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【3】暖かな食卓
しおりを挟む「ですから俺は、給金の保証と退職金、年金の保証がしっかりあれば構わないと申し上げています。団長の健やかな家庭生活と精神の安定は、騎士団の安定、ひいては国防の安定にもつながりますからね」
あくまで事務的口調でありながら、どこか茶目っ気のある微笑みを浮かべるフィンドリックに、ロワイドも「君はそういう奴だったな」とようやく微苦笑を浮かべる。
「しかし、フィンドリック君。君はグレールデン侯爵家の子息ではないか?」
家の了承は受けなくていいのか? というベルノルドにフィンドリックは「大丈夫です」と首を振る。
「元々アルファばかりの家族の中で、俺はベータの“出来損ない”ですからね。騎士団に入るときに侯爵家との縁は切れています」
そう言って肩をすくめた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
ロワイドとフィンドリックの『契約結婚』の準備は秘密裏に進められた。
まず、遠方の魔獣討伐にロワイド自ら旅立った。久々の英雄自らの出陣であった。誰の目にも王女との結婚の返事引き延ばし作と見えたが、王家は焦ることなく、ロワイドを送り出した。遠征はどう長引いても半月ほど。その頃には『観念』して英雄は帰ってくるとみたのだ。
その滞在が、魔物の数が予想外に多かったということで、ひと月に伸びた。さらには自治区である辺境伯に請われて、その大規模な軍事教練に参加して、滞在が伸びに伸びたとあれば、王都から帰還の矢の催促があっても、仕方ない。
こうして滞在三ヶ月近くになり、ようやくロワイドが戻ってきた。
遠征のあいだ、いつもそのそばにいる副隊長の姿がないことを、彼が目立たないために外部のものは誰も疑問に思わず、また騎士団の者達もそれを口にすることはなかった。
「お帰りなさいませ」
国の『英雄』となったロワイドに与えられた王都の館。フィンドリックが執事のボルドーと家政婦のナーニャとともに出迎える。
フィンドリックは『身体の準備』のために三ヶ月前から休職にはいっていた。人目を避けるためと、これからの生活に慣れるためにもロワイドの家で暮らすことにしたのだった。
「遠征はどうでしたか?」
「魔物討伐はすぐに終わった。あとは辺境伯の騎士団と鍛錬と演習の毎日だ」
「あちらで毎日のように歓待されて、辺境伯の美しい姫君と仲良くなさっていたという華やかな噂が、この王都で持ちきりですが?」
訊ねるフィンドリックの口許には面白がるような笑みが浮かんでいる。ロワイドの眉間に皺が寄る。
「いつもの噂好きの宮廷雀共がピーチクパーチク騒いでいるだけだ。たしかに『未来の女辺境伯』殿と親交は深めたがな」
辺境伯の一人娘は、アルファの女騎士だ。その美しい見た目とは裏腹に、男並の膂力を誇る。組み手で大の男を投げ飛ばす。
彼女は将来辺境伯のあとをついで、女辺境伯となることが決まっている。さらには可愛らしいオメガの子爵令息の婚約者までいるのだ。
そう、オメガが男子でも孕む性なのば、アルファは孕ませられる性なのだ。女子でも男性と同じ機能を持っている。
女辺境伯が夫で、子爵令息が妻とはなんとも倒錯的ではあるが、彼女はその可憐な令息にぞっこんなのは、以前の演習にてフィンドリックも見ている。
だからそんな噂が根も葉もないことは、わかっていてロワイドをからかったのだ。
「その噂のせいで王都からは『帰ってこい』の矢の催促だ。あげく、メッサリーナ王女からぶ厚い手紙が届いた」
「恋文ですね。読まれましたか?」
「暖炉に放り投げた」
「不敬罪ですよ」
「私とお前だけしかいないんだ。それともお前が告発するか?」
羽織っていたマントをロワイドに預け、居間の椅子に腰掛ければ、マーサが茶を持って来る。いつものように香り高いそれを口にしようとして、ふと鼻先をかすめた香りに気付く。一口、含めば確信したとおりに、それはブランデーで香り付けされていた。いや、香り付けというには少し多めの。
ちらりと反対側に腰掛けるフィンドリックを見る。彼はハーブティを口にしていた。もちろん酒は入ってないだろう。強くもないし、付き合いで必要以外、口にする気はないとも以前にいっていた。
この茶はフィンドリックは指示してマーサに用意させたものだろう。ロワイドがあまり好きではない書類仕事をまとめて片付けて一息ついたとき、フィンドリックが無言で出してくる元気づけのお茶だ。
ボルドもマーサもよく仕えてくれる使用人であるが、ロワイドは彼らに自分の好みを言ったことはなかった。だから、出てくるのはいつも香り高いだけのお茶であった。
どうやらこの三ヶ月で、すっかりこの屋敷の『女主人』として、使用人達を掌握したらしいな……と、ロワイドはやはり出来る副官の能力を内心で高く評価したのだった。
さらには、その後、家族用の小食堂に移動しての晩餐で、目を見張る。
並んでいた料理は貴族の食卓に並ぶような綺麗に盛り付けされた洗練されたものではない。しかし、ロワイドにとっては懐かしい料理だったからだ。じっくりと煮込まれ肉や野菜がごろごろと入ったシチュー、茹でたジャガイモには暖炉であぶり溶けたチーズをかけたもの。そして、キャベツの酢漬けと。
「俺に料理を教えてくれた家政婦が、あなたと同じ地方の出身だったんですよ」
「教えてくれた?」
温かな料理を取り分けながら、ロワイドは目を見張る。フィンドリックは『もう関係ない』と言っているが、彼は侯爵家の出身だ。その子息が使用人の真似事など……と思うが。
「彼女が俺をほとんど育ててくれたようなものです。期待外れのベータの息子は両親にほぼ放置されていましたからね」
「……君はどうして騎士団に来たんだ?」
ロワイドが訊ねれば「その話は長くなりそうですから、またいずれ」と、ごまかされた。
今は話すつもりはないということだ。
その後は遠征はどうだったか? とあれこれと話した。
温かく懐かしい故郷の味は、あまり饒舌ではないロワイドの口も軽くさせた。
なにより、誰かとこのように楽しく美味しい食事をしたのは、子供の時以来だった。
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