【完結】デカい腹抱えて勇者から逃走中!

志麻友紀

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でかい腹抱えて勇者から逃走中!

【57】探さないでください

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 夫夫ふうふの寝室。
 天蓋付きのベッドにあぐらをかいて背を向けるハルに、ダランベルは立ったまま謝っていた。

「勝手にあなたとの結婚を決めたことは謝る、すまなかった」
「…………」
「いずれは王位に就かねばならないことはわかっていた。だが、そのまえにあなたを正式な番だと内外に発表し、認められることが先だった」
「…………」

 ハルはまた無言で背を向けたままだ。
 たしかに評議会でもそんなことを言っていたと思い出す。

────王位に就くより、二十九のおっさんに片脚つっこんだ、俺との結婚のほうが先にしたいとは、本当に奇特な勇者様だこった。

「あなたも大事だが、生まれてくる御子のこともある。私達が結婚しなければ、その子は婚外子ということになってしまう」

 確かにダランベルと結婚しないままなら、ハルが一人で産んだ子、つまりは自分は未婚の母? ってことか? と考える。
 男の自分が【未婚の母】というパワーワードにハルはちょっとクラクラした。そして、ダランベルに背を向けたままだったのに、ちらりと背後を見てギョッとした顔になった。

「もちろん、あなたの子は私の子だと認知もするし、お披露目もするつもりだ。しかし結婚しないまま、あなたの立場も御子も立場も中途半端にしたくない。だから、王位に就く前にあなたとの結婚を。あなたを私の隣の同格の国を導く者として迎え、生まれた御子も生まれながらの王の子として……」
「わ、わかったから、その姿勢で話すな! 立ち上がれ!」

 立ったままだったと思ったダランベルはなんと、床に両膝をついて頭を垂れていたのだ。片膝をついて頭を下げるなら、それは騎士として主君に対しての最上級の礼である。が、両膝ついてとなるとそれは、罪人として許しを請う姿となる。
 ようするに土下座みたいなもんだ。THE・土下座! 
 魔王を倒した勇者が、賢者にすることではない。

「立つことを許してくれるか? ありがとう」

 ダランベルはにこりと微笑み立ち上がる。立ち上がったが、そのまま胸に手を当てる。これは王侯貴族男子の略式礼であるが、彼は胸に当てた手を下ろさずにそのままだ。

「だから、立ったままじゃなくて、ここに座れ!」

 ベッドにあぐらをかいた傍らのマットをぽんぽんと叩けば、ダランベルはそこに腰を下ろした。

「本当にすまなかった」

 またぺこりと頭だけ下げるのを『もう謝るなよ』とハルは言いかけて止めた。それを言ったら、ダランベルの暴走を認めたことになってしまうではないか。

「そりゃ、なんの謝罪だ? やっぱりあの結婚宣言は気の迷いで、別のカワイイ子を王妃に選びますか?」

 冗談めかしてハルが口にすると、ダランベルががばりと顔をあげた。くわりとその深い蒼の瞳を見開く。食われそうだ! とハルがのけぞると、逃がさん! とばかりに、その両肩をがしりと掴まれた。さらにがくがくと揺さぶられて。

「あなたとの結婚を取り消しなど絶対にない! 別の者などなおさらだ! そんなことを強制されたら、王位など投げ捨てて、あなたと御子を連れて世界の果てまで逃げる!」
「お、大げさだな! こら揺らすな! 腹の子に障る!」

 そのひと言でダランベルはぴたりと止まり、今度はやんわりと抱きしめられた。さらにまだ膨らんでいない、腹をなでなでされた。

「大丈夫か? す、すまない」

 珍しく言いよどむダランベルに動揺が見えた。空から星が落ちそうだって、聖剣抜いてその星を砕こうとするだろう脳筋がおろおろしているのはおかしくて、ハルはくすりと笑ってしまう。

「大丈夫だよ」

 その腹を撫でる手に手を重ねると、逆にその手を握りしめられた。ダランベルの蒼の瞳が、ハルの黒の瞳をじっと見つめる。

「あなただけだ」
「それもわかってる」

 ハルだってわかってる。これだけ言われれば、さすがにこの男が自分のことを結婚したいぐらい本気で好きなのだとわかる。

「大事なのはあなたと御子だけだ。玉座などどうでもいい」
「それ外でいうなよ」
「もちろん言わない。皆、私が王になるべきと思ってくれている」

 番とまだ生まれていない子供にも誠実。
 周りの期待にも誠実な将来の王様。
 欠点なのは脳みそが筋肉なことぐらいだ。

「そういや、腹の子供のこと忘れていたな」
「忘れてはいけない。あなたと私の御子だ」
「うん、そうだな。お前のほうがよっぽど親の自覚あるよな」

 ハルは苦笑した。
 仮の番だからとか。
 結婚するとかしないとか。
 くよくよ悩んでいても、子供は育つし腹はでかくなるのだ。
 生まれて来る子のことを考えれば、この世界では王様の子というのは、最高に恵まれていると言えるだろう。
 まして、勇者な王様の子というのは。
 だから、子供のためだと、ハルはうなずいたのだ。



 ……のつもりだったのだ。
 結婚式の準備やらなにやらで、二ヶ月後。つまりは妊娠五ヶ月。お腹もふっくらしてきた頃。
 ハルは唐突に書き置きを残して、王宮から消えた。

「旅に出る。探すな」

 その書き置きをダランベルはぐしゃりと握りしめる……ことなく、丁寧に折りたたんで懐にしまいこんだ。青ざめるメメルと、やはり冷静な……いや冷静なように見えて足元は裸足で駆けつけたガルクに告げた。

「このことには緘口令を敷け。ハルは身体の不調で大事をとって休んでいることにする」

 そして午前の執務に向かったのだった。






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