復讐しようとして上手くいかなかった話

菫野

文字の大きさ
18 / 32

18.

しおりを挟む
「領地とはそこの領主である貴族が治める土地ということは今までも学んできたと思う。そして、その領主の仕事の一つに税を徴収して国に納めるというものがあるだろう」

少し低いウィリデ様の声を聞くと、いつもなら穏やかな気持ちになれた。

「このページの図がわかりやすいかな。ここで集められた税の一部、例えば農民が納める穀物は領地が災害や飢饉に遭ったときに利用するための貯蓄になる。これは領地を経営するための地方税の一部の使い方だね。国に納める国税も備蓄や貿易、国の運営に使われる。税は割合が決まっていて、国で管理されている。勝手に変えることは許されていないことだ」

彼が指差した箇所を見ると、子供向けのような絵が載っていた。

「貴族の年金や僕たちの給料も集めた税から出ているのですね」

「そうだよ。エリュは物分かりがいいね」
ウィリデ様が少し首を傾げた。
そんな様も絵になるが、憂鬱な日には心に響かなかった。

「次に、領地のことを話そうか。先ほど話した地方税があるだろう。これで領地を経営するのだけど、領主が行うことに例えば土木工事がある。領民から集めたお金で道を整えたり、川に土嚢を積んだり、橋をかけたりする。地方税はその土地の領民に還元されるものなんだ」

「僕の家族がしていたように税を横領すると、領民は食べるものがなくなるだけじゃなくて、住んでいる土地も荒れていくのですね」
口元が引き攣ったように歪んだ。

「そうだね。貴族は国から十分な貴族年金をもらっている。その範囲内で生活をするものだ。もしも災害や飢饉など地方税だけで足りないときは国へ支援を申請することができる。承認されたら予算を出してもらえる。…必要以上の贅沢以外の理由で税を横領する必要はないね」

ウィリデ様の声が遠くにあるようだった。
僕の突然の自虐にも優しく言葉を返してくださっているのだろうけど今は真っ当なことを聞きたくなかった。
今日は体調を理由にして休むのだった、と後悔した。


僕と僕の家族は間違っていなかったと信じていたい。
幸せな日々がすべて過ちの上にあったのだと認めようとすると心が軋む。
真実と歪んでいたとしても自分の心を守りたかった。

しかし、自分の心を守るためだけにたくさんの人を犠牲にさたいわけじゃない。それは違う。
貴族だからと、平民を物のように扱っていた自分の過ちを認めるのはつらい。貴族でも他人を物のように扱っていい権利などなかったのだ。それに、平民出身のエンジュを含めたここの使用人たちがぞんざいに扱われるだなんて許せない、という気持ちもある

もう、めちゃくちゃだ。
ここの人たちは僕の覚えの良さを褒めてくれるけど、僕は認められなかった。教育を受けさせてもらっているのに以前の考え方を捨てきれない僕は、自分でも馬鹿で愚かだと思った。

もしも、このままどっちつかずの気持ちで復讐できなかったら、と心が囁いた。

「エリュ、大丈夫?」
ウィリデ様の優しいお声が耳に入ってきて、なぜだか目の前が真っ赤になった。
この一家に復讐したい心の底の部分が、この人に優しくされたくないと叫んでいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

【本編完結】落ちた先の異世界で番と言われてもわかりません

ミミナガ
BL
 この世界では落ち人(おちびと)と呼ばれる異世界人がたまに現れるが、特に珍しくもない存在だった。 14歳のイオは家族が留守中に高熱を出してそのまま永眠し、気が付くとこの世界に転生していた。そして冒険者ギルドのギルドマスターに拾われ生活する術を教わった。  それから5年、Cランク冒険者として採取を専門に細々と生計を立てていた。  ある日Sランク冒険者のオオカミ獣人と出会い、猛アピールをされる。その上自分のことを「番」だと言うのだが、人族であるイオには番の感覚がわからないので戸惑うばかり。  使命も役割もチートもない異世界転生で健気に生きていく自己肯定感低めの真面目な青年と、甘やかしてくれるハイスペック年上オオカミ獣人の話です。  ベッタベタの王道異世界転生BLを目指しました。  本編完結。番外編は不定期更新です。R-15は保険。  コメント欄に関しまして、ネタバレ配慮は特にしていませんのでネタバレ厳禁の方はご注意下さい。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

失恋したと思ってたのになぜか失恋相手にプロポーズされた

胡桃めめこ
BL
俺が片思いしていた幼なじみ、セオドアが結婚するらしい。 失恋には新しい恋で解決!有休をとってハッテン場に行ったエレンは、隣に座ったランスロットに酒を飲みながら事情を全て話していた。すると、エレンの片思い相手であり、失恋相手でもあるセオドアがやってきて……? 「俺たち付き合ってたないだろ」 「……本気で言ってるのか?」 不器用すぎてアプローチしても気づかれなかった攻め×叶わない恋を諦めようと他の男抱かれようとした受け ※受けが酔っ払ってるシーンではひらがな表記や子供のような発言をします

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...