂しくてたまらなかった。

 あんなに長い間独りで荒野にいたのに。


 振り払われないことに安堵し、それから襲いかかってくるどうしようもない羞恥に俺は顔を上げられずにいた。
 ズボンはずり下がり、前を露出させ尻を出したみっともない格好で縋り付くなんて。


「ヘベス、ごめんね」

 
 愛しているとかそういうのとは違うかもしれないけれ、ヘベスが俺のことを大事に想ってくることが知れて嬉しいんだ。
 
 ヘベスの石像みたいな脚に抱きついて謝った。

 この感覚に覚えがあった。
 熱を放つストーブに抱きついたみたいな。燃えるような怒りに震える硬い石の感触。

 剥き出しの偽りのないへベスの心に触れた気がして、俺はますます嬉しくなってしまった。
『ごめんね、へベス。ごめんね。寂しかったんだ。でもへベスも悪いんだよ。俺を放り出してハティにばっかりかまけているから。断ることも出来たのにハティを選んだのはへベスじゃないか。俺を放り出したへベスが悪いんだよ』

 俺はへベスの脚に縋りついたまま、心の中で自分勝手にへベスを責めた。

 それはへベスがハティの世話をする事が決まった時から、俺が言いたかった事だった。


 言いたくて、誰にも言えなくて心の中でずっとわだかまっていた言葉だった。


 
 へベスが悪い。俺を独りだと寂しくて疼くような身体にしながら、放り出したんだから。

 へベスは俺を立たせて、小さな子供にするようにズボンを引き上げて服の乱れを整えた。


「あーあ、ていの良い当馬になった気分だ」
 悪びれた様子もなくシェスは座ったまま言い放った。



 後で知ったけれど当馬という言葉は馬の種付けの際に牝馬の発情を促し確認する行為らしい。
 …その…俺はメスでも馬でも無いけど。


「私は悪い駒じゃないと思うんだけどね。別に二人の仲がどうのこうのと言わないし、性癖がどうのと言いふらすつもりもないし、適当にエヌの性欲を発散させられるし、ボディーガードもできるわけだから」

「黙れ」

 二人の間で音の無い火花が散ったような…正確にはへベスから激しく雷の槍が投げられたような気がした。
 
 ただ受け止める側のシェスは絶縁素材のゴムみたいに平然としている。

 
 殴り合いにならなくて良かったと思いながら、俺は所在なげに立っていることしか出来なかった。
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