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「領地とはそこの領主である貴族が治める土地ということは今までも学んできたと思う。そして、その領主の仕事の一つに税を徴収して国に納めるというものがあるだろう」
少し低いウィリデ様の声を聞くと、いつもなら穏やかな気持ちになれた。
「このページの図がわかりやすいかな。ここで集められた税の一部、例えば農民が納める穀物は領地が災害や飢饉に遭ったときに利用するための貯蓄になる。これは領地を経営するための地方税の一部の使い方だね。国に納める国税も備蓄や貿易、国の運営に使われる。税は割合が決まっていて、国で管理されている。勝手に変えることは許されていないことだ」
彼が指差した箇所を見ると、子供向けのような絵が載っていた。
「貴族の年金や僕たちの給料も集めた税から出ているのですね」
「そうだよ。エリュは物分かりがいいね」
ウィリデ様が少し首を傾げた。
そんな様も絵になるが、憂鬱な日には心に響かなかった。
「次に、領地のことを話そうか。先ほど話した地方税があるだろう。これで領地を経営するのだけど、領主が行うことに例えば土木工事がある。領民から集めたお金で道を整えたり、川に土嚢を積んだり、橋をかけたりする。地方税はその土地の領民に還元されるものなんだ」
「僕の家族がしていたように税を横領すると、領民は食べるものがなくなるだけじゃなくて、住んでいる土地も荒れていくのですね」
口元が引き攣ったように歪んだ。
「そうだね。貴族は国から十分な貴族年金をもらっている。その範囲内で生活をするものだ。もしも災害や飢饉など地方税だけで足りないときは国へ支援を申請することができる。承認されたら予算を出してもらえる。…必要以上の贅沢以外の理由で税を横領する必要はないね」
ウィリデ様の声が遠くにあるようだった。
僕の突然の自虐にも優しく言葉を返してくださっているのだろうけど今は真っ当なことを聞きたくなかった。
今日は体調を理由にして休むのだった、と後悔した。
僕と僕の家族は間違っていなかったと信じていたい。
幸せな日々がすべて過ちの上にあったのだと認めようとすると心が軋む。
真実と歪んでいたとしても自分の心を守りたかった。
しかし、自分の心を守るためだけにたくさんの人を犠牲にさたいわけじゃない。それは違う。
貴族だからと、平民を物のように扱っていた自分の過ちを認めるのはつらい。貴族でも他人を物のように扱っていい権利などなかったのだ。それに、平民出身のエンジュを含めたここの使用人たちがぞんざいに扱われるだなんて許せない、という気持ちもある
もう、めちゃくちゃだ。
ここの人たちは僕の覚えの良さを褒めてくれるけど、僕は認められなかった。教育を受けさせてもらっているのに以前の考え方を捨てきれない僕は、自分でも馬鹿で愚かだと思った。
もしも、このままどっちつかずの気持ちで復讐できなかったら、と心が囁いた。
「エリュ、大丈夫?」
ウィリデ様の優しいお声が耳に入ってきて、なぜだか目の前が真っ赤になった。
この一家に復讐したい心の底の部分が、この人に優しくされたくないと叫んでいた。
少し低いウィリデ様の声を聞くと、いつもなら穏やかな気持ちになれた。
「このページの図がわかりやすいかな。ここで集められた税の一部、例えば農民が納める穀物は領地が災害や飢饉に遭ったときに利用するための貯蓄になる。これは領地を経営するための地方税の一部の使い方だね。国に納める国税も備蓄や貿易、国の運営に使われる。税は割合が決まっていて、国で管理されている。勝手に変えることは許されていないことだ」
彼が指差した箇所を見ると、子供向けのような絵が載っていた。
「貴族の年金や僕たちの給料も集めた税から出ているのですね」
「そうだよ。エリュは物分かりがいいね」
ウィリデ様が少し首を傾げた。
そんな様も絵になるが、憂鬱な日には心に響かなかった。
「次に、領地のことを話そうか。先ほど話した地方税があるだろう。これで領地を経営するのだけど、領主が行うことに例えば土木工事がある。領民から集めたお金で道を整えたり、川に土嚢を積んだり、橋をかけたりする。地方税はその土地の領民に還元されるものなんだ」
「僕の家族がしていたように税を横領すると、領民は食べるものがなくなるだけじゃなくて、住んでいる土地も荒れていくのですね」
口元が引き攣ったように歪んだ。
「そうだね。貴族は国から十分な貴族年金をもらっている。その範囲内で生活をするものだ。もしも災害や飢饉など地方税だけで足りないときは国へ支援を申請することができる。承認されたら予算を出してもらえる。…必要以上の贅沢以外の理由で税を横領する必要はないね」
ウィリデ様の声が遠くにあるようだった。
僕の突然の自虐にも優しく言葉を返してくださっているのだろうけど今は真っ当なことを聞きたくなかった。
今日は体調を理由にして休むのだった、と後悔した。
僕と僕の家族は間違っていなかったと信じていたい。
幸せな日々がすべて過ちの上にあったのだと認めようとすると心が軋む。
真実と歪んでいたとしても自分の心を守りたかった。
しかし、自分の心を守るためだけにたくさんの人を犠牲にさたいわけじゃない。それは違う。
貴族だからと、平民を物のように扱っていた自分の過ちを認めるのはつらい。貴族でも他人を物のように扱っていい権利などなかったのだ。それに、平民出身のエンジュを含めたここの使用人たちがぞんざいに扱われるだなんて許せない、という気持ちもある
もう、めちゃくちゃだ。
ここの人たちは僕の覚えの良さを褒めてくれるけど、僕は認められなかった。教育を受けさせてもらっているのに以前の考え方を捨てきれない僕は、自分でも馬鹿で愚かだと思った。
もしも、このままどっちつかずの気持ちで復讐できなかったら、と心が囁いた。
「エリュ、大丈夫?」
ウィリデ様の優しいお声が耳に入ってきて、なぜだか目の前が真っ赤になった。
この一家に復讐したい心の底の部分が、この人に優しくされたくないと叫んでいた。
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