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ブラコン姉妹は、天使だろうか?(10)

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 美咲からの初恋についての尋問を受けて、ようやく外へと足を運んだ幸一たちは遊園地へ向かっていた。時刻は正午前だが、休日という事もあって多少電車内は混んでいる様子だった。
 
 「遊園地~♪遊園地~♪」
 「美羽はご機嫌だね」
 「だって遊園地だよぉ?それも兄者も一緒に、テンション上がるよぉ」
 「お気楽で良いわね、美羽は。気にならないの?」
 「朝の事?気にならないと言ったら嘘になるけど、今は遊園地の方が優先かなぁ。それに良く言うじゃん?」
 「なに?」
 「初恋は実らない」
 「あぁ……」

 根も葉もない事を言われてしまったが、実際に初恋をしている者の目の前で言わなくても良いではないか。そんな事を思いながら、美咲は車窓から見える景色に視線を動かす。

 「初恋が実らないっていうのは、あれは迷信じゃないの?」
 「う~ん、そもそも兄者以外の男に興味無いというか、恋愛自体も良く分からないんだよねぇ美羽は」
 「はぁ……美羽はお気楽だね」
 「また同じ事言った。まぁそれだけが取り柄だからね、多分」
 
 そんな会話をしている隣で、寝息を立てている幸一へと視線を動かす美羽。恋なんて分からないというのは本心だが、言っている事もあながち嘘ではない。美羽も美咲も、兄が好きというのは本心から来ているモノだからだ。

 「……すぅ……んぅ」
 「ねぇねぇ美咲」
 「何よ、美羽。やらないからね?」
 「まだ何も言ってないよ!?」
 「いやいや、お兄様をじっと眺めてからニヤッとした所を見れば、誰だってそう言うでしょ?しかも美羽の考える事だし……」
 「そういう勝手な解釈って、たまに人を傷付けるからね?美咲。――じゃなくてね?ちょっと勝負しようよ、勝負」
 「勝負?」

 美羽の言った言葉を繰り返して、美咲は『?』を浮かべるように首を傾げる。その反応をした所為で、美羽はニカッと笑みを浮かべて言葉を続けた。

 「そそ、勝負。内容はシンプルだから、美咲にも勝てる可能性あるよぉ~?」
 「むぅ……その言い方だと、毎回私が負けてるように聞こえるんだけど?」
 「ん?そうかなぁ。まぁ美羽の方が勝ってる回数多かったし、間違って無いんじゃない?」
 「むかっ……コホン。良いでしょう。その勝負、受けて立ちます。でもその代わり、負けた方は罰ゲームにしましょう」
 「ふうん、大きく出たね~美咲。まぁ美羽の勝ちで終わるんだけどねぇ♪」
 「それ?勝負の内容は?」
 「それはねぇ……ごにょごにょ」

 美羽も美咲も一緒になって、自分たちが今何処にいるのかという事を忘れているようだ。その証拠に、内緒話をしている様子までの一部始終。それを周囲の人々が微笑ましく眺めていた事に気付いていなかった。ただ一人を除いて……。

 「(くそっ、周囲の視線が恥ずかしい!二人とも、電車の中って事を忘れてるのか!?くっ、このまま寝たふりを続けるか)」

 そう内心であたふたとしている幸一であった。やがて到着した場所は、目的地である遊園地。幸一は二人の妹に両腕を引かれて、華やかな門の下をくぐるのであった――。
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