僕はもう約束の初恋相手を好きではない

さかな

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10年間の初恋

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―――――――ねぇ大人になったら結婚しよ
―――――――うん!

10年前。幼稚園の時に約束したあの日のことを僕はまだ覚えている。彼女は小林愛衣こばやしあい僕の初恋相手だ。

幼いながらに完全に虜になっていたと思う。話すだけで顔が真っ赤になって、心臓は飛び跳ねるくらい鼓動をたてていた。

今だって彼女の笑顔にとらわれて、小学校でも、中学校でも誰かを好きになることはできなくてずっと一途に想っている。女々しいと自分でも笑ってしまうくらいに

そして僕はこれから高校生になる。きっと高校生になっても初恋にとらわれていると思っていた。しかし、それはお母さんのふとした言葉で変化を迎えた。

「ねぇ愛衣ちゃんのこと覚えてる」

ドキッと心臓がはねた。僕は冷静をとり繕って応える

「覚えるけど」
「あなたと同じで雪下高校だってよ」
「え!」

嬉しかった。ようやくまた彼女に会えるのだ。僕はもう会えないものだと思っていたから泣きそうなくらい嬉しい……彼女は僕のことを覚えていてくれているだろうか、どんな風に育っただろうか、想像が膨らんでいく。きっとまた僕は好きになる。

***

入学式の日僕は彼女を探した。人の山をかき分けて初恋相手を捜し回った。きっと今の顔なんて見なくてもわかるはずだ。怖いのは彼女が僕のことを忘れていないかどうかだけ。中々見つからないことに肩を落とすと透きとおった綺麗な声が僕の名前を呼んだ。 

大宮晴人おおみやはるとくんだよね」

心配そうに尋ねるその声は見なくてもわかる愛衣だ……頭の中でよみがえる約束と笑顔、あぁ……どうしよう顔がすでに熱いよ
僕は顔を隠すように少しだけうつむきながら振り返る

「そうだよ、久しぶりだね」
「ちょっとどうして下を向いてるの」

無邪気に下からのぞき込む仕草に変わってないなと嬉しくなる。
黒髪ロングに少しだけ赤く染まった頬。僕の知ってた頃の彼女は可愛い印象だったけど今は綺麗だ。だけど……なんでだろあの頃と違う。ちょっとした違和感を感じた

「顔赤いね」
「ちょっと恥ずかしくて」
「晴人は変わらないよね」
「愛衣だって……」

あの頃と同じで呼び捨てに戻った。俺も合わせるようにそうした少しでも昔を感じられるように

「そう言えばクラス同じだったね」
「え!そうなの」
「見てないの」
「まぁちょっと別のことしてて」
「へぇ~そうなんだ」

見透かしたように言う愛衣はあの頃と同じで僕がからかわれて愛衣がからかう。懐かしいな

「じゃあクラスに行こっか」
「あ、うん。ところで何組なの」
「1組だよ」

クラスに入ってそれぞれの席に座った頃にはもう先生がくる時間だ。

「このクラスを受け持つことになった滝沢秋たきざわあきだ。これから1年間よろしくな」

30代くらいの女性教師は黒板に漢字を書きながら自己紹介をする。黒髪のショートヘアーにスーツ姿で大人の女性って感じだ

「んじゃあ適当に自己紹介してくれ青山あおやまから頼む」 

はい、と言って前席に座る人が立ちあがる

「青山春風はるかです。1年間よろしくお願いします」

お決まりのような自己紹介だった。なのに俺はあの頃と同じ感覚に陥った。この感じはきっとそうだ。俺は彼女にをしてしまった。吸い込まれるような瞳に、さらさらなセミロングに、えくぼがあらわれる笑顔に、桜吹雪が舞うような衝撃を感じてしまった。そこでようやく違和感の正体に気づいてしまったんだ。
そうか……

―――――――――僕の初恋は終わったんだ

唖然とした。愛衣は今見ても可愛くて美人で、ちょっとした仕草にドキッとしてまうほど綺麗だった。それなのに恋に落ちなかったんだ。思い出補正がかかっていたわけでも、性格が変わったようには思えなかった。だからきっとこれは成長なんだ。悪いことをしたわけではないのに罪悪感がどっときた。身勝手で自意識過剰で愚かだ。まだ愛衣が僕を好きだなんて

「おい、大宮次はお前の番だぞ」

そこでようやく気づいて、慌てて立ち上がると机に太ももがぶつかりダンと音をたてる

「痛ったぁ」

クラスから笑いが起こった。あぁ最初からやっちゃったよ。
恥ずかしさで顔が真っ赤に染まる。

「大宮晴人です。よろしくお願いします……」

恥ずかしさに耐えかねて最後の方は声が小さくなっていたと思う。あぁ……もう早く終わらないかな。こっから覚えられるはずもない30人の自己紹介を聞いて、今日はプリントやら教科書をもらって終わりだ。帰りのあいさつが終わると僕は愛衣に止められて一緒に帰ることになった。僕はもう彼女に恋をしていないんだなとこの10年間を思い出す。僕だけが一方的に気まずく感じている環境は駅で終わりをむかえる。

「私こっちだから」
「うん……じゃあね」
「ねぇ覚えてる……」
「ん?」
「大人になったら結婚するって約束」

彼女は紅色の頬ではにかむ笑顔でそう告げると走り去ってしまった。僕は何も答えられないままその場に立ち尽くして電車を逃す。僕だけ時間が止まったようだった。今の言葉が電車の音にかき消されたらどれだけ良かったか
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