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番外編
◆番外編:ノアとイリスがとあるご夫人を訪問する話 - ①
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「グリーン夫人!」
ノアの明るい声が、冷たい冬の空の下に響いた。
雨さえあれば初雪が降りそうなほど空気は冷たいが、風はない。太陽の光が柔らかく辺りを照らしている。窓の外から外を見れば、今日は暖かそう、と勘違いしてしまいそうな天気だった。
イリスは、夫のノアに連れられて、彼と旧知の仲だというとある夫人の屋敷を訪れていた。
馬車から降りると、こぢんまりとした品のいい庭が目に飛び込んでくる。屋敷の扉が開いて、杖をついた白髪の夫人が、使用人の女性とともに出迎えようと玄関先に出てきた。ノアはぱっと表情を明るくして、彼女の名前を大きな声で呼んだのだった。
グリーン夫人と呼ばれた小柄な女性が顔をあげる。優しげな雰囲気の顔立ちで、小さな庭に響くノアの大きすぎる声を聞いて、困ったように笑った。
隣にいるイリスに目を止めて、琥珀色の瞳が少しだけ丸くなり、すぐに、ふわりと和らいだ。
(まさか、私が来ることをお伝えしてなかったわけじゃないわよね……?)
イリスは隣にいるノアに疑いの視線を向けた。彼女の夫は、そういうことをやりかねない。
今日のイリスは、ノアから頼みごとがあると言われて同席している。なのでイリスは準備をしてここに臨んでいるわけだが、予想外の来客で女主人を驚かせていたとしたら、屋敷の主人が気の毒になってしまう。
(来客があると色々と準備があって大変なのに……貴方は昔からの知り合いかもしれないけど、私は今日が初対面なんですからね。先方だって気を遣うのよ?)
ノアはイリスの視線に気づいて首を傾げてから、はっとした顔をして彼女に手を差し出した。
視線の意図は、早くエスコートしろという意味ではない。人の庭先でこそこそと状況確認をしたり夫を叱るわけにはいかないので、イリスは誤解は解かずにその手を取って、玄関先まで向かった。
「久しぶり! 会えて本当に嬉しいよ。ずっと来れていなくてごめん」
ノアは夫人のことを抱きしめて、身を屈めて頬に挨拶のキスをした。
グリーン侯爵領はヴェルディアに隣接する領地で、エメリアから北東へ進み、馬車で二日ほどの距離がある。
訪問しようと思えばいつでも訪問できる距離だが、宿泊を伴うため今日思いついて明日行こう、と気軽に訪れるには遠すぎる。
ノアがこの地を訪れるのは、およそ一年振りだという。
「いらっしゃい、ノア。歳をとると時間が経つのが早すぎて、つい先日会ったような気分よ。それで、隣にいる素敵なご夫人は紹介してくれるのよね?」
「もちろん!」
ノアはイリスの背に手を添えて、イリスに微笑みかけた。そしてグリーン夫人と視線を合わせる。
「私の妻のイリスだよ。ウィントロープの出身なんだ」
「素敵なところからいらしたのね。グリーン侯爵領へようこそ。わたしは前侯爵夫人のエリザベスと申します。寒い日に遠くまで来てくださってありがとう。会えて嬉しいわ」
グリーン夫人のレースの手袋で覆われた手が、杖の上でぴくりと動いた。侍女が杖を支える。
両手で握手をしようとしてくれているのだと気づいて、イリスはそっと自分の手を差し出した。小さな手を握ると、夫人の表情が和らいだ。
「初めまして、グリーン夫人。イリスと申します。本日はお招きくださりありがとうございます」
イリスは挨拶してから庭に目を向けた。池が冬の日差しを受けて、幻想的に輝く様子に目を細める。
「とても素晴らしいお庭ですね。寒さを忘れて散歩をしたくなりますわ」
「ありがとう。小さいけれどとても気に入っているの。よかったら、ストールをお貸しするから、あとでゆっくり見ていただけると嬉しいわ」
「ありがとうございます、ぜひ」
イリスが微笑むと、夫人も微笑み返す。彼女は、イリスの隣で庭を見ているノアに視線を向けた。
「ノア、あとでイリス夫人に庭を案内してくれるかしら。昔から変わっていないから、思い出話をして差し上げてね。わたしより貴方のほうがお話が得意でしょう」
「え? うん」
ノアが頷く。グリーン家の使用人のサンドラが、ノアに視線を投げた。彼女の醸し出す重たい空気に、ノアが曖昧な笑みで答えた。
今日の訪問は、サンドラからの手紙がきっかけである。
人に会わず、外出もしなくなってしまった女主人に、顔を見せに来てくれないか。ほんの少しでも外の空気を吸うきっかけになってくれればありがたい。
短く、そっけない手紙だった。実際の彼女も、手紙の印象と違わない、あまり視線も合わず冷たい印象の使用人だ。年齢は四十代半ばごろに見える。
それでも女主人に寄り添い、ゆっくり歩く姿には、彼女への気遣いが見て取れた。
イリスは廊下を先導する二人の背中を見つめながら、グリーン夫人への印象を頭の中で整理する。サンドラの手紙の記述にある”人に会わなくなってしまった”ことを全く感じさせない感じのいい微笑みと、和やかな会話。
優しげな雰囲気とは裏腹に、ノアに庭を案内するように頼む話し方は、決定事項として断らせない雰囲気があった。
簡単に本心を見せてくれる人ではないだろう。
(外の空気を吸わせると言ったって、庭に連れ出すだけで骨が折れそうな方じゃないの)
イリスは隣にいるノアにチラリと視線を投げた。ノアはイリスの視線の意味には気づかない様子で首をかしげた。
*
お茶とお菓子を囲んで雑談をしたあと、ノアの“頼み事”のために、グリーン夫人は席を外した。彼女のコレクションである、刺繍の図案を集めた書籍を見せてほしいと頼んである。
ノアとイリスはソファに並んで座っている。イリスが部屋の中を見渡すと、部屋のあちこちに、絵画のように見える刺繍の作品が飾ってある。全てグリーン夫人の作品らしい。
「一年ほど滞在していたと言っていたのはこのお屋敷?」
「ううん、そのときはまだ前侯爵がご存命だったから、基本的には本邸にいたよ。でも週末はこっちに来てた。仕事を忘れるために建てた場所なのに、侯爵が仕事の話ばかりするから庭に追い出されていたよ。今日みたいに寒い日も」
ノアは、過去を思い出すように窓の外に目を向けて笑った。
グリーン侯爵夫妻は、ノアが父親の仕事を本格的に手伝い始める前に、経験不足の彼を指導するような立場だった、と聞いている。
貴族の子息が将来の勉強のために別の領地で研鑽を積むことは珍しい話ではない。
――私が何か失敗しても「もういい」と一度も言わなかったから。怒られた時、一番言うことが具体的で、細かかったから。
ノアが、グリーン侯爵邸で勉強したいと父親に頼んだのはそれが理由だったらしい。グリーン侯爵は一度は断ったが、そのあと気が変わったらしく、週末に妻のエリザベス夫人の話相手になることを条件に了承した、ということだ。
「私がここにいるときは、すごく頻繁にお客様を呼んでいたんだけどね。特に侯爵が亡くなってからは全然らしくて……私は仕事の連絡と、一年に一度誕生日に贈り物をするくらいだから、今どんなふうに過ごしているか全然知らなかった」
イリスは今回ノアにここを訪問する話を聞いて、以前イリスがノアに聞いた、“私的なやりとりをしたことのある従妹以外の女性”に当てはまるのがこのご夫人であると気づいた。六十代のご夫人で、ノアは亡くなった主人の世話になったのだと言っていた。
ノアの表情は晴れない。過去たくさんの人に囲まれて過ごしていた旧知の婦人が、今は使用人とたった二人でこの屋敷に住み、家に篭りきりであることに心を痛めているようだった。
部屋の扉が開いた。
「お待たせしたわね」
グリーン夫人が、使用人のサンドラとともに、ワゴンの上に山ほど書籍を積んで持ってきた。全て刺繍の図案である。
「まぁ!」
世界各国の刺繍の図案を集めているのだ、と話には聞いていたが、予想以上の量にイリスは思わず感嘆の声を上げた。イリスが大きすぎる声を出したことに気づいて恥ずかしくなって口元に手を当てると、グリーン夫人が得意げに微笑んだ。
「これで全部じゃないのよ。ここにあるのはわたしのとっておきだけ。イリス夫人は、刺繍がお好きなのよね」
「はい」
「なら貴女は価値を分かってくれるかしら。夫は全然だったわ。それにここにいるサンドラも、刺繍になんて微塵も興味がないのだから」
「細かい作業は苦手なのです」
「あら、でもお菓子作りは得意でしょう?」
グリーン夫人は本をテーブルの上に広げてイリスに見せた。
「どこか興味のある地域はある? お好きに広げて見て構わないわ」
イリスは白い手袋をつけ、並んだ本に一冊ずつ手を伸ばした。
「ススリクのサーラ・アフシャリに、マロナの『針の芸術』に錬国の『四季総覧』も……これはウィントロープの環織花のコレクションですか? まぁ、オリビア・ヘイウッド編の初版だわ!」
イリスが珍しい刺繍の図案に興奮して名前を挙げていくと、グリーン夫人は楽しそうに笑った。ノアとサンドラはよく分からないという顔をしている。ノアが本の一部を覗き込んだ。
「そんなに興奮するようなものなの?」
「王都の図書館でも見れないわよ。知らないの?」
「聞いたこともない。なんでイリスは知っているの?」
「なぜって……常識だからよ」
「絶対常識とは言わないよ。一部の熱狂家だけの秘密の知識だ」
ノアの反論に対して、本の持ち主のグリーン夫人は笑った。
「刺繍にこだわり始めれば、自ずとたどり着く“わたしたちの常識”よ。それで、ノア、貴方は一部の熱狂家だけの秘密の知識に何の用かしら? ヴァンデンブルク家の次期ご当主様は、妻を喜ばせるために二日かけてここまで来るほど手が空くとは思えないけれど」
グリーン夫人がにっこりと美しく微笑んだ。
ノアの明るい声が、冷たい冬の空の下に響いた。
雨さえあれば初雪が降りそうなほど空気は冷たいが、風はない。太陽の光が柔らかく辺りを照らしている。窓の外から外を見れば、今日は暖かそう、と勘違いしてしまいそうな天気だった。
イリスは、夫のノアに連れられて、彼と旧知の仲だというとある夫人の屋敷を訪れていた。
馬車から降りると、こぢんまりとした品のいい庭が目に飛び込んでくる。屋敷の扉が開いて、杖をついた白髪の夫人が、使用人の女性とともに出迎えようと玄関先に出てきた。ノアはぱっと表情を明るくして、彼女の名前を大きな声で呼んだのだった。
グリーン夫人と呼ばれた小柄な女性が顔をあげる。優しげな雰囲気の顔立ちで、小さな庭に響くノアの大きすぎる声を聞いて、困ったように笑った。
隣にいるイリスに目を止めて、琥珀色の瞳が少しだけ丸くなり、すぐに、ふわりと和らいだ。
(まさか、私が来ることをお伝えしてなかったわけじゃないわよね……?)
イリスは隣にいるノアに疑いの視線を向けた。彼女の夫は、そういうことをやりかねない。
今日のイリスは、ノアから頼みごとがあると言われて同席している。なのでイリスは準備をしてここに臨んでいるわけだが、予想外の来客で女主人を驚かせていたとしたら、屋敷の主人が気の毒になってしまう。
(来客があると色々と準備があって大変なのに……貴方は昔からの知り合いかもしれないけど、私は今日が初対面なんですからね。先方だって気を遣うのよ?)
ノアはイリスの視線に気づいて首を傾げてから、はっとした顔をして彼女に手を差し出した。
視線の意図は、早くエスコートしろという意味ではない。人の庭先でこそこそと状況確認をしたり夫を叱るわけにはいかないので、イリスは誤解は解かずにその手を取って、玄関先まで向かった。
「久しぶり! 会えて本当に嬉しいよ。ずっと来れていなくてごめん」
ノアは夫人のことを抱きしめて、身を屈めて頬に挨拶のキスをした。
グリーン侯爵領はヴェルディアに隣接する領地で、エメリアから北東へ進み、馬車で二日ほどの距離がある。
訪問しようと思えばいつでも訪問できる距離だが、宿泊を伴うため今日思いついて明日行こう、と気軽に訪れるには遠すぎる。
ノアがこの地を訪れるのは、およそ一年振りだという。
「いらっしゃい、ノア。歳をとると時間が経つのが早すぎて、つい先日会ったような気分よ。それで、隣にいる素敵なご夫人は紹介してくれるのよね?」
「もちろん!」
ノアはイリスの背に手を添えて、イリスに微笑みかけた。そしてグリーン夫人と視線を合わせる。
「私の妻のイリスだよ。ウィントロープの出身なんだ」
「素敵なところからいらしたのね。グリーン侯爵領へようこそ。わたしは前侯爵夫人のエリザベスと申します。寒い日に遠くまで来てくださってありがとう。会えて嬉しいわ」
グリーン夫人のレースの手袋で覆われた手が、杖の上でぴくりと動いた。侍女が杖を支える。
両手で握手をしようとしてくれているのだと気づいて、イリスはそっと自分の手を差し出した。小さな手を握ると、夫人の表情が和らいだ。
「初めまして、グリーン夫人。イリスと申します。本日はお招きくださりありがとうございます」
イリスは挨拶してから庭に目を向けた。池が冬の日差しを受けて、幻想的に輝く様子に目を細める。
「とても素晴らしいお庭ですね。寒さを忘れて散歩をしたくなりますわ」
「ありがとう。小さいけれどとても気に入っているの。よかったら、ストールをお貸しするから、あとでゆっくり見ていただけると嬉しいわ」
「ありがとうございます、ぜひ」
イリスが微笑むと、夫人も微笑み返す。彼女は、イリスの隣で庭を見ているノアに視線を向けた。
「ノア、あとでイリス夫人に庭を案内してくれるかしら。昔から変わっていないから、思い出話をして差し上げてね。わたしより貴方のほうがお話が得意でしょう」
「え? うん」
ノアが頷く。グリーン家の使用人のサンドラが、ノアに視線を投げた。彼女の醸し出す重たい空気に、ノアが曖昧な笑みで答えた。
今日の訪問は、サンドラからの手紙がきっかけである。
人に会わず、外出もしなくなってしまった女主人に、顔を見せに来てくれないか。ほんの少しでも外の空気を吸うきっかけになってくれればありがたい。
短く、そっけない手紙だった。実際の彼女も、手紙の印象と違わない、あまり視線も合わず冷たい印象の使用人だ。年齢は四十代半ばごろに見える。
それでも女主人に寄り添い、ゆっくり歩く姿には、彼女への気遣いが見て取れた。
イリスは廊下を先導する二人の背中を見つめながら、グリーン夫人への印象を頭の中で整理する。サンドラの手紙の記述にある”人に会わなくなってしまった”ことを全く感じさせない感じのいい微笑みと、和やかな会話。
優しげな雰囲気とは裏腹に、ノアに庭を案内するように頼む話し方は、決定事項として断らせない雰囲気があった。
簡単に本心を見せてくれる人ではないだろう。
(外の空気を吸わせると言ったって、庭に連れ出すだけで骨が折れそうな方じゃないの)
イリスは隣にいるノアにチラリと視線を投げた。ノアはイリスの視線の意味には気づかない様子で首をかしげた。
*
お茶とお菓子を囲んで雑談をしたあと、ノアの“頼み事”のために、グリーン夫人は席を外した。彼女のコレクションである、刺繍の図案を集めた書籍を見せてほしいと頼んである。
ノアとイリスはソファに並んで座っている。イリスが部屋の中を見渡すと、部屋のあちこちに、絵画のように見える刺繍の作品が飾ってある。全てグリーン夫人の作品らしい。
「一年ほど滞在していたと言っていたのはこのお屋敷?」
「ううん、そのときはまだ前侯爵がご存命だったから、基本的には本邸にいたよ。でも週末はこっちに来てた。仕事を忘れるために建てた場所なのに、侯爵が仕事の話ばかりするから庭に追い出されていたよ。今日みたいに寒い日も」
ノアは、過去を思い出すように窓の外に目を向けて笑った。
グリーン侯爵夫妻は、ノアが父親の仕事を本格的に手伝い始める前に、経験不足の彼を指導するような立場だった、と聞いている。
貴族の子息が将来の勉強のために別の領地で研鑽を積むことは珍しい話ではない。
――私が何か失敗しても「もういい」と一度も言わなかったから。怒られた時、一番言うことが具体的で、細かかったから。
ノアが、グリーン侯爵邸で勉強したいと父親に頼んだのはそれが理由だったらしい。グリーン侯爵は一度は断ったが、そのあと気が変わったらしく、週末に妻のエリザベス夫人の話相手になることを条件に了承した、ということだ。
「私がここにいるときは、すごく頻繁にお客様を呼んでいたんだけどね。特に侯爵が亡くなってからは全然らしくて……私は仕事の連絡と、一年に一度誕生日に贈り物をするくらいだから、今どんなふうに過ごしているか全然知らなかった」
イリスは今回ノアにここを訪問する話を聞いて、以前イリスがノアに聞いた、“私的なやりとりをしたことのある従妹以外の女性”に当てはまるのがこのご夫人であると気づいた。六十代のご夫人で、ノアは亡くなった主人の世話になったのだと言っていた。
ノアの表情は晴れない。過去たくさんの人に囲まれて過ごしていた旧知の婦人が、今は使用人とたった二人でこの屋敷に住み、家に篭りきりであることに心を痛めているようだった。
部屋の扉が開いた。
「お待たせしたわね」
グリーン夫人が、使用人のサンドラとともに、ワゴンの上に山ほど書籍を積んで持ってきた。全て刺繍の図案である。
「まぁ!」
世界各国の刺繍の図案を集めているのだ、と話には聞いていたが、予想以上の量にイリスは思わず感嘆の声を上げた。イリスが大きすぎる声を出したことに気づいて恥ずかしくなって口元に手を当てると、グリーン夫人が得意げに微笑んだ。
「これで全部じゃないのよ。ここにあるのはわたしのとっておきだけ。イリス夫人は、刺繍がお好きなのよね」
「はい」
「なら貴女は価値を分かってくれるかしら。夫は全然だったわ。それにここにいるサンドラも、刺繍になんて微塵も興味がないのだから」
「細かい作業は苦手なのです」
「あら、でもお菓子作りは得意でしょう?」
グリーン夫人は本をテーブルの上に広げてイリスに見せた。
「どこか興味のある地域はある? お好きに広げて見て構わないわ」
イリスは白い手袋をつけ、並んだ本に一冊ずつ手を伸ばした。
「ススリクのサーラ・アフシャリに、マロナの『針の芸術』に錬国の『四季総覧』も……これはウィントロープの環織花のコレクションですか? まぁ、オリビア・ヘイウッド編の初版だわ!」
イリスが珍しい刺繍の図案に興奮して名前を挙げていくと、グリーン夫人は楽しそうに笑った。ノアとサンドラはよく分からないという顔をしている。ノアが本の一部を覗き込んだ。
「そんなに興奮するようなものなの?」
「王都の図書館でも見れないわよ。知らないの?」
「聞いたこともない。なんでイリスは知っているの?」
「なぜって……常識だからよ」
「絶対常識とは言わないよ。一部の熱狂家だけの秘密の知識だ」
ノアの反論に対して、本の持ち主のグリーン夫人は笑った。
「刺繍にこだわり始めれば、自ずとたどり着く“わたしたちの常識”よ。それで、ノア、貴方は一部の熱狂家だけの秘密の知識に何の用かしら? ヴァンデンブルク家の次期ご当主様は、妻を喜ばせるために二日かけてここまで来るほど手が空くとは思えないけれど」
グリーン夫人がにっこりと美しく微笑んだ。
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