【R18】花喰らいの乙女は吸血お兄様の執愛に溺れる

べらる

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本編

9-2 足枷*

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 熱い、とアザリアは思っていた。
 額から噴き出た汗が、髪を湿らせている。前髪を払い除けたくとも手を動かす気力すら出なくて、与えられる熱に翻弄されるだけ。あの人の顔や指は冷たかったはずなのに、打ち込まれる楔は熱い。過ぎた快楽は苦痛をもたらすとどこかの本で読んだ気がするけれど、そういう意味で、罪人が焼き印を押し当てられる気持ちを味わえた気がした。
 
「っ、ぁ……っ、い、ッ……ッ」

 シーツを爪を立てて、責め苦に耐えて。
 もうどれだけ時間が経ったのか、分からなくなって。

「っ、ひぅ……あっ、い、ぁ……っ」
「まだ、だ。まだ、注ぎ足りない……」
「ぅ、ぁあ……っ」
「アザリア……」
 
 夢と現実の区別がつかなくなり、考える余裕すら与えられずに精を流し込まれる。それでも勢いは止まらず、本当の責め苦のように体を揺さぶられ続けた。抽送が繰り返されるたびに白濁とした液体が掻き出され、腿伝いに落ちていく。

「あっ、い、……ッ、ひぅ、ん……っ」
「尻をもっとあげろ。これではやりにくいだろう」

 言われるがままアザリアが尻を突き出せば、深い部分に挿しこまれてしまう。最奥を小突かれ、逃げようとすれば、すぐに腕を捕まえられて、後ろから抱きすくめられる。胎奥から湧き上がる快感に目を瞑っていれば、今度は顎を掴まれて、唇を奪われる。舌先がこすれあうと、ぞくぞくとした痺れが背中に走った。

「っ、お、に、ぃ、さ、ま……っ」

 唇を開いて、訴える。
 しかし目線を投げかけても、動きはとまらず、今度は逆側の肩に牙が食い込む。鋭い痛みが走って、血を啜りとられる。意識を失いそうになると魔力を与えられ、いつの間にか肩の傷が治っていた。これでは何度噛まれても死ぬことができない。
 
「アザリア……」
「ぃ、や……、や、ぁ……っ」
「アザリア」
「ぁ……っ」

 耳もとで名前を呼ばれるたびに、無意識に首を振って拒絶を示す。
 けれどそれすら許さないというように腕の中に閉じ込められ、全身に甘噛みを受けてしまった。快感が蓄積していき、いやおうなしに昇りつめていく。脳髄はしびれ、呂律も回らなくなっていた。

「アザリア」
 
 また、名前を呼ばれた。
 誰よりも好きな声で、名前を呼ばれただけで腹の下がずぐりと疼くような、甘くて、耳心地のよいお兄様の声。耳もとで声がすると、鼓膜が震わされて、この衝撃がお兄様によって引き起こされたことなんだと、いやでも分からされる。

「仕置きは、まだ終わってない」

 お兄様はそう言うと、アザリアの白い背中に噛み痕を残した。
 
 

 
 *




 古城の地下室に監禁されるようになって、アザリアの生活は一変した。
 
 朝、目が覚めても隣にお兄様がいない。いつもなら、布団のなかでもぞもぞと動いただけで「起きたのか」と囁いてくれるお兄様がいた。けれどもその日からは、どこを見渡しても誰もいない。いつもなら掃除をするために城中を駆けずり回るのに、動き回る度に鎖がじゃらじゃらと音を立て、寝台から出ると格子状の檻が行く手を阻む。

 お兄様に閉じ込められている間に、一月ひとつきが過ぎていた。
 お兄様はいつも決まった時間にやってくるから、数えれば時間の感覚を掴むことができた。湿った土の匂いを纏い、たくさんの花弁を持って部屋を訪れるお兄様を見るたびに、嬉しさが募る。

 花びらを食べさせてくれるお兄様はとても優しかった。
 一摘まみ掴んで、運んでくれる。口を開けて待っていると、濡れた舌の上に花びらの先端が触れる。たっぷりと唾液を出して、すりつぶして、咀嚼する。いったいいつ好みを見抜いたのだろうか、お兄様の摘んできてくれた花はすべて蜜が豊富で、好みの味。アマリリスの花弁を食べさせてもらったときなんて、いま死んでもいいと思うくらいに甘美で、満ち足りた気分になっていた。
 
 ほわほわとした気持ちになると、ふとした瞬間に外のことが気になってしまう。
 だけれどお兄様に城外のことを尋ねると機嫌が悪くなってしまうので、言葉を選んだ。それでもお兄様は眉根を寄せたけれど、それだけだった。「もう行かなくていい」と、お兄様は言う。

「聖女を──仕事を辞めたことになっている。持病が悪化して活動を続けられなくなったと伝えたら、神父も納得した。もう、仕事のことは考えなくていい」
「…………」
「いやがったりしないのか」
「そんなこと、ありえないですよ」

 仕事場で花になるのは同僚たちの心理面に影響するだろうと思って、辞めるつもりだった。相談なくお兄様が神父と掛け合ったのは驚いたけれど、今になって思えば、それが一番良かったのかもしれない。

(親身に心配されるのも、けっこう辛かったりしますから……)

「──また、魔力が減っている」

 お兄様がそんなことを言いだしたのは、向かい合って寝転がっている時だった。お兄様に髪を撫でられていると、眠くなってくるのだ。夢見心地になっているときに、指がアザリアの耳輪をくすぐった。

「出会った頃より、確実に減っている。それでは治癒魔法はおろか、城の掃除をするのも難しいだろうな。……《花喰らい》の症状が進行している証、か」
「……気付きました……?」
「誰よりも傍に居て、見ている。何でも分かる……と言いたいところだが、アザリアは私よりも隠すのが上手いからな」
「もうこれ以上隠し事なんてないですよ」

 微笑みを返しながら、アザリアもまた、魔力が減っている事に気付いていた。食事が喉を通らず、いまはお兄様から与えられる花だけを食べて生きている。お兄様はあれからずっと《花喰らい》について調べてくれているようだ。でも未だに有効な治療法が見つかっていないのだろう、微かな焦燥の色が見える。

「お兄様……」
「食べてくれという言葉は受け付けない。前にも言ったように、アザリアの命は死神にくれてやるつもりはない」
「…………お兄様のその自信は、いったいどこから出てくるか気になりますね……」
「吸血鬼だから、という理由で充分だろう」
「…………」

 強い、なぁ。
 そう思って、アザリアはお兄様の胸板に頭をぐりぐりと押し付けた。まるで猫が飼い主に愛を求めるような恰好だったけれど、構わない。今はそうしたい。そうしたくて、たまらなかった。

(足につけられた鎖が、お兄様と私をずっと繋いでおいてくれたらいいのに……)

 





 翌日。
 アザリアの肩──ちょうど痣がある位置から、植物の芽が出てきた。

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