【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第三章 愛した人

十二

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「……誰から聞いた」

 僕と五十嵐南の写真を撮った記者か?
 父さんと大学の理事長が話をしているのを聞いたが、記者には示談金を払ってその情報を消させたのに、なぜこいつが知っているんだ? 

「あら、そんな熱を貴方が持ち合わせていたとはね」

綾子は目を細めるように笑う。嘲笑っているようにもみえるその顔を秀也は睨みつける。

「まあ、私に対する淡白な性格は変わらないかしら」と綾子が言った時、時機良く車が最寄り駅に着いた。

「考えておいてね、元婚約者さん」

綾子が扉を開けて外に出ようとするのを秀也は腕を引いて止めた。

「貴女はこれで家に帰って下さい、電車で帰らせると僕の両親がいい顔しませんので」

「あら、ありがとう。もしかして、少しだけ揺れてくれた?」

「いいえ、貴女の復讐のような八つ当たりに巻き込まれたくはありませんので、その話は受け入れません。これが僕の答えです」

「そう、残念」

綾子は長い髪を上品にかきあげて、眉間に皺を寄せ苛立ちを現した。

秀也は車から降りると、運転手に綾子を家に送り届けるのを頼んだ。
車が発進する前に秀也は背を向けた。

「拓海さん、会いたいです」

秀也は拓海の最後のメッセージを見て目を細めた。
スマホがミシと小さな音をたてた。

 気にしたくなかった。五十嵐南が拓海さんの【運命の番】であると。

秀也はあの時、五十嵐南の気迫と呑み込まれそうな感情を受けて、自分の気持ちを見失いそうになった。それだけならまだ秀也は気持ちの整理ができたかもしれない。

そう出来なかったのは、拓海の瞳の奥を覗きみてしまったからかもしれない。お互いが望んで命も身体も番に差し出そうとするあの熱を、秀也は思い出す度に吐きそうになった。
決して自分には、拓海から骨の髄まで求められるような、剥き出した感情を向けられる事は無い、と認めざるを得ないからだ。

綾子が言った言葉に振り回されたのも、秀也は拓海を信じているからこそ、二人が同じ職場で働く事を止めることは出来なかった。
拓海を信じる事が出来なければ、拓海から非難されるだろうと思っての事だった。秀也は拓海の生き方から逃げながら、拓海を受け入れた。それしか、今の秀也には出来なかった。

 大丈夫。拓海さんは俺を選んでくれたんだ。


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