Serendipity∞Horoscope

神月

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夢追い編

第55話、煌めきホロスコープ

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(鋭いとこを突くなあ)

 マスターの提示する可能性に彩音はそう冷や汗をかきながら思い

(けど……)

 そう彩音は笑みを浮かべ口を開くと

「けど、ちゃんと『守れて』よかった」

 そう告げて間もなく、振り向いた六本木が目を丸くしている様子が目に入った彩音は安堵の息を吐き

「異能者とは違う力……神月さんは一体……」

 そう問いかけようとして間もなく、六本木は彩音の表情を見てその口を止めた。
 これまでどこか悲観的で、暗雲が立ち込めていた表情をしていた彼女は安心した様子でいて、それは朱里が無事だったから現れたものだと思われる。
 そして、六本木とは別に彩音の声を受けた朱里は表情を和らげ

「……うん。神月ちゃんが来てくれて本当に良かった」

 そう朱里は心の底から感謝を伝えるように

「お兄ちゃんや一くんもだけど、助けに来てくれた時凄く安心したんだ。本当に、神月ちゃんの力には驚いたけど……」
「へぇ、そんな表情カオも出来るんだ」

 そんな中、視線を向けあっていた朱里と彩音を見ながら新宿はそう笑みを浮かべながら呟き、振り向いた彩音に向け更に言葉を続けると

「今、凄く可愛い顔してたよ」
「こら、新宿!」
「何? 俺は思ったことを言っただけだよ?」

 そんな新宿と都庁のやりとりに彩音は唖然としているとやがて目を伏せる。
 その中で脳内に甦るのはこれまで見てきたものと背負ってきたもの。

(この国に生まれながら、生きてく上で必要な能力がないと思ってきた自分にとってこれはたった一つの存在価値だと思ってた)

 何の意味も見い出せないこの世界に、自分がこの世界で生きる価値が分からない中で、この力は自分が自分である為に必要なもの。

(これが、私の生きる意味。守護者として、力を持たない存在達を守る為にこの世界に存在している)



「国によっては、ああいった魔物が普通に生息している土地もあって、そんな場所を旅してた時があったから魔物の相手は手馴れてるんだ」

 静まり返った空間に彩音の声が聞こえ、その声に六本木達は視線を向ける。

「あの剣はともかく、異能とか以前にそんな世界には魔法とかそういう概念があって……私もいくつかは習って使えるんだ」

 この力を使う理由。

「だから……またもし次魔物に襲われたとしても、必ず私が守ってみせるよ」
「……!」

 そう確かな決意を向けながら発した彩音に六本木と朱里が唖然としていると、やがて彩音を見ていた朱里は目を丸くしながら口を開いた。

「神月ちゃん……かっこいい……!」

 そう瞬く間に目を輝かせた朱里に彩音の表情が変わっていくと

「今のセリフ、何だかお伽話に出てくる王子様みたいだし……!」
「えっ?」
「確かにめっちゃ強かったけど、そんなセリフを現実で言う人初めて見た……!」

 そう目を輝かせ続ける朱里に彩音が困惑すると

「普通現実でそんなこと言われてもうわあって感じだけど、あんな凄いものを見ちゃった後に言われると納得しちゃうのは何なんだろ……!」
「えっと……?」
「確かにびっくりしすぎて何とも言えないけどよ……」

 そうやりとりを見ていた颯紀も息を吐きながら言うと、そんな彼らを見た他の土地達は首を傾げ

「一体どんな光景を見たのですか……?」
「凄かったよねー」

 とそこに朱里の声が響き、彩音と颯紀、六本木が朱里を見ると

「魔物がこっち来た! って思ったら不思議な壁で弾いたり、これでも私達も出会って半年くらいは経つわけでしょ?」
「まあ、そうだな」
「それでまさかあんな事になるなんて思わないでしょ~!」


 ♦


 テレビによる速報が収まり、都庁が確認すればネットニュースには上げられど被害の少なさから話題性が下火になりつつある夕方。

 いつも彩音が帰る時間より少し遅くなってしまい、それは道路などの交通規制が解かれれどまだ電車の交通規制がかかっていることから怪しまれない為にと出された提案から起きたことだった。
 そして更に時間が経ち、日が短くなった事と相まって空が暗くなり始めた頃。

「一部は規制も解除され始めている。これなら戻っても怪しまれることはあるまい」

 そう都庁が交通情報を見ながら告げるとそこに新宿が続き

「思わぬ事故とはいえ、こんな遅くまで彩音ちゃんがいるのも滅多にないことだよ」
「とは言え、文化祭の準備が始まったので最近帰る時間がいつも以上に遅くなってはいるんですけどね」
「クラスの出し物も面白いことになってるって六本木から聞いたし」
「あはは……」

 と彩音は街で見かけた沙織達を思い出すと

「今は学級委員長を主に一部のクラスメイトが準備や計画に取り掛かってるだけですけど、多分装飾とかの準備もするでしょうし」

 そう新宿と話す彩音を見ていた六本木はふと口にし

「……今なら帰っても怪しまれないけど、新宿さんの言う通り、こんなことでもないと神月さんは帰らないといけない……」
「……?」
「ちょっといいことを思いついたんだけど」

 それから間もなく、奇跡の部屋から外に出た一同は六本木が先導しながら街中を歩いていた。そんな中彩音は物珍しく辺りを見渡し

「夜なのに明かりが沢山……」

 そう驚いた様子を口にすれば

「更に大きな音も普通に聞こえるし、東京ではこれが普通の光景……なんだろうな」
「ところで六本木、一体どこに連れ出す気だよ」

 と同じく六本木の後をついていた颯紀が投げかけると、その前にいたゆかりがピンと来たように手を合わせ

「あっ! ひょっとして、あの場所ですか……!?」

 そうゆかりが六本木へ視線を向けながら問いかけると彩音が視線を戻し

「あの場所?」
「夜にしか見せられなくて、こんな時にしか外に出歩けない彩音さんの為に見せたいものと言えば、あれしか思いつきません!」

 とゆかりの声に六本木は振り向くと

「流石天王洲さん、よく分かったね」
「あっ、あの場所かあ!」

 と更に朱里も声を上げ、彩音と颯紀の疑問符にゆかりは小悪魔的な笑みを浮かべ

「ふふ、それは到着するまでの秘密です!」
「……?」
「とっても素敵な場所なんですよ」

 と再びゆかりが彩音に向け話しかけると

「彩音さんが私達の所に来て一員になった後に、東京に興味を持った話を聞いてあの景色を見せたいって六本木さんと話していたのですよ!」

 そう視線を戻し

「彩音さん、お家の人が厳しくていつも夕方には帰ってしまうので中々連れていくタイミングが掴めなかったんですよね……」
「厳しいっていうか、心配性というか……」
「確かに夜まで出歩くのが教育上良くないのは分かるけど勿体無いよ! 学生だから出来ることだって、夜だから昼とはまた違う楽しみとかもあるのに!」

 そう朱里も不満げに口を開き

「カラオケオールとか楽しいし、夜のフライドポテトは罪深いよ~?」
「私としては若者だからと不眠や不健康な生活は避けてもらいたいものだが……」
「青春はお金じゃ買えないんだよ!」

 そんなことを都庁と朱里、そこに新宿や颯紀や月島が加わり話していると彩音へ足並みを合わせた六本木は視線を向け

「いい子でいる事は大切だけど、世の中それが必ずしも正しいとも限らないんだよ」
「…………」
「僕らといる以上、たまには北条くん保護者の目から離れても大丈夫だし……たまには悪い子になっちゃおうよ」
「そんなこと言いますけど六本木さん、今どきこの時間帯まで遊んでる女子高生なんて沢山いますよ。部活動に励んでる方なら尚更、普通にこの辺りの時間に帰宅しますし」
「あはは、それもそうだね」

 単に彩音の家の者が厳しいだけだと六本木は笑いながら

「でも、きっと後悔はさせないから、楽しみにしてて」



 明かりの多い街から外れ、住宅街を進んで行くと坂道を登り間もなく

「そろそろ見えて来たよ」

 そう告げられ階段を登った先で彼らは足を止めた。
 そこは何の変哲もない公園で

「ここって……公園?」

 足を止めた彩音の声に朱里が振り向き

「東京にもこんな公園ってあるんだ……」
「彩音って、結構東京に偏見持ってるよねえ」

 そう彩音に向け朱里がため息をつく傍ら彩音は公園を一通り見渡していた。
 ぱっと見渡すだけで全体が見渡せる程の広さ、つまりは特別広いわけでもなく、設置されている遊具もブランコに鉄棒と特に変わったものは無かった。

「パッと見普通の公園だけど、ここに何が……?」
「神月さん、こっちこっち」

 その時、奥に進んでいた六本木が振り返りながら彩音を呼び、彩音は疑問を掲げながら呼ばれた方へ近づいていく。

「……?」

 半信半疑で六本木の元へ近づき横に並ぶと疑問の態度を向け、そのまま彼の示す方へ視線を向けた時それは飛び込んだ。

「………!」

 その瞬間、何を見せようとこの場へ連れ出したのか分かった。
 高所にあるこの公園からは街が見下ろす形で一望でき、ちょっとした展望台に近かった。
 日が落ち、空が全てを飲み込みそうな黒に染まる中建ち並ぶビル群には明かりが灯っており、道路をを走る車のライトが並列していた。

「凄い……!」

 第一声として現れた感想に彩音は目を輝かせ

「キラキラ光って凄く綺麗……!」
「ここは、高層ビルが立ち並ぶ東京の中でも有数の高所にある公園なんだ」

 そんな彩音に六本木は笑みを浮かべると視線を街並みに戻し

「雑誌に載ったり紹介されるほど有名な訳では無いけど、僕の中では自慢の夜景スポットなんだよ」

 道路を進む車のライト、立ち並ぶビルに灯る光。

「こんな光景テレビでしか見た事ない……! 街の景色でここまで綺麗だなんて、ここまで来るともはや芸術の域だよ……!」
「そ、想像以上に喜んでいますね」

 そう六本木の隣にいたゆかりの一言に我に返ると、そんな彩音の隣に朱里も並び

「さっすが、晴れてたから星も綺麗だねー」
「東京にはまだまだ素敵な場所が沢山あるんですよ? 上野には動物園や博物館もありますし、私の近くではイベントが催される会場もあったりして……」
「東京には色んなものがあるからね」

 とゆかりに対して六本木は笑うと表情を戻し

「でも、大々的に知られていない場所だったり、全体的に見たら有名所として紹介出来るような場所じゃなくても、個人の知る所だからこそいい場所ってあるよね」
「隠れた名所的な?」
「そう。観光地とか、名所としてはそうでもないかもしれないけど、地元だからこそちょっとした自慢が出来る所とか」
「…………」
「僕にとってここがそうなんだ。今日、連れてこられてよかったよ」

 少し離れた所から都庁達が見守る中、街の光を眺めていた彩音は口を開く。

「……前に住んでた場所は、森に囲まれて街どころか近くにビルもデパートもなかった」

 けど……と空を見上げ

「けど……。木の間から見える月と星だけは綺麗だった」
「…………」
「明かりなんて月の光くらいしかなくて、街灯もあるわけなくて。だけど自然の音しか聞こえないあそこは……まるでここと時間の流れが違うみたいに、時の流れなんて感じるものはほとんどなかった」

 やがて、夜景を目に焼き付けていた彩音がふと苦い笑いを浮かべると

「とは言え、こんな真っ暗になるまで帰らないなんて流石に悪い事をしたかな」
「一くんも悪いことを考えるよねえ」

 と彩音に続き朱里が悪い笑みを浮かべ、それに六本木も苦笑いしながら

「だって、こんな時でもなければ連れてこられそうに無かったから……」
「…………」

(悩みなんて、解決しなければいいのに)

 夜景を見つめながら彩音はふと心に唱えた。



 あの日、新幹線の中から次第に変わる景色に、そして立ち並ぶビルに感動した。
 空に向かって高くそびえ立つその姿には、まるで子供のように思わず先を探し見上げてしまいたくなった。

 隙間なく歩いていく人の姿に圧倒された。
 それぞれが己の目的地に向かって様々な方向に進みながら、この道の進む方向など決まっていないのに、まるで決まった通行ルートが作られているように見え不思議だった。

(漫画でしか見たことのなかったブレザーを着てネクタイを締めて、その姿を鏡で見た時には感激して)
 テレビでしか見た事の無い光景を実際に目の当たりにして感動した。

 こんな国はつまらない。

 神から選ばれ、然るべき才を与えられた者しか楽しめない世界で、ここは少しでも道を外れればまともに生きられない世界。
 おとぎ話や物語のように夢のような状況になるわけもなく、なのに普通に生きることすら出来ないこんな世界に自分が生きる意味は何なのか。
 そもそもそんなものがあるのか、ずっとそう思っていた。

(こんなこと、ここに来る前までは全く想像できなかった)

 何億と人が生きる世界で、過去に出会った人達との再会。
 そして都市伝説や言い伝えが現実に存在するものとして、目の前に存在した真実。

(楽しい学校生活とか、恋愛漫画みたいな青春なんて望んでなかった)

 特別な楽しさなんていらないから、せめて普通に時が流れて、普通に終わってくれればよかった。

『やはり『普通』などあり得なかった』

 ふとどこからか知る声が聞こえ、その姿は誰の目にも映らないものの彩音は顔を上げると微かに笑みを浮かべ

「……そうだね」

 その声に六本木やゆかり、朱里が彩音へ視線を向け疑問符を浮かべるが彩音は目を伏せたまま

「だけど、想像していたより悪いものでもなかったよ」
「彩音さん?」

 ゆかりが問いかけ間もなく、夜景に背を向けると彼らに視線を向けながら

「凄く綺麗で感動した。……ありがとう」

 そのまま六本木から視線を来た道に戻すと

「けど、流石にそろそろ帰らなくちゃね」
「そうだな」

 と都庁も彩音の前に出ると

「私と六本木で近くまで送ろう」


 ♦


 放課後、第一生徒会は集まり会議を開いていた。

「さてさて、体育祭の準備は予定通りに進んでるからこのままいくとして、そろそろ文化祭にも手を出さないとねー」

 と会長である夏目が仕切り

「気合いの入ってる部活動やクラスの中には既に文化祭の準備に取り掛かってる所もあるみたいだし? 今年も楽しみ!」
「中には体育祭にも気合いを入れてるクラスもあるだろうに、何故この学校は体育祭が終わらぬ前に文化祭の準備まで始めるんだ」

 と席に着いていた副会長、晴俊が額を押さえながら嘆き

「おかげでただでさえこの時期は詰まり気味な生徒会が、他校以上にてんてこ舞いだぞ」
「それだけ中身の厚い行事にしたいってことだよ♪」

 それでね、と夏目は手元にあった紙を手に取りながら話を続け

「いつものように体育祭や文化祭の各生徒会ごとの役割分担を決めるんだけど、今年は少し大変かもね」
「近年急激に増えた化け物の対策だな?」

 副会長が告げた言葉に城島夏目は頷き

「そ。特に今年に入って頻繁に起きてるし、行事中に起きないとも限らない以上そこの対策はしっかり目処を立てなきゃ駄目ってわけ」
「でもー、そういうのを決めるのは先生っしょー」

 と書記、夢のやる気のない声が聞こえると

「まあ最終的にはそうなんだけどさ? 一応生徒会からも案というか、そういうのは出さなきゃいけないし、そこをサボって万が一今年は規模縮小! とかされたら嫌だし」
「本当、こういうイベントごとになるとやる気を出すのは何なんだ」

 と話を聞いていた晴俊が息を吐くと

「そのやる気を他の事に回せとよく言われないか?」
「余計なお世話ですー」

 と頬を膨らませた夏目は表情を戻し

「でも、今年は第三生徒会も設立されたし? 人員が増えた分やれる事の幅も広がったと思うのよね?」
「まあ、毎年恒例ボランティアも募るしな」
「第三生徒会は一年ばっかりだからこういう行事は初だけど、ユキちゃんがいるから説明とかは任せられるし」
「また緒方任せか……」
「何にせよ、今年も盛り上げる為に頑張るからね!」
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